もにも~ど

アニメーション制作会社シャフトに関係するものと関係しないものすべて

C99『号外もにも~ど』ありがとうございました!

新年あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします。

という挨拶はいったん置き、コミケ(C99)に参加された皆さまお疲れ様でした。当サークルは初参加で初めて同人誌を出しまして、余ったらとりあえず全部通販に回そうかな~と考えていましたが、予想以上の反響があり、開場から3時間弱で完売となりました。あらためてブースに来て頂いた方や差し入れを持ってきて頂いた方など、本当にありがとうございました!

今回、人数制限などもありコミケに来られなかった方々も多いかと思いますので、『号外もにも~ど』は通販での頒布も検討しています。諸々の準備が整い次第、別途告知をする予定ですので、お待ちいただけますと幸いです。

以下は当日撮った写真です。

f:id:moni1:20220102225308j:plain2021年12月31日の朝です。寒すぎて寒かったです。

f:id:moni1:20220102225351j:plain会場内の様子です。

f:id:moni1:20220102225518j:plain設営完了しました。色紙は『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON-覚醒前夜-』Blu-ray第1巻 SHAFT TEN限定特典です。山村洋貴さんは神。

f:id:moni1:20220102225520j:plainabさん(@abacus_ha)作の値札です。「『美少年探偵団』2期決定」とうつろに呟きながら前日の深夜3時に作っていました。写真に写っているZONeは知り合いのオタクから差し入れでもらいまして、美味しくいただきました。ありがとうございました!

f:id:moni1:20220102225522j:plain撤収しました。今回コミケが無事開催できて本当に良かったです。
また次回も本を作る予定です。引き続きよろしくお願いします!




 

シャフト論考集『号外もにも~ど』発刊のお知らせ【C99 2日目 東L17a】

2021年12月31日(金)に開催されるコミックマーケット99にて、シャフト論考集の予告本として『号外もにも~ど』を発刊いたします!

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タイトル:『号外もにも~ど』
ページ数:66ページ
頒布場所:コミックマーケット99 2日目
 ブース:東L17a
  価格:500円

イラスト寄稿

Silver(@SLVR79
八星黄一(@shinpashi
YU(@riderlimited
ab(@abacus_ha

 

目次

【ラジオ】『もにラジ』番外地「序文に代えて」
あにもに(@animmony) + ab(@abacus_ha

 

【批評】『傷物語』論/豫
水野幸司(@potatovirusXXXX

 

【データ】『美少年探偵団』全話作画スタッフ一覧表
蘚苔エロチカ(苔)(@_johann_hedwig

 

【ラジオ】『もにラジ』番外地「2021年シャフト総括会」
あにもに(@animmony) + ab(@abacus_ha

 

【コラム】『傷物語』と建築的風景
あにもに(@animmony

 

【ラジオ】『もにラジ』番外地「『もにラジ』について」
あにもに(@animmony) + ab(@abacus_ha

 

編集・組版:あにもに(@animmony
 共同編集:ab(@abacus_ha
   表紙:ab(@abacus_ha
  裏表紙:水野幸司(@potatovirusXXXX

コミケWebカタログページ → もにも~ど | Comike Web Catalog

本誌はアニメ会社シャフトにまつわるイラスト・原稿を集めた合同誌になります。
今回、来たるシャフト本に向けての予告本として合同誌を作りましたが、寄稿してくださったシャフト好きの皆様のおかげで、かなり読み応えのある内容に仕上がりました。

この本一冊で、「2020年代のシャフトアニメのライン」が分かると同時に、なかなか論じられにくい様々なシャフトについての知見が必ず広がります。冬コミにお立ち寄りの際は、ぜひお手にとっていただけますと幸いです。

表紙はabさん、裏表紙は水野さんが描いてくださっています。
以下、お二人からコメントを頂いています。

abさん(表紙担当)
ヴィジュアル・イリュージョン。『さよなら絶望先生』死期希望。
 
水野さん(裏表紙担当)
「シャフトっぽい」という言葉を聞く時、そのイメージにはどこか常に尾石達也の影が潜んでいる。今回の背表紙のデザインはその意味における「シャフトっぽさ」と引き伸ばされ加工されたどこかの空の画像にシャフトの風景を仮託してデザインした。

また、abさんが素敵な宣伝イラストを作ってくださいました!
某誌のパロディとなっているようです。

12/31(金)コミックマーケット東L-17aで待ってます、きっと見に来てくださいね。

『もにラジ』第5回「『マギアレコード 2nd SEASON -覚醒前夜-』大感想会」

シャフト作品について楽しくお喋りする『もにラジ』。第5回では引き続き『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』を取り上げています。前回は2nd SEASON 1話の放送直後に座談会をしましたが、今回も北出栞さん(@sr_ktd)とabさん(@abacus_ha)の同じメンバーで2nd SEASON全体の振り返りを行いました。Final SEASONの放送を控えていますので、ぜひ副読的に読んで頂ければ幸いです。

※前回の「2nd SEASON 1話感想会」は下記リンクより読めます。

Final SEASONのネタバレとなる要素はカットしていますが、アニメ未登場の魔法少女の話や、原作ゲームの第2部の話などをしている箇所がありますので、気になる方は注意してください。なお、本記事はFinal SEASON放送延期が発表される前に収録したものとなっています。ご承知おきください。

お便りとファンアートはあにもに(@animmony)のDMまで。どしどし募集中です!

 

◆参加者プロフィール

f:id:moni1:20210811211025p:plain 北出栞@sr_ktd

最近ゲームの第2部8章を読み終えたら、前回推しとして挙げた魔法少女が軒並み大変なことになってしまっていて震え上がりました。

f:id:moni1:20200901223758p:plain ab@abacus_ha

海外ドラマを観る回数がアニメを観る回数より大幅に上回った2021年でした。

f:id:moni1:20200721220522p:plain あにもに@animmony

シャフトアニメを観えるオタクちゃん。礼を言う。
少年少女前を向く、暮れる炎天さえ希望論だって。

  • 【メディアミックスとしてのアニメ】 
  • 【マギウスの思想変化】 
  • 【キャラクターの心理描写】 
  • メタフィクションとしての黒江】 
  • 【Final SEASONに向けて】 
  • 【告知】

【メディアミックスとしてのアニメ】 

あにもに:本日はよろしくお願いします。『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』(2021年)パッケージの第1巻発売記念として2nd SEASONの振り返り大感想会をやりたいと思い、前回と同じメンバーにお集まり頂きました。放送から時間が空いてしまったので、軽く雑談しながら感想戦をやっていければと思います。まずは全体の総括について、北出さんから所感をお願いしても良いでしょうか。

北出:うーん……。

あにもに:うーんから始まりました(笑)。

北出:Final SEASONがまだ放送されないので、今だと言えることが少なくて、2nd SEASONのみでどう語ったものか悩ましいのです。

あにもに:2nd SEASONは8話で終わりましたが、あそこで物語を区切る意味はほとんどなく、はっきり言ってしまえば未完です。端的に制作上の都合というか、プロダクションのスケジューリングの問題だと思いますので、恣意的にストーリーを切ってしまっている側面はあります。

北出:アニメの2nd SEASONが放送されている間もゲームの方ではメインストーリーの第2部「集結の百禍編」の更新が続いていて、そちらではひとつのクライマックス――第2部7章「トワイライト・レムナント」で、当面の敵役であった「プロミストブラッド」との決着が付いた――を迎えるタイミングがありました。ゲームの方のシナリオが非常に良かったことも手伝って、『マギレコ』の面白さはゲームの形式だからこそ成立している部分があるな、ということはあらためて思いました。

あにもに:それはストーリー面で、ということですか?

北出:そうですね。アニメではホテルフェントホープ以降のストーリーの流れをまとめようと、「迎撃遊園要塞・キレーションフェントホープのウワサ」と称してウワサの鶴乃とホーリーマミの話を一緒にやりましたが、この辺りはどうしてもスポイルされてしまった部分があったと思います。

f:id:moni1:20211213201258p:plain『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』
5話「もう誰も許さない」

あにもに:原作の7章から9章にあたる長大なストーリーをアニメでは強引に一本化してまとめ上げた感じですね。実際は鶴乃の話が中心で、ホーリーマミの話はおおよそカットしたと言っても良いと思います。ホーリーマミに関しては使える尺が短いながらも、鶴乃の問題と心情的に重ね合わせる形を取ることで、そこそこ無難に描けていたとは感じますが。

北出:ゲームではもっと群像劇的だったので、かなり削ぎ落としている部分があったという印象を持ちました。ゲームでは東の果てにある大東区の遊園地跡地「キレーションランド」でウワサの鶴乃戦をやって、その後にマギウスの本拠地である「ホテルフェントホープ」に突撃する、といった流れでしたよね。ゲームでは移動をビジュアルとしては描けませんが、地図としてプロットすることによって表現はしていました。

あにもに:たしかにアニメでは移動が省略される傾向にあり、2nd SEASONでも異なる舞台を合体させることによってこの問題を解決しようとしました。これは前回の座談会で言及した「地理感覚の喪失」にも繋がる問題ですね。

北出:またホテルフェントホープでの戦いは基本的に屋内戦で段々とホテルの奥へ奥へと入っていく展開で、イメージ的にはとても暗い感じがありました。

あにもに:感覚的に言えばホテルフェントホープはダンジョンを攻略していく感じですよね。

北出:そうですね。それがストーリーが核心に向かっていく流れとシンクロしていたと思います。アニメでは遊園地とホテルがセットになった……というより、画的にはほぼ遊園地になりましたよね。「暗いところに向かっていく」ことを象徴する舞台装置だったホテルフェントホープが消えてしまった。

あにもに:たしかにセットになったと言うよりは、ホテルフェントホープの章をほとんどカットした構成と言っても良いかもしれません。

北出:むしろ構成が逆になっているんですよね。最初にいろはたちがホテルフェントホープに潜入しますが、そこから脱出して遊園地に移るわけで。明るいところから暗いところに行くのではなく、暗いところから明るいところに向かっている。

あにもに:なるほど。そういう言い換えはたしかに出来ますね。

北出:エンブリオ・イブにしてもゲームではホテルフェントホープ編の最後の方に登場していました。ホテルフェントホープのダンジョン感があったからこそ、最終的に辿り着いたところにイブという巨大な存在が現れて、事の重大さが初めて理解されるといった展開で。瘴気の濃い場所でマギウスたちが優雅にお茶を飲んでいて、イブのヤバさとマギウスのヤバさが同時に表れていたシーンは印象的でしたよね。

あにもに:イブに関しては前半のオープニングからすでにシルエットは出ていましたが、本編では2nd SEASON 5話時点でお披露目でしたね。

北出:イブが魔女を食っている姿をさなとフェリシアと杏子が目撃するという話で出てきました。構成をイブとマギウスに集約させる作り方にしていないから、ドキドキ感がゲームと比べて少なかったと思ったんです。

あにもに:abさんはどうでしたでしょうか。

ab:まさに1クールアニメの8話のような終わり方だな、と(笑)。ストーリー展開的には原作ゲームの物語と辻褄を合わせるよりも、『魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)本編の方と辻褄を合わせることを重視している印象を持ちました。ゲームとアニメではストーリーが全然違う展開になっていますから。

あにもに:もはや完全に別物と言っても良いですね。2nd SEASONではある程度オリジナル要素が強くなってくるとは思っていましたが、ここまで違う展開が続くとは予想だにしませんでした。

ab:ゲームをプレイしていない新規の視聴者の感想などを見ると、本格的にストーリーが動き出したといった感想が多く見受けられました。また、2nd SEASON 8話の最後に出てくる「THIS IS A STORY OF FAILURE」(これは失敗の物語である)の魔女文字のテロップは、アニメ『マギレコ』の核心に近いものではないかと。終盤の見滝原組との別れに関しても、『まどか』アニメ本編との繋がりの視点から見ると個人的には納得のいく展開ではありました。

f:id:moni1:20211213201331p:plain『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』
8話「強くなんかねーだろ」

あにもに:ワルプルギスの夜をめぐる動きもそうですよね。そういえば世界線の設定は今どうなっていましたっけ?

北出:『マギレコ』では「環いろはが魔法少女になる世界はこのひとつだけしかない」という設定がありますが、そういう意味でメディアミックスをどう捉えているかといった問題はあると思います。別作品になりますが、この前『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』(2021年)を観てきて。そこではこれまでのメディアミックスをすべて可能世界と解釈して、それを物語レベルで総括するということをやっていたんですね。『マギレコ』はアニメをゲームのバリエーションとして捉えているのか、設定レベルで異なる世界として捉えているのかは少し気になります。

あにもに:いろはの設定を考えるとバリエーションのひとつとと捉えるのが正しいんですかね。その場合どういう風にオチを付けるのかが気になりますが。

北出:なので僕が推しているのは『マギレコ』のアニメ版は全部「黒江の夢」説ですね。

あにもに:黒江をめぐるテーマは謎が多いので、北出さんの夢オチ説含めて後ほどまた詳しく聞かせてください。自分もみなさんと概ね同じ感想ですが、2nd SEASONを通して一番顕著に感じたのは、やはり脚本作りに大変苦労されたんだなという点に尽きます。総監督である劇団イヌカレーの泥犬さんの葛藤が良い意味でも悪い意味でも手に取るように分かると言うか……どうしたらこの物語をまとめ上げられるのか、といった思考のプロセスを生々しく追体験しているようでした。ゲームの世界観を網羅的に把握してキャラクター描写を丁寧に描きたいという一方で、まさに黒江に代表されるアニメオリジナルの設定を組み合わせることに苦心していて。

ab:2nd SEASONに入って脚本家も新しく増えました。

あにもに:高山カツヒコさんが新規に参加されたのも示唆的だったと思います。Final SEASONを受けて評価が修正される可能性は十分ありますが、今のところ雲行きがやや怪しいなと素朴に思っています。話は脱線しますが、個人的に今『月姫』のリメイク版をプレイしているのですが、これがかつての原作から全然違うものになっていて……。特にシエル先輩のルートは、大枠としてやりたい方向性は変わっていないのですが、それこそまったく知らないキャラクターが当たり前のように重要な役割を与えられてストーリーに出てきたりしていて、ほとんど原作から別物になっているんです。そういう意味でアニメの『マギレコ』は、ゲームのアニメ化という翻案を超えて、正しくは泥犬さんバージョンの「リメイク」に近いのかなと思いました。それとこれはどうしてもこの場で言っておく必要があると思うのですが、シャフトの制作スケジュールが近年トップクラスに崩壊していて、とんでもないことになっていました。

北出:今回のシャフトのスケジュールについてはシャフトオタクのお二人から見ても相当ですか?

あにもに:明らかにピンチですね。テレビアニメとしては過去ワーストを争うくらいのスケジュール感な気がします。少なくとも『化物語』(2009年)と同レベルくらいにヤバいですよね。『マギレコ』の裏でひそかに『美少年探偵団』(2021年)のパッケージ最終巻の発売が延期していて個人的に非常に悲しいです。

ab:化物語』以上ではないかと。『化物語』が一番ヤバかったのは作画的には「なでこスネイク」、絵コンテ的には「つばさキャット」でしたが、『マギレコ』に関してはどちらも間に合っていない雰囲気があります。

あにもに:そもそも脚本が遅れているのが要因で、それで全体の進捗が滞っているのではないかと勝手に想像しています。それにFinal SEASONを別けていて、あたかも最初からこの放送形態だったかのように謳っていますが、これも単純に制作が間に合っていない中で編み出した分割作戦でしょう。今年の夏クールに2nd SEASONが放送されるという告知も、一ヶ月くらい前にいきなり発表されるなどカオスな展開でした。これはシャフトが原因というよりは、アニプレックス側の問題な気もしますが。

北出:夏に放送があったのは『マギレコ』ゲーム4周年のタイミングと合わせるためなんですかね。

あにもに:それはほぼ間違いないでしょう。4周年記念絡みでいろいろとゲームとのコラボレーションもありましたから。

北出:2nd SEASON 8話でいろはとまどかが一緒に弓を番えるシーンとかですね。あれはガチャで実装されましたが、結局放送が遅れてタイミングが合いませんでした。

あにもに:本当はアニメとゲームのガチャ実装の時期を合わせるつもりだったはずが、結果的に放送を落とした影響でタイミングがズレてしまうという中々に愉快な事態が起きていました。そういう諸々の機会損失があったという意味では、たしかにabさんも仰るように歴代ワースト級のスケジュール感ではありますね。

北出:やはりゲームのサイクルとテレビアニメのサイクルでは時間感覚が内外で違うと思います。ユーザーとキャラクターとの関係といった点でもそうですし、楽しみ方についても1週間に1回のテレビアニメ方式と、能動的でシナリオが細切れになっているゲーム方式では、経験として全然違うものになる。

あにもに:この前、北出さんが仰っていましたが、『マギレコ』が毎週きちんと放送されない影響で、アニメを観る習慣が無くなってしまったんですよね?

北出:無くなりました(笑)。僕はシャフトにアニメを観る習慣を2回殺されているんですよ。

あにもに:え! 2回!?

北出:まさに1回目は『化物語』の「なでこスネイク」でした。当時は深夜アニメを見始めたばかりの頃で、京アニ作品から入って「へえ、シャフトという制作会社もあるんだ」と知って、その頃に放送していたのが『化物語』だったんです。面白く観ていたんですが、急に黒駒と赤駒だらけになって(笑)。「あ、深夜アニメというのは放送されないこともある文化なんだ」と思って、期待するのを1回やめてしまったんです。

あにもに:これまでは紆余曲折ありながらも辛うじて放送にこぎつけていましたが、今回は総集編が4回もありました。ゲーム4周年もそうですが、『まどか』シリーズ10周年ということもあり、どうしても2021年の内にやりたかったという思惑が強かったのは十分理解できますが、そのために諸々犠牲にした感じはありました。

北出:アニメ版は『まどか』シリーズの中の『マギレコ』の立ち位置の難しさをあらためて浮き彫りにしたと思います。僕はずっと主張しているように『マギレコ』は『まどか』と独立した作品として好きなので、本編のことは気にせず純粋に面白いものを作って欲しいです。

あにもに:これも原作との違いという話にも関わってくると思うのですが、神浜の物語にこれだけ見滝原組が関わってきたのも、シリーズ10周年とある程度関係があるような気がしています。単純にアナザーストーリーの要素をメインストーリーに混ぜ込んだ風でもなく、そう考えると2nd SEASON 1話は象徴的なエピソードでした。

ab:ただ、2nd SEASON 1話のストーリー自体はその後の話と関わりが薄いですよね。単体で完全に独立した話になっているので、全体のプロットから考えると必要性は少ない気もします。ファンサービスとしては嬉しいですが。

あにもに:とはいえ単体として観た時の2nd SEASON 1話のクオリティは半端なく良いですから。

北出:そこが引き裂かれるところですね。

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『もにラジ』第4回「『マギアレコード 2nd SEASON -覚醒前夜-』最速感想会」

シャフト作品について毎回いろいろなオタクをお呼びしながら様々な角度から掘り下げている『もにラジ』ですが、第4回は『マギアレコード』を取り上げました。2021年7月新作アニメの『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』1話の放映直後に、北出栞さん(@sr_ktd)とabさん(@abacus_ha)と一緒にオタク・雑談をしまして、前半では原作にあたるゲームに関する話、後半でアニメの2期1話について主に話しています。なお、2話の放送前に収録したものなので、2話以降の展開やOP・EDについての話は含まれていません。

アニメ2期のネタバレとなる要素は極力カットしていますが、原作ゲームのテーマに関わる話や、アニメ未登場の魔法少女の話などをしているので、気になる方は注意してください。

お便りとファンアートはあにもに(@animmony)のDMまで。どしどし募集中です!

 

◆参加者プロフィール

f:id:moni1:20210811211025p:plain 北出栞@sr_ktd

『マギアレコード』にこそいま一番読むべき物語が描かれている、と信じてやまないオタク。好きなキャラクターは美樹さやか、和泉十七夜、時女一族(箱推し)。

f:id:moni1:20210417111053j:plain  ab@abacus_ha

海外のオタク。また呼ばれました。
好きな路線は中央線。

f:id:moni1:20200721220522p:plain あにもに@animmony

シャフトアニメを経過観察中に観るオタク。グッド。
好きな帰り道は雨上がりの帰り道。

  • 【はじめに】 
  • 【ノベルゲームの構造】 
  • 【覚醒前夜の仕掛け】 
  • 【引用とコラージュ】 
  • 【黒羽根/神浜東西問題】 
  • 【今後の展望】 
  • 【おわりに】 

【はじめに】 

あにもに:本日はよろしくお願いします。ついに『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』(2021年)1話が放送されまして、あまりの内容に思わず卒倒してしまったので、急遽ですが感想会をやろうと思い皆さまにお集まりいただきました。

ab:よろしくお願いします。

北出:よろしくお願いします。今回呼んでいただいてとても嬉しいのですが、僕はまったくシャフトオタクではなく、単に『マギレコ』のオタクということで、いきなり基本的なところからで恐縮なのですが……そもそもの前提として、新房昭之監督とシャフトの関係性がどういうものなのか知りたいです。

あにもに:今でこそシャフトのブランド戦略として「新房シャフト」とワンセットで製作側からもファン側からも語られることが多いですが、新房監督は厳密に言えばフリーの演出家です。新房監督がシャフトで監督をされるようになった初期の時代は、中村隆太郎監督がいたり、ガイナックスと共同で作品を制作していたりするのでやや事情は異なりますが、今ではほとんどイコールのようになっています。

ab:逆に言えば2010年代以降はほぼ新房監督中心の制作体制になりますね。

あにもに:ある時期から新房レジームが出来上がるわけです。もちろん、その下にはシリーズディレクターや副監督などがいて、現場の指揮を取っているポジションの役割の方もいます。そして、ここ最近はまた内情が変わってきており、佐伯昭志監督の『アサルトリリィ BOUQUET』(2020年)などはシャフトにとって新しいムーブメントでありながら、ある種の回帰的側面を持っていると言うことができるかと思います。

北出:なるほどです。『魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)は、新房監督が「監督」としてクレジットされた最後の作品という認識で合っていますか?

ab:監督としてクレジットされたのは『続・終物語』(2018年)が一応最後にはなりますね。基本的には総監督が多いです。

北出:完全オリジナルの作品といった意味では『まどか』が最後になるといった感じでしょうか。

あにもに:そうなりますね。

ab:新房監督はシャフトの他作品と比べても『まどか』の画作りに深く関わっていました。絵コンテのチェック時に入れる修正などを見ても、『まどか』はかなり多かった印象がありますね。新房監督のフィルムと言っても良いと思います。

北出:ちなみに『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』(2013年)でもクレジットは監督ですか?

ab:こちらは総監督で、監督は宮本幸裕になっています。宮本監督はもともとテレビ版ではシリーズディレクターを務めていました。

北出:宮本監督は『マギレコ』でもディレクターや監督などを担当されていて、統括に近いポジションですよね。

あにもに:劇団イヌカレーの泥犬総監督がいわゆるテレビアニメの専門家ではないので、宮本監督が共同でサポートをしているといった制作体制かと思います。新房監督はアニメーションスーパーバイザーという謎のクレジットになりました。アニメーションスーパーバイザーが何であるかは知りません!

北出:僕は基本的に物語的な水準でシリーズを追っているので、お二人にお聞きしたいんですが、新房監督の画作りが反映されているテレビ版と『叛逆』には、アニメーションの表現的な水準において差異があるのでしょうか?

ab:これはなかなかの難問が来ましたね(笑)。

あにもに:ひとつ事実として言えると思うのは、『叛逆』の画作りには劇団イヌカレー的な想像力が全面に押し出されていることです。先ほど『まどか』は新房監督のフィルムであると言いましたが、それに倣うならば『叛逆』は劇団イヌカレーのフィルムと形容しても間違いではないと思います。そういう意味では、『マギレコ』と表現論的な水準の上で接続可能なのは『まどか』ではなく、むしろ『叛逆』の方が強いと言えます。

北出:なるほど。僕はテレビ版は正直あまり響かなくて、それは物語的な部分に起因するものなのかなとも思っていたのですが、おそらく表現論的にも深層意識ではそうだったんじゃないかなと、今の話を聞いて思いました。というのも、『叛逆』の方はテレビ版とフォーカスしている部分が違う気がしているんです。

あにもに:フォーカスしている部分、ですか?

北出:これは印象論ですが、図と地(キャラクターと背景)といったものがあった際に、それぞれを別のレイヤーとして描いていないというか。『叛逆』は舞台そのものが「暁美ほむらの作り出した虚構世界の中」ということもあり、より劇団イヌカレー的なコラージュの側面が強くなっていると感じます。画的にも図と地がそれぞれ、どちらが図でどちらが地か分からない感じになっていたりしていて。

あにもに:劇団イヌカレーの役職としては、テレビ版では魔女空間の異空間設計がメインだったのに対して、『叛逆』では「コンセプチュアル・アートデザイン」というクレジットが追加されています。これだけだといまいち仕事の内容がイメージしづらいかもしれませんが、出来上がったシナリオをベースに様々なイメージボードを描き起こしていたりして、それを元にヴィジュアルを組み立てています。かつ『叛逆』はほぼ全編にわたって異空間が展開されていると言っても良いので、どこのシーンを切り取ってみても劇団イヌカレーの作家性が感じ取れるようになっているかと思います。

北出:新房監督の作風というのは自分にはちょっと分からないのですが、テレビ版に独特なあの少し突き放したクールな感じは、新房監督のキャラクターに対する距離感が如実に表れているんじゃないでしょうか。ストーリーとしてのハードさから、虚淵玄の作家性としてまとめられがちですが。

ab:アニメーションの表現の部分ではないのですが、『叛逆』の後半の展開やヴィジュアル的な部分は、同じく新房監督のオリジナルアニメであるコゼットの肖像』(2004年)を彷彿とさせる部分がかなり多かった印象でした。そこにピントを合わせれば『叛逆』における新房監督の作風が浮き彫りになるではないかと思います。

あにもに:ゲームの企画がどう始まったのかは詳しく知りませんが、そういう意味では『マギレコ』で新房監督が一線を引いたのは分かりやすい変化と言えます。

ab:個人的には『マギレコ』のゲームはアニメの新作が出来るまでの繋ぎという意味合いも強かったと思います。

あにもに:新作の企画が動き出してから『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天のタイトル発表まで大分時間がかかっていますからね。ただ、そういったある種の時間稼ぎ的な側面もあった『マギレコ』がここまで豊かな広がりを持つ作品になるとは正直思わなかったです。

北出:ゲームのリリース時を振り返ってみると、みかづき荘の面々といったオリジナルキャラクターたちもいましたが、どちらかというと『魔法少女おりこ☆マギカ』(2011年)や『魔法少女かずみ☆マギカ~The innocent malice~』(2011年)といった外伝作品のキャラクターが登場することを売りにしていたような気がします。『まんがタイムきらら☆マギカ』で連載していた作品のキャラクターたちが、見滝原組やみかづき荘の面々とアベンジャーズ的にクロスオーバーしていくような。なので、自分もここまで『マギレコ』独自の世界観が広がることになるとは思わなかったです。

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『美少年探偵団』「D坂の美少年」感想・D坂聖地巡礼

↑最終話を見終わった感想です。

『美少年探偵団』の10話~12話「D坂の美少年」が最高だったので、舞台となったD坂の聖地巡礼に行ってきました。D坂はサブタイトルにも付けられている通り、作中で起きる「轢き逃げ事件」のキーポイントとなっている場所です。

特筆すべき前提として、『美少年探偵団』は10話に至るまで屋内/屋外共にそれぞれ背景美術が統一的なテーマの元で仕上げられていたものが、「D坂の美少年」においてはその方向性ががらりと変化する点が挙げられます。ただし、単純に変化したと言ってしまうとやや語弊があるので、それまでの方法論をさらに深化させて強力に推し進めたと評した方が正確かもしれません。

「D坂の美少年」は、眉美と長広が美少年探偵団の創設者/元生徒会長の双頭院踊に会いに行って告げられる「子供の遊び」といった言葉が特に象徴的なように、どこか現実離れしていた美少年探偵団をめぐる一連のストーリーが、一気に現実と地続きの刹那的な思春期的瞬間を捉えるような話へと変わり、重ね合っていく様を描いています。

この物語を描くにあたって背景美術が果たしている役割は大きく、ある種の違和感を与えつつも特殊な映像的処理も相まって、洗練されたストーリーテリングになっていたと思います。背景美術が物語の明確なコンセプトと共に昇華されている点に大谷肇監督の強烈な「美学」を個人的に感じ取ったので、「これは行くしかあるまい!」と思い立ち、舞台探訪をしてきました。以下はその個人的な備忘録です。

 D坂の舞台は田園調布の「どりこの坂」がモデルとなっています。知り合いのシャフトオタクに教えてもらいました。

多摩川園ラケットクラブの脇、田園調布一丁目26番と51番の間の坂道。坂名の由来は昭和の初めごろ、坂付近に「どりこの」という清涼飲料水を開発した医学博士が屋敷を構えたので、誰いうとなく「どりこの坂」と呼ぶようになったといわれています。それまでは、池山の坂と呼ばれていたそうです。

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「どりこの坂」という名称は「どりこの」という飲み物が由来だそうです。サブタイトルの元ネタとなっている江戸川乱歩の『D坂の殺人事件』は千駄木の団子坂がモデルとなっているらしいですが、「D坂はこの辺りで一番人気が少ない」という原作の記述からすると、どりこの坂の方がD坂っぽさがあります。いわゆる静かな住宅地といった感じです。

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『もにラジ』第3回「『傷物語』と現代日本の傷痕」

シャフト座談会シリーズ『もにラジ』第3回の収録が5月某日行われました。今回はゲストにアーティストの水野さん(@potatovirusXXXX)をお招きして、これまでの『もにラジ』とはまた異なったアプローチで2016年に公開された映画『傷物語』の持つある種の奇妙さについて雑談しました。
お便りとファンアートはあにもに(@animmony)のDMまで。どしどし募集中です!

また、6/26(土)にアニメ批評同人誌『アニクリ』主催の「同人批評を読む会」配信にて、自分の書いた『傷物語』論が取り上げられました。私の論考に批判的検討が加えられているほか、本記事にも関連する追加論点が提示されていますので、併せてご確認頂ければと思います。アーカイブは以下の動画より視聴できるようです。

 

◆参加者プロフィール

f:id:moni1:20210626035406j:plain 水野 柚子桜大@potatovirusXXXX

美大に通ってるオタク。 まだ何も知らない。

f:id:moni1:20200721220522p:plain あにもに@animmony

シャフトアニメを今日もびりっと観るオタク。目が回る~。
ハートのプロミス、愛と言えるほど信じて…。

  • 【自己紹介】 
  • 【震災後として】 
  • 【戦後について】 
  • 【鬱と土地】 
  • 【亡霊の回帰】 
  • 【おわりに】 

【自己紹介】 

あにもに:本日はよろしくお願いします。今回の『もにラジ』では主に尾石達也監督の映画『傷物語』(2016年)についてお話を聞いていきたいと思います。まずは簡単に自己紹介をお願いしても良いでしょうか。

水野:水野幸司です。東京藝術大学の先端芸術表現科2年生です。よろしくお願いします。

あにもに:いきなり個人情報が全力開示されてびっくりしました。水野さんは生粋の尾石ファンとのことで……。

水野:そうですね(笑)。といっても、この場で「生粋の」尾石ファンを名乗るのはとても恐縮ですが...….。自分の所属している先端芸術表現科では受験するときにポートフォリオといって、自分の作品をまとめて大学に提出したのですが、僕は受験期の作品を『傷物語』にかなり寄せました。ポートフォリオで使用したカラーは『傷物語』の色彩をサンプリングしたり、レイアウト構成も尾石作品っぽく組み立てたりしました。あにもにさんとは大学入学前からツイッターのDM上などでいろいろとお話しましたよね。

あにもに:最初に知り合ったのは2年くらい前でしょうか。ポートフォリオの話を聞いて実際に見せてもらった際は心底驚いた記憶があります。現在大学生ということですが、『傷物語』は封切り当時に劇場で鑑賞された感じですか?

水野:実は全部リアルタイムで観に行っています。当時自分は中学3年生で高校受験直前だったのですが、「鉄血篇」は公開初日チケットが取れなくて挫折して、2日目に観に行きました。「熱血篇」と「冷血篇」は両方とも初日に観ました。

あにもに:中学生のときに観られたんですね。ということは『化物語』(2009年)はさすがにリアルタイムではないですよね。

水野:リアルタイムじゃないです。中学2年生の頃に初めて観ました。そこからひたすら〈物語〉シリーズを追っていった記憶があります。

あにもに:それでハマっていった感じですか。水野さんは一時期ツイキャスで毎週のように『傷物語』について語るラジオをやられていましたよね。文字通り毎週『傷物語』の話をしていて、ようやく違うテーマが来ると思ったら、今度は『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』(2013年)の話をしていて笑った思い出があります。

水野:やっていましたね(笑)。あれは楽しかったので、またやりたいです。

あにもに:水野さんはアーティストとして本名でツイッターで活動されているので、ネットで名前で検索すると学展の大賞を受賞されたときの美術手帖の記事などが出てきたりします。そのときのインタビュー記事ではご自身が影響を受けたサブカルチャーの話などをされています。

水野:まさに高校1年生のときですね。美術をちょっとずつ勉強し始めたときに、まだ理解も浅かったのもあって『傷物語』を観て、「こっちの方が面白いな」とか思っていました。当時「メディウム・スペシフィティ」とか、一方で「リレーショナルアート」とか、なにそれ、おいしいの?状態だったので、現代美術の作品を見てもいまいち興味が持てなくて、それよりもアニメの方が百倍面白いだろう、と。ただの厨二病です(笑)。

あにもに:傷物語』が美術に勝った!

水野:もちろん今はアニメ/美術といった単純な二項対立では捉えていませんし、またそこにある問題はそれこそゼロ年代から10年代に美術や批評の世界でかなりやられた議論だったと思います。ただ、学校やコンクールの中ではやはりそういう区別が依然としてありました。僕の出展した「学展」もそうでした。当時の僕は五十嵐大介、大友昇平、寺田克也劇団イヌカレーなどのクリエイターがマネやセザンヌよりもずっと輝いて見えていたので、それなら自分はアニメや漫画に寄せるか、といった感じで絵を描いていました。そういった部分は実は今でもあります。世界を変える為に必要なのは鉛筆一本と紙一枚あれば十分、みたいな。そういう時期に『傷物語』を観ました。僕にとって自分が見ていたアニメと文学がつながったのはそれがきっかけだったと思います。文学との出会いみたいな……。

あにもに:アニメではなく、文学との出会いですか?

水野:傷物語』はある側面では非常に文学的な構造を持っていると思ったんです。大学に入ってから文学や文芸批評を読むようになり、そこから今まで観てきた作品がどういう問題構造を持っていて、どのように応答してきたのかなども学んでいきました。

あにもに:なるほど、文芸的な問題意識に貫かれているということですか。今回はその辺りも含めて、『傷物語』をめぐるさまざまな問題についてあれこれお話をお伺いできればと思います。

 

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『もにラジ』第2回「『美少年探偵団』最速感想会」

シャフト作品を気の向くままに語る『もにラジ』第2回では、2021年4月新作アニメ『美少年探偵団』1話の放映後に、abさん、苔さん、そして合同評論誌『東映版Keyのキセキ』の企画・編集を務めたhighlandさんと一緒にオタク・雑談をしました。

放送直後の突発的な感想会だったので各々好き勝手に話していますが、シャフト作品を考える上でいくつか重要な論点が含まれていた気がしましたので、急遽書き起こしをしました。

お便りとファンアートはあにもに(@animmony)のDMまで。どしどし募集中です!

 

◆参加者プロフィール

f:id:moni1:20210417111038j:plain highland@highland_sh

シャフト作品を全作見れてないのでシャフトオタクを名乗れないオタク。
新房昭之の原体験は『THE GOD OF DEATH』(2005年)のOP。 

f:id:moni1:20210417111053j:plain ab@abacus_ha

最近アイデンティティがなくなりつつある感の否めない海外のオタク。
ふつつか者ですがよろしくお願いします。

 f:id:moni1:20200721220515j:plain @_johann_hedwig)※チャットでの参加

新房昭之コンテとコンテ回の模写を毎日続けているオタク。
職業:アニメーションスーパーウォッチャー

f:id:moni1:20200721220522p:plain あにもに@animmony

シャフトアニメを意外にも観るオタク。いちのや。
ちょっとだけ頭使って、後は根性ー! 

  • 【『美少年探偵団』について】 
  • 【演出ギミックについて】 
  • ティーカップCGIについて】
  • 【おわりに】

【『美少年探偵団』について】 

f:id:moni1:20210417111418p:plain『美少年探偵団』第1話「きみだけに光かがやく暗黒星 その1」

あにもに:皆さま本日はよろしくお願いします。『美少年探偵団』(2021年)が個人的にかなり良かったので、急遽ですが感想会をしようと思いお集まりいただきました。さっそくですが、1話は自分は限りなく絶賛といっても良いくらい面白く、積極的に肯定していきたいと思える作品でした。作品としてかなり洗練されていて、演出的な視点から考えても、シャフトが長年追い求めているスタイルのある種の理想形に近いのではないかと感じました。今後、実験的な演出要素も十分に期待出来ると思いますし、ここ5年くらいのシャフト作品の中ではトップレベルに良かったのではないでしょうか。highlandさんはどうでしたか? 

highland:自分も良いと思いました。ひとつだけあにもにさんの感想に付け加えることがあるとすれば、遊びの要素がやや少ないのかなという印象を持ちました。〈物語〉シリーズに顕著だったような、作劇に直接寄与しないギミックなどがあまり無かったというか。これは近年のシャフト作品に共通して指摘できることだと思うのですが。

あにもに:背景やオブジェクトなどがすべてひとつのスタイルとして全体の作風に還元しているように見えますね。いろいろな要素を有機的に組み立てていて、昔のシャフトアニメのようなカオス状態にはなっていないと言えます。abさんはどうでしょうか?

ab:1話は良いか悪いかで言えば、良かったかなと思います。僕は原作を読んでいないので、まだ話がどういう風に展開していくのか分からないところはあるのですが、何となくストーリーの導入としては『化物語』(2009年)の1話とかと似ているのではないかなという印象を受けました。ただ、『化物語』はビジュアル面で原作読者の斜め上を行く映像化だったのに対して、『美少年探偵団』は概ね原作読者のイメージに近しい形になっているのではないかと感じました。

highland:自分も原作は読んでいませんが、それは感じましたね。

あにもに:なるほど。苔さんはどう観ましたか?苔さんは『美少年探偵団』のメインスタッフが発表される以前から大谷肇監督の演出で観てみたいと言っていた程のファンですので、ぜひとも感想を伺いたいです。

苔:自分も原作は読んでいないのですが、他の西尾維新の小説を参照して考えると、情報量のペースメーキングが原作に忠実なのではという風に感じました。『化物語』などでは映像としてのテンポを再構築するための工夫が多く見られましたが、この1話は西尾維新原作を読む際のテンポそのものを原作再現のひとつとしているのではないかとも感じました。 あにもに:大谷さんは近年のシャフト作品の第一線で活躍してきた演出家ですが、本作がシャフトでの初監督作品ということになると思います。以前、別の記事でも取り上げたことがありますが、今回演出的な観点からはどうでしょう。

苔:シャフト作品で言うと、『かってに改蔵』(2011年)時代からの大谷監督の特徴、例えば日の丸構図の多用・手元の仕草をメインとした芝居・絵画・舞台的な光の表現を比較的重視するところなど以外は、堅実な演出の上に新房要素をブレンドした感じだなあという印象です。作中に登場するフォントがダサいですが、シャフト演出的にも余計なノイズはなくて、演出厨的にも幸腹な映像化でした。ただナメが弱いのは気になりました。

あにもに:たしかに、フォントに関してはそう言えるかもしれません。

highland:フォントと言えばシャフトではないですが、元シャフト関連のスタッフを中心に作られた八瀬祐樹監督の『炎炎ノ消防隊』(2019年)もダサかった……。

あにもに:炎炎ノ消防隊』のタイポグラフィはフォントもレイアウトもまったく駄目でしたね。非常にもったいなかったです。

highland:そういう意味では、かつてのシャフトの強みであったフォント要素は現在に引き継がれていないのでは感があります。

ab:そもそもそこら辺のセンスは尾石達也さん一人しか持っていなかったのでは……。

あにもに:尾石さんがシャフトにおけるタイポグラフィの大部分を支えていたというのは間違いないでしょうね。『さよなら絶望先生』(2007年)や『まりあ†ほりっく』(2009年)の頃に尾石さんが一人でひたすらテロップを仕込む作業をしていたのは、そもそも尾石さんしか出来る人がいなかったからというか。またノンクレジットではありますが、『ひだまりスケッチ×☆☆☆』(2010年)などにもがっつりと制作に関わっていたわけですし。

苔:とはいえ1話は手探りの中で作っていると思うので、今後変わっていくのかなとも思います。

あにもに:放送直後にツイッターで感想をつぶやいたら西尾維新クラスタからたくさんリツイートされて、いろいろな人のタイムラインを見に行ったのですが、ひとつ面白いなと思ったのは、一部の西尾維新クラスタでめちゃくちゃなシャフトアンチがいて。 

ab:あ、シャフトアンチの西尾維新ファンは普通にいますよね。

あにもに:〈物語〉シリーズ戯言シリーズもシャフトが独自路線で映像化しているので、それに反発している界隈があって、〈物語〉シリーズはともかくとして、そもそも『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』(2016年)の評価はあまり良いとは言えないので……。

highland:古の西尾維新オタクからしたら嫌でしょうね。

あにもに:ただ、今回の『美少年探偵団』に関しては、わりと受け入れられているようでして、悪くない反応でした。「シャフトにしては頑張った」といった感想が多かったです(笑)。

highland:演出や編集の面では結構シャフトっぽいところが残っているんですけれどね。むしろ、近年のシャフト作品の中でもめちゃくちゃシャフトっぽい方だと思います。原作読者からしたら、シャフトっぽいけれど外し過ぎていないということなんでしょうかね?

あにもに:カット割りというよりは、原作のキナコ先生のイラストがアニメできちんと再現されていて嬉しい、といった感想が多かったです。キャラクターデザインの山村洋貴さんの端正な美少年の絵が非常に素晴らしく。

highland:作画はとてもリッチな感じでしたね。

ab:「美」をメインテーマとして扱ってる物語とシャフトの画面作りがマッチしていて、シャフトらしさを残しながら原作の雰囲気と合致していると言えるではないでしょうか。

highland:あとは関係ないギミックを入れたりしていないというところがポイントなんですかね。

あにもに:原作と無関係のギミックといえば、例えば『クビキリサイクル』が分かりやすいのですが、舞台設定が原作小説とアニメではイメージが全然違います。原作はいわゆる本格ミステリ的なクローズドサークルもので、孤島に佇む洋風屋敷が舞台なのに、アニメでは想像を絶するような機械仕掛けの亜空間建築が展開されている。

f:id:moni1:20210417111519p:plainクビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』第3話「四日目(1) 首斬り一つ」

highland:新房監督が『クビキリサイクル』の公開前のインタビューで、今回はミステリ作品だから、例えば動く部屋などがあってしまうとそもそもトリックとして成立しなくなってしまうので、そういう演出はしない方向で作っていく、という風なことを言っていたのですが、実際は訳の分からないくらい動いていましたよね。あれにはさすがに驚きました。 

あにもに:完全にフェイク・インタビューですね。『クビキリサイクル』は『美少年探偵団』とスタッフ的にも共通点があって、大谷監督も演出を手掛けていたりします。

highland:そういえば今回は総作画監督が3人も入っています。

ab:各話の作画監督に複数人が入っているのはアニメーションプロデューサーの安田孝一さんの方針なんじゃないかと思いました。『3月のライオン』2期(2017年)とか『アサルトリリィ BOUQUET』(2020年)とかとスタッフの配陣が少し似ているような気がします。各話作画監督3〜4人の中に、2人がローテーションで2〜3話ずつ入るという配陣なのかなと。

あにもに:座組的にもそうでしょうね。いつ頃からこの企画が動いていたか気になるところです。

highland:今回は絵本っぽいタッチを多用していて、色彩面を含めて全体的に良かったです。回想のシーンや夜のシーンとかもトーンを統一してきれいにまとまっていました。

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