シャフト作品について楽しくお喋りする『もにラジ』 。第5回では引き続き『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ 外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』を取り上げています。前回は2nd SEASON 1話の放送直後に座談会をしましたが、今回も北出栞さん(@sr_ktd )とabさん(@abacus_ha )の同じメンバーで2nd SEASON全体の振り返りを行いました。Final SEASONの放送を控えていますので、ぜひ副読的に読んで頂ければ幸いです。
※前回の「2nd SEASON 1話感想会 」は下記リンクより読めます。
Final SEASONのネタバレとなる要素はカットしていますが、アニメ未登場の魔法少女 の話や、原作ゲームの第2部の話などをしている箇所がありますので、気になる方は注意してください。なお、本記事はFinal SEASON放送延期が発表される前に収録したものとなっています。ご承知おきください。
お便りとファンアートはあにもに(@animmony )のDMまで。どしどし募集中です!
◆参加者プロフィール
北出栞 (@sr_ktd )
最近ゲームの第2部8章を読み終えたら、前回推しとして挙げた魔法少女 が軒並み大変なことになってしまっていて震え上がりました。
ab (@abacus_ha )
海外ドラマを観る回数がアニメを観る回数より大幅に上回った2021年でした。
あにもに (@animmony )
シャフトアニメを観えるオタクちゃん。礼を言う。 少年少女前を向く、暮れる炎天さえ希望論だって。
【メディアミックスとしてのアニメ】
【マギウスの思想変化】
【キャラク ターの心理描写】
【メタフィクション としての黒江】
【Final SEASONに向けて】
【告知】
【メディアミックスとしてのアニメ】
あにもに: 本日はよろしくお願いします。『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ 外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』(2021年)パッケージの第1巻発売記念として2nd SEASONの振り返り大感想会をやりたいと思い、前回と同じメンバーにお集まり頂きました。放送から時間が空いてしまったので、軽く雑談しながら感想戦 をやっていければと思います。まずは全体の総括について、北出さんから所感をお願いしても良いでしょうか。
北出: うーん……。
あにもに: うーんから始まりました(笑)。
北出: Final SEASONがまだ放送されないので、今だと言えることが少なくて、2nd SEASONのみでどう語ったものか悩ましいのです。
あにもに: 2nd SEASONは8話で終わりましたが、あそこで物語を区切る意味はほとんどなく、はっきり言ってしまえば未完です。端的に制作上の都合というか、プロダクションのスケジューリングの問題だと思いますので、恣意的にストーリーを切ってしまっている側面はあります。
北出: アニメの2nd SEASONが放送されている間もゲームの方ではメインストーリーの第2部「集結の百禍編」の更新が続いていて、そちらではひとつのクライマックス――第2部7章「トワイライト・レムナント」で、当面の敵役であった「プロミストブラッド」との決着が付いた――を迎えるタイミングがありました。ゲームの方のシナリオが非常に良かったことも手伝って、『マギレコ』の面白さはゲームの形式だからこそ成立している部分があるな、ということはあらためて思いました。
あにもに: それはストーリー面で、ということですか?
北出: そうですね。アニメではホテルフェントホープ 以降のストーリーの流れをまとめようと、「迎撃遊園要塞・キレーションフェントホープ のウワサ」と称してウワサの鶴乃とホーリー マミの話を一緒にやりましたが、この辺りはどうしてもスポイルされてしまった部分があったと思います。
『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ 外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』 5話「もう誰も許さない」
あにもに: 原作の7章から9章にあたる長大なストーリーをアニメでは強引に一本化してまとめ上げた感じですね。実際は鶴乃の話が中心で、ホーリー マミの話はおおよそカットしたと言っても良いと思います。ホーリー マミに関しては使える尺が短いながらも、鶴乃の問題と心情的に重ね合わせる形を取ることで、そこそこ無難に描けていたとは感じますが。
北出: ゲームではもっと群像劇的だったので、かなり削ぎ落としている部分があったという印象を持ちました。ゲームでは東の果てにある大東区の遊園地跡地「キレーションランド」でウワサの鶴乃戦をやって、その後にマギウスの本拠地である「ホテルフェントホープ 」に突撃する、といった流れでしたよね。ゲームでは移動をビジュアルとしては描けませんが、地図としてプロットすることによって表現はしていました。
あにもに: たしかにアニメでは移動が省略される傾向にあり、2nd SEASONでも異なる舞台を合体させることによってこの問題を解決しようとしました。これは前回の座談会で言及した「地理感覚の喪失」にも繋がる問題ですね。
北出: またホテルフェントホープ での戦いは基本的に屋内戦で段々とホテルの奥へ奥へと入っていく展開で、イメージ的にはとても暗い感じがありました。
あにもに: 感覚的に言えばホテルフェントホープ はダンジョンを攻略していく感じですよね。
北出: そうですね。それがストーリーが核心に向かっていく流れとシンクロしていたと思います。アニメでは遊園地とホテルがセットになった……というより、画的にはほぼ遊園地になりましたよね。「暗いところに向かっていく」ことを象徴する舞台装置だったホテルフェントホープ が消えてしまった。
あにもに: たしかにセットになったと言うよりは、ホテルフェントホープ の章をほとんどカットした構成と言っても良いかもしれません。
北出: むしろ構成が逆になっているんですよね。最初にいろはたちがホテルフェントホープ に潜入しますが、そこから脱出して遊園地に移るわけで。明るいところから暗いところに行くのではなく、暗いところから明るいところに向かっている。
あにもに: なるほど。そういう言い換えはたしかに出来ますね。
北出: エンブリオ ・イブにしてもゲームではホテルフェントホープ 編の最後の方に登場していました。ホテルフェントホープ のダンジョン感があったからこそ、最終的に辿り着いたところにイブという巨大な存在が現れて、事の重大さが初めて理解されるといった展開で。瘴気の濃い場所でマギウスたちが優雅にお茶を飲んでいて、イブのヤバさとマギウスのヤバさが同時に表れていたシーンは印象的でしたよね。
あにもに: イブに関しては前半のオープニングからすでにシルエットは出ていましたが、本編では2nd SEASON 5話時点でお披露目でしたね。
北出: イブが魔女を食っている姿をさなとフェリシア と杏子が目撃するという話で出てきました。構成をイブとマギウスに集約させる作り方にしていないから、ドキドキ感がゲームと比べて少なかったと思ったんです。
あにもに: abさんはどうでしたでしょうか。
ab: まさに1クールアニメの8話のような終わり方だな、と(笑)。ストーリー展開的には原作ゲームの物語と辻褄を合わせるよりも、『魔法少女まどか☆マギカ 』(2011年)本編の方と辻褄を合わせることを重視している印象を持ちました。ゲームとアニメではストーリーが全然違う展開になっていますから。
あにもに: もはや完全に別物と言っても良いですね。2nd SEASONではある程度オリジナル要素が強くなってくるとは思っていましたが、ここまで違う展開が続くとは予想だにしませんでした。
ab: ゲームをプレイしていない新規の視聴者の感想などを見ると、本格的にストーリーが動き出したといった感想が多く見受けられました。また、2nd SEASON 8話の最後に出てくる「THIS IS A STORY OF FAILURE」(これは失敗の物語である)の魔女文字のテロップは、アニメ『マギレコ』の核心に近いものではないかと。終盤の見滝原組との別れに関しても、『まどか』アニメ本編との繋がりの視点から見ると個人的には納得のいく展開ではありました。
『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ 外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』 8話「強くなんかねーだろ」
あにもに: ワルプルギスの夜 をめぐる動きもそうですよね。そういえば世界線 の設定は今どうなっていましたっけ?
北出: 『マギレコ』では「環いろはが魔法少女 になる世界はこのひとつだけしかない」という設定がありますが、そういう意味でメディアミックスをどう捉えているかといった問題はあると思います。別作品になりますが、この前『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション 』(2021年)を観てきて。そこではこれまでのメディアミックスをすべて可能世界と解釈して、それを物語レベルで総括するということをやっていたんですね。『マギレコ』はアニメをゲームのバリエーションとして捉えているのか、設定レベルで異なる世界として捉えているのかは少し気になります。
あにもに: いろはの設定を考えるとバリエーションのひとつとと捉えるのが正しいんですかね。その場合どういう風にオチを付けるのかが気になりますが。
北出: なので僕が推しているのは『マギレコ』のアニメ版は全部「黒江の夢」説ですね。
あにもに: 黒江をめぐるテーマは謎が多いので、北出さんの夢オチ説含めて後ほどまた詳しく聞かせてください。自分もみなさんと概ね同じ感想ですが、2nd SEASONを通して一番顕著に感じたのは、やはり脚本作りに大変苦労されたんだなという点に尽きます。総監督である劇団イヌカレー の泥犬さんの葛藤が良い意味でも悪い意味でも手に取るように分かると言うか……どうしたらこの物語をまとめ上げられるのか、といった思考のプロセスを生々しく追体験 しているようでした。ゲームの世界観を網羅的に把握してキャラク ター描写を丁寧に描きたいという一方で、まさに黒江に代表されるアニメオリジナルの設定を組み合わせることに苦心していて。
ab:2nd SEASON に入って脚本家も新しく増えました。
あにもに: 高山カツヒコさんが新規に参加されたのも示唆的だったと思います。Final SEASONを受けて評価が修正される可能性は十分ありますが、今のところ雲行きがやや怪しいなと素朴に思っています。話は脱線しますが、個人的に今『月姫 』のリメイク版をプレイしているのですが、これがかつての原作から全然違うものになっていて……。特にシエル先輩のルートは、大枠としてやりたい方向性は変わっていないのですが、それこそまったく知らないキャラク ターが当たり前のように重要な役割を与えられてストーリーに出てきたりしていて、ほとんど原作から別物になっているんです。そういう意味でアニメの『マギレコ』は、ゲームのアニメ化という翻案を超えて、正しくは泥犬さんバージョンの「リメイク」に近いのかなと思いました。それとこれはどうしてもこの場で言っておく必要があると思うのですが、シャフトの制作スケジュールが近年トップクラスに崩壊していて、とんでもないことになっていました。
北出: 今回のシャフトのスケジュールについてはシャフトオタクのお二人から見ても相当ですか?
あにもに: 明らかにピンチですね。テレビアニメとしては過去ワーストを争うくらいのスケジュール感な気がします。少なくとも『化物語 』(2009年)と同レベルくらいにヤバいですよね。『マギレコ』の裏でひそかに『美少年探偵団』(2021年)のパッケージ最終巻の発売が延期していて個人的に非常に悲しいです。
ab: 『化物語 』以上ではないかと。『化物語 』が一番ヤバかったのは作画的には「なでこスネイク 」、絵コンテ的には「つばさキャット 」でしたが、『マギレコ』に関してはどちらも間に合っていない雰囲気があります。
あにもに: そもそも脚本が遅れているのが要因で、それで全体の進捗が滞っているのではないかと勝手に想像しています。それにFinal SEASONを別けていて、あたかも最初からこの放送形態だったかのように謳っていますが、これも単純に制作が間に合っていない中で編み出した分割作戦でしょう。今年の夏クールに2nd SEASONが放送されるという告知も、一ヶ月くらい前にいきなり発表されるなどカオスな展開でした。これはシャフトが原因というよりは、アニプレックス 側の問題な気もしますが。
北出: 夏に放送があったのは『マギレコ』ゲーム4周年のタイミングと合わせるためなんですかね。
あにもに: それはほぼ間違いないでしょう。4周年記念絡みでいろいろとゲームとのコラボレーションもありましたから。
北出:2nd SEASON 8話でいろはとまどかが一緒に弓を番えるシーンとかですね。あれはガチャで実装されましたが、結局放送が遅れてタイミングが合いませんでした。
VIDEO あにもに: 本当はアニメとゲームのガチャ実装の時期を合わせるつもりだったはずが、結果的に放送を落とした影響でタイミングがズレてしまうという中々に愉快な事態が起きていました。そういう諸々の機会損失があったという意味では、たしかにabさんも仰るように歴代ワースト級のスケジュール感ではありますね。
北出: やはりゲームのサイクルとテレビアニメのサイクルでは時間感覚が内外で違うと思います。ユーザーとキャラク ターとの関係といった点でもそうですし、楽しみ方についても1週間に1回のテレビアニメ方式と、能動的でシナリオが細切れになっているゲーム方式では、経験として全然違うものになる。
あにもに: この前、北出さんが仰っていましたが、『マギレコ』が毎週きちんと放送されない影響で、アニメを観る習慣が無くなってしまったんですよね?
北出: 無くなりました(笑)。僕はシャフトにアニメを観る習慣を2回殺されているんですよ。
あにもに: え! 2回!?
北出: まさに1回目は『化物語 』の「なでこスネイク 」でした。当時は深夜アニメを見始めたばかりの頃で、京アニ 作品から入って「へえ、シャフトという制作会社もあるんだ」と知って、その頃に放送していたのが『化物語 』だったんです。面白く観ていたんですが、急に黒駒と赤駒だらけになって(笑)。「あ、深夜アニメというのは放送されないこともある文化なんだ」と思って、期待するのを1回やめてしまったんです。
あにもに: これまでは紆余曲折ありながらも辛うじて放送にこぎつけていましたが、今回は総集編が4回もありました。ゲーム4周年もそうですが、『まどか』シリーズ10周年ということもあり、どうしても2021年の内にやりたかったという思惑が強かったのは十分理解できますが、そのために諸々犠牲にした感じはありました。
北出: アニメ版は『まどか』シリーズの中の『マギレコ』の立ち位置の難しさをあらためて浮き彫りにしたと思います。僕はずっと主張しているように『マギレコ』は『まどか』と独立した作品として好きなので、本編のことは気にせず純粋に面白いものを作って欲しいです。
あにもに: これも原作との違いという話にも関わってくると思うのですが、神浜の物語にこれだけ見滝原組が関わってきたのも、シリーズ10周年とある程度関係があるような気がしています。単純にアナザーストーリーの要素をメインストーリーに混ぜ込んだ風でもなく、そう考えると2nd SEASON 1話は象徴的なエピソードでした。
ab: ただ、2nd SEASON 1話のストーリー自体はその後の話と関わりが薄いですよね。単体で完全に独立した話になっているので、全体のプロットから考えると必要性は少ない気もします。ファンサービスとしては嬉しいですが。
あにもに: とはいえ単体として観た時の2nd SEASON 1話のクオリティは半端なく良いですから。
北出: そこが引き裂かれるところですね。
続きを読む