シャフト作品を気の向くままに語る『もにラジ』第2回では、2021年4月新作アニメ『美少年探偵団』1話の放映後に、abさん、苔さん、そして合同評論誌『東映版Keyのキセキ』の企画・編集を務めたhighlandさんと一緒にオタク・雑談をしました。
放送直後の突発的な感想会だったので各々好き勝手に話していますが、シャフト作品を考える上でいくつか重要な論点が含まれていた気がしましたので、急遽書き起こしをしました。
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◆参加者プロフィール
highland(@highland_sh)
シャフト作品を全作見れてないのでシャフトオタクを名乗れないオタク。
新房昭之の原体験は『THE GOD OF DEATH』(2005年)のOP。
ab(@abacus_ha)
最近アイデンティティがなくなりつつある感の否めない海外のオタク。
ふつつか者ですがよろしくお願いします。
苔(@_johann_hedwig)※チャットでの参加
新房昭之コンテとコンテ回の模写を毎日続けているオタク。
職業:アニメーションスーパーウォッチャー
あにもに(@animmony)
シャフトアニメを意外にも観るオタク。いちのや。
ちょっとだけ頭使って、後は根性ー!
【『美少年探偵団』について】
『美少年探偵団』第1話「きみだけに光かがやく暗黒星 その1」
あにもに:皆さま本日はよろしくお願いします。『美少年探偵団』(2021年)が個人的にかなり良かったので、急遽ですが感想会をしようと思いお集まりいただきました。さっそくですが、1話は自分は限りなく絶賛といっても良いくらい面白く、積極的に肯定していきたいと思える作品でした。作品としてかなり洗練されていて、演出的な視点から考えても、シャフトが長年追い求めているスタイルのある種の理想形に近いのではないかと感じました。今後、実験的な演出要素も十分に期待出来ると思いますし、ここ5年くらいのシャフト作品の中ではトップレベルに良かったのではないでしょうか。highlandさんはどうでしたか?
highland:自分も良いと思いました。ひとつだけあにもにさんの感想に付け加えることがあるとすれば、遊びの要素がやや少ないのかなという印象を持ちました。〈物語〉シリーズに顕著だったような、作劇に直接寄与しないギミックなどがあまり無かったというか。これは近年のシャフト作品に共通して指摘できることだと思うのですが。
あにもに:背景やオブジェクトなどがすべてひとつのスタイルとして全体の作風に還元しているように見えますね。いろいろな要素を有機的に組み立てていて、昔のシャフトアニメのようなカオス状態にはなっていないと言えます。abさんはどうでしょうか?
ab:1話は良いか悪いかで言えば、良かったかなと思います。僕は原作を読んでいないので、まだ話がどういう風に展開していくのか分からないところはあるのですが、何となくストーリーの導入としては『化物語』(2009年)の1話とかと似ているのではないかなという印象を受けました。ただ、『化物語』はビジュアル面で原作読者の斜め上を行く映像化だったのに対して、『美少年探偵団』は概ね原作読者のイメージに近しい形になっているのではないかと感じました。
highland:自分も原作は読んでいませんが、それは感じましたね。
あにもに:なるほど。苔さんはどう観ましたか?苔さんは『美少年探偵団』のメインスタッフが発表される以前から大谷肇監督の演出で観てみたいと言っていた程のファンですので、ぜひとも感想を伺いたいです。
苔:自分も原作は読んでいないのですが、他の西尾維新の小説を参照して考えると、情報量のペースメーキングが原作に忠実なのではという風に感じました。『化物語』などでは映像としてのテンポを再構築するための工夫が多く見られましたが、この1話は西尾維新原作を読む際のテンポそのものを原作再現のひとつとしているのではないかとも感じました。 あにもに:大谷さんは近年のシャフト作品の第一線で活躍してきた演出家ですが、本作がシャフトでの初監督作品ということになると思います。以前、別の記事でも取り上げたことがありますが、今回演出的な観点からはどうでしょう。
苔:シャフト作品で言うと、『かってに改蔵』(2011年)時代からの大谷監督の特徴、例えば日の丸構図の多用・手元の仕草をメインとした芝居・絵画・舞台的な光の表現を比較的重視するところなど以外は、堅実な演出の上に新房要素をブレンドした感じだなあという印象です。作中に登場するフォントがダサいですが、シャフト演出的にも余計なノイズはなくて、演出厨的にも幸腹な映像化でした。ただナメが弱いのは気になりました。
あにもに:たしかに、フォントに関してはそう言えるかもしれません。
highland:フォントと言えばシャフトではないですが、元シャフト関連のスタッフを中心に作られた八瀬祐樹監督の『炎炎ノ消防隊』(2019年)もダサかった……。
あにもに:『炎炎ノ消防隊』のタイポグラフィはフォントもレイアウトもまったく駄目でしたね。非常にもったいなかったです。
highland:そういう意味では、かつてのシャフトの強みであったフォント要素は現在に引き継がれていないのでは感があります。
ab:そもそもそこら辺のセンスは尾石達也さん一人しか持っていなかったのでは……。
あにもに:尾石さんがシャフトにおけるタイポグラフィの大部分を支えていたというのは間違いないでしょうね。『さよなら絶望先生』(2007年)や『まりあ†ほりっく』(2009年)の頃に尾石さんが一人でひたすらテロップを仕込む作業をしていたのは、そもそも尾石さんしか出来る人がいなかったからというか。またノンクレジットではありますが、『ひだまりスケッチ×☆☆☆』(2010年)などにもがっつりと制作に関わっていたわけですし。
苔:とはいえ1話は手探りの中で作っていると思うので、今後変わっていくのかなとも思います。
あにもに:放送直後にツイッターで感想をつぶやいたら西尾維新クラスタからたくさんリツイートされて、いろいろな人のタイムラインを見に行ったのですが、ひとつ面白いなと思ったのは、一部の西尾維新クラスタでめちゃくちゃなシャフトアンチがいて。
ab:あ、シャフトアンチの西尾維新ファンは普通にいますよね。
あにもに:〈物語〉シリーズも戯言シリーズもシャフトが独自路線で映像化しているので、それに反発している界隈があって、〈物語〉シリーズはともかくとして、そもそも『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』(2016年)の評価はあまり良いとは言えないので……。
highland:古の西尾維新オタクからしたら嫌でしょうね。
あにもに:ただ、今回の『美少年探偵団』に関しては、わりと受け入れられているようでして、悪くない反応でした。「シャフトにしては頑張った」といった感想が多かったです(笑)。
highland:演出や編集の面では結構シャフトっぽいところが残っているんですけれどね。むしろ、近年のシャフト作品の中でもめちゃくちゃシャフトっぽい方だと思います。原作読者からしたら、シャフトっぽいけれど外し過ぎていないということなんでしょうかね?
あにもに:カット割りというよりは、原作のキナコ先生のイラストがアニメできちんと再現されていて嬉しい、といった感想が多かったです。キャラクターデザインの山村洋貴さんの端正な美少年の絵が非常に素晴らしく。
highland:作画はとてもリッチな感じでしたね。
ab:「美」をメインテーマとして扱ってる物語とシャフトの画面作りがマッチしていて、シャフトらしさを残しながら原作の雰囲気と合致していると言えるではないでしょうか。
highland:あとは関係ないギミックを入れたりしていないというところがポイントなんですかね。
あにもに:原作と無関係のギミックといえば、例えば『クビキリサイクル』が分かりやすいのですが、舞台設定が原作小説とアニメではイメージが全然違います。原作はいわゆる本格ミステリ的なクローズドサークルもので、孤島に佇む洋風屋敷が舞台なのに、アニメでは想像を絶するような機械仕掛けの亜空間建築が展開されている。
『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』第3話「四日目(1) 首斬り一つ」
highland:新房監督が『クビキリサイクル』の公開前のインタビューで、今回はミステリ作品だから、例えば動く部屋などがあってしまうとそもそもトリックとして成立しなくなってしまうので、そういう演出はしない方向で作っていく、という風なことを言っていたのですが、実際は訳の分からないくらい動いていましたよね。あれにはさすがに驚きました。
あにもに:完全にフェイク・インタビューですね。『クビキリサイクル』は『美少年探偵団』とスタッフ的にも共通点があって、大谷監督も演出を手掛けていたりします。
highland:そういえば今回は総作画監督が3人も入っています。
ab:各話の作画監督に複数人が入っているのはアニメーションプロデューサーの安田孝一さんの方針なんじゃないかと思いました。『3月のライオン』2期(2017年)とか『アサルトリリィ BOUQUET』(2020年)とかとスタッフの配陣が少し似ているような気がします。各話作画監督3〜4人の中に、2人がローテーションで2〜3話ずつ入るという配陣なのかなと。
あにもに:座組的にもそうでしょうね。いつ頃からこの企画が動いていたか気になるところです。
highland:今回は絵本っぽいタッチを多用していて、色彩面を含めて全体的に良かったです。回想のシーンや夜のシーンとかもトーンを統一してきれいにまとまっていました。
【演出ギミックについて】
highland:「綺羅星」というワードが出てきたこともあって、『STAR DRIVER 輝きのタクト』(2010年)を何となく連想する人が多かったようです。
あにもに:五十嵐卓哉監督繋がりで、『桜蘭高校ホスト部』(2006年)もよく名前が挙がっていました。設定的にも類似していて、まずもって主演が坂本真綾さんですので。
highland:もろにそうですよね。坂本さんは『あんさんぶるスターズ!』(2019年)でもこういうタイプの主人公をやっていたので、こういう役柄が最近多いのかなという印象です。
ab:逆に言えば、キャスティングの段階からかなり『桜蘭高校ホスト部』を意識した配役でしょうね。「シャフトの作る、西尾維新原作の『桜蘭高校ホスト部』」という説明がすごくしっくり来ました。
あにもに:五十嵐監督作品と言えば、知人の抽象アニメーション研究者の田中大裕さんのツイキャスをこの前たまたま聴いたら、大谷監督を新房昭之の直系のフォロワーとして捉えつつ、ポスト五十嵐卓哉の演出家が長らく空席状態であったことを指摘していて、大谷監督にその後継者としての可能性を論じていました。具体的な検討が必要だとは思いますが、大変興味深い論点だと思います。
highland:そこは幾原さんではなく、五十嵐さんなんですね。
あにもに:シャフトと幾原邦彦の関係性についてはまた長くなってしまうので割愛しますが、大谷監督の演出を考える上では結構重要な観点だと思います。個人的には五十嵐卓哉の後継者としてのポジションで言えば、どちらかといえば『クビキリサイクル』で監督を務めた八瀬さんが有力候補として挙がるのが自然なのではないかとも思うのですが、今回の『美少年探偵団』1話を観る限り、たしかに五十嵐さんのイメージを自分も感じ取りました。
highland:題材的な側面も大きそうですからね。ギミックレベルで共通点があるかと言えば、まだ微妙なところはあると思います。『桜蘭高校ホスト部』っぽいと言えば、そうだと思いますが。
あにもに:『桜蘭高校ホスト部』の1話を『美少年探偵団』と比べてみた際に、ひとつ面白いと思うのはキャラクター紹介の見せ方です。『桜蘭高校ホスト部』では序盤の方でわずか5秒程度ですべてのキャラクターの紹介を手際よく効率的に済ませるのに対して、『美少年探偵団』では5分以上掛けて坂本真綾がぶっ続けで喋り倒すといった暴挙に出る。これは榎戸洋司と西尾維新の差異とも言えるかと思いますが、露骨なほど対照的です。
『美少年探偵団』第1話「きみだけに光かがやく暗黒星 その1」
highland:かなりねちっこいですよね。例えば、カメラが縦PANするときに途中でスキップせずに、しっかりと人物の全体像を隈なく映すじゃないですか。あれはちょっと、分割縦PANを多用していた『さよなら絶望先生』(2007年)の頃から比べると、やや退化しているのではと思わなくもないです。
あにもに:『美少年探偵団』では「美学とはすなわち縦PANである」といったくらいに垂直的なカメラワークを繰り返しますね。あと『桜蘭高校ホスト部』はめちゃめちゃ動きが付いているのに対して、『美少年探偵団』1話はアニメーション的には動かすところと動かさないところのコントラストがはっきりしています。
highland:五十嵐さんの演出はたしかに動かしまくるイメージがありますね。まあ、『美少年探偵団』でも美脚の飆太はかなり動いていましたが。
あにもに:もちろん動きのあるところも含めてきめ細やかだったのが好印象だったと思います。また、目アップのバリエーションが非常に豊かでした。カメラワークに音が付いていたりするのは完全に〈物語〉シリーズの文法です。
highland:いつもの引いて見せる絵も多かったですよね。自分は「断面図レイアウト」と呼んでいるのですが、超ロングショットで地面さえも映るような引きのカットで、キャラクターをあえてシルエット化することで際立たせるという、新房監督がよく使っている演出手法があります。もともと新房監督が好んで使っていて、それに影響されてシャフトの演出家の人たちも使うようになっていますよね。『新破裏拳ポリマー』(1996年)などでも採用しているものです。
あにもに:構図的な話で言えば、シャフト作品の演劇的側面はこれまで頻繁に指摘されてきましたが、今回の『美少年探偵団』は100%舞台演出でした。アバンで視聴者に語りかける演出はまさにその宣言のようでした。ここでは『クビキリサイクル』的な文字演出もあったりして……。
『美少年探偵団』第1話「きみだけに光かがやく暗黒星 その1」
highland:文字演出といえば、ヴォルテールの引用が文字として画面に出るだけではなくて、カットが変わって背景と一体化してスポットライトが当たりながら映し出されるというのが新鮮でした。〈物語〉シリーズとかでありそうでなかったので。
あにもに:劇中の登場人物が超越的な視点から視聴者に語りかけるのはテネシー・ウィリアムズの『ガラスの動物園』っぽい感じでしょうか。ポール・ニューマン監督の1987年の映画版でも、冒頭はカメラに向かって語り手が話すというシーンから始まっていました。そこでヴォルテールを皮肉るのがいかにも西尾維新っぽいですが。
highland:そういえば構成的にはタイトルカードというかサブタイトルのカットが挿入されて、章立てのようになっているじゃないですか。あれって原作ではどんな感じなんですか?
あにもに:原作でもああいう感じです。原作と違う点はそれぞれの章に番号が振られているのですが、アニメでは語りの順番を入れ替えていたりするので、章番号は削っているようです。
highland:なるほど。最初「間違い探し」が1話のサブタイトルかと思ったのですが、何回も出て来たので違うのかなと思いました。
あにもに:いかにも新房監督が好みそうなテンポの取り方です。ある意味で『荒川アンダー ザ ブリッジ』(2010年)っぽいリズム作りといった認識で良いと思います。ただ、1話の「間違い探し」というチャプターはアニメだけ観るといまいち解釈が取りづらいものでしたが。原作では問いかけのようになっているのですが、アニメではその部分が削られているので……。
highland:結構入れ替えたり削ったりしているんですね。今回もシリーズ構成のクレジットは〈物語〉シリーズなどと同じく「東冨耶子、新房昭之」になっており、第1話は西尾維新作品を多く手掛けてきた木澤行人さんが脚本でした。木澤さんはもともとはアニメ雑誌やムック本を手掛けていた出版社セブンデイズウォーの方ですよね。原作の小説を切り貼りしながら脚本を作っていくという編集者的な方法論で〈物語〉シリーズの頃から活躍されています。
ab:ちなみに、木澤さんと中本宗応さんは2014年からライトワークスという会社を新しく立ち上げて、アニメを中心に活動されています。
あにもに:原作との比較で思い出しましたが、冒頭の屋上で星を眺めるシーンは面白かったですね。原作では「学校の校舎の屋上」としか描写はされていないのに、美術設定がアイデアに満ちていて美しくなっています。また、「屋上がボールルームであるかのごとく」抱き寄せられるという場面で、実際に俯瞰視点で踊ってみせている。
『美少年探偵団』第1話「きみだけに光かがやく暗黒星 その1」
highland:『化物語』の1話の吹き抜けになっている階段を思い出します。
あにもに:あれも原作では「階段を踏み外した戦場ヶ原が後ろ向きに倒れてきた」だけですからね。
highland:特にギミックが原作で指定されているわけでもなく……。
あにもに:単純に学校の階段というだけです。一応、その前の文章で「空から女の子が降ってきた」という描写があって、そこからイメージを拾って、新房監督の中では、学校の中に巨大な塔のような建造物がそびえ立っていてそこから落ちてくる映像にしたかったらしいです。ただ尾石さんが「階段から落ちる」という原作の描写を可能な限り尊重したくて、より現実的な情景描写に即して巨大な螺旋階段(!)に修正した、というおよそ正気とは思えないエピソードがあります(笑)。イメージ自体は奇抜だと思いますが、今回コンテワーク的にはどうでしたか?
highland:絵コンテの切り方自体はわりとオーソドックスかなと思いました。前半部分は主人公の瞳島眉美のシングルショットが多用されていました。
あにもに:たしかに正面切り返しのショットが多かったです。
highland:彼女のシングルショットか、ナメのレイアウトで美少年たちと主人公を分けるレイアウトが使われていて、最後に一歩踏み越えるみたいな、わりと丁寧にやっていましたよね。そういう意味では、いわゆる1話の絵コンテっぽいなという印象でしたね。
あにもに:Bパートの最後にミチルが眉美にハンカチを渡すシーンをドラマチックに描けていて良かったです。
highland:なのでそこは遊び要素というよりは、きっちり演出意図に沿ってカットが配置されている感じはありましたね。フレームに2人を引いて収めるであったりとか。苔さんが先ほど言っていたナメが弱いというのは、レイアウトとして弱いということなんですかね。
苔:そうですね。『ネギま!?春/夏』(2006年)や『ef - a tale of memories.』(2007年)などと比較して、ナメと奥の対比が弱くて、ナメの効果が抑えられているなという感じです。極端な比較としてはOVA『それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコⅡ』(1997年)の2話もナメの効果の違いが分かりやすいです。『かってに改蔵』(2011年)4話の頃も既にナメの絵があえて立体的な構造をしているので、大谷監督のこだわりなのかもしれません。
【ティーカップとCGIについて】
シャフトアニメのティーカップという概念 pic.twitter.com/P8v7UNwGO5
— ab ☕ (@abacus_ha) 2021年4月12日
あにもに:そういえばabさんがツイッターで、『アサルトリリィ BOUQUET』と『美少年探偵団』のキャプチャを比較しているのを見て、さすがだな~と思いました。
あにもに:「シャフトアニメのティーカップという概念」といった文言と共にツイートされていたやつです。あれは3DCGに着目したものですよね。どういう意図でツイートしたのでしょうか?
ab:ティーカップは『アサルトリリィ BOUQUET』放送時からキャラクターの各部屋ごとにティーカップの種類が細かく設定されていて面白いなと注目していたのですが、『美少年探偵団』でも細かく描かれていて驚きました。
あにもに:『美少年探偵団』1話を受けて、即座にティーカップに注目出来る人は、シャフト作品を本当によく観ている人だと思います。言うまでもなく、ティーカップは近年のシャフト作品に繰り返し登場する象徴的モチーフのひとつです。『アサルトリリィ BOUQUET』はもちろん、例えば『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』(2020年)でもマグカップはみかづき荘を特徴付けるきわめて重要なモチーフでした。
『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』第11話「約束は午後三時、記憶ミュージアムにて」
ab:たしかに、『マギアレコード』ではマグカップは物語のキーアイテムでしたね。ただ、『アサルトリリィ BOUQUET』や『美少年探偵団』の場合はキーアイテムではなく舞台セットの小物という扱いで、そこにそこまで手の込んだデザインをしているのは面白いなと思いました。
あにもに:『美少年探偵団』でティーカップについて注目するのは分析的にもきわめて正しいと思います。ティーカップひとつを取り上げるだけで、いろいろなものが見えてきます。そもそもシャフトは昔から食器類を作画ではなく、3DCGで処理する傾向があるという話があります。
highland:3DCGで作り込むというのは以前からなんですね。
あにもに:もちろん作品にもよりますし、シーンごとに個別的な判断があるとは思うのですが、基本的にはそのようなワークフローが伝統としてあるように見受けられます。最近、特に印象に残っているものだと、『Fate/EXTRA Last Encore』(2018年)2話で第一階層「停滞の海」に出てきたグラスの描写があります。
『Fate/EXTRA Last Encore』第2話「死相―デッドフェイス―」
highland:「作画で描くか?3Dで描くか?」という問いに対して、アニメオタクがよくクリシェ的な回答として言うのは、「セルで描いているということは演出意図を反映している」ということですよね。セルでわざわざ描くというのは、特別に意図が込められていない限りやらないことなのだから意味があるはずだ、というロジックです。
あにもに:そういう点では、今回シャフトが新しく「シャフトCGIルーム」を新設して、本格的に3DCG制作をインハウスで手がけようとしているのは面白い動きですね。3DCGを使って積極的に画面効果を狙いにいっている。マネージャーの江藤慎一郎さんはシャフトを一時期離れていたかと思われたのですが、このような形で再び携われるとは思いませんでした。
苔:去年くらいの時期にシャフトが公式サイトでCG人材の求人宣伝をしてましたよね。3DCGディレクターとしてクレジットされている上松妃香里さんはサイクロングラフィックス出身の人っぽいですし、人脈も豊富そうです。
あにもに:CGに力を入れているといった話は前々から噂されていました。サイクロングラフィックスの3DCGといえば、『傷物語』(2016年)からの流れということですか。
苔:『傷物語 鉄血篇』からですね。シーンセットアップアーティストとしてクレジットされています。
ab:3DCGマネージャーの江藤さんと3DCG制作進行の山本諒さんは、Cygames Pictures繋がりですので、そこはちょっと面白いです。あと、Cygames Picturesの撮影班には元GoHandsのCGI部の前田智大さんも入っていて、そういう繋がりがあるというのは興味深いです。
あにもに:今後が楽しみな布陣ですよね。内製で作れるというのは明確な強みになるはずですし。
ab:『アサルトリリィ BOUQUET』ではグラフィニカが3DCGを担当していましたが、以前、佐伯昭志監督がツイッターで、制作のかなり早い段階から先行して3DCGを発注する必要があるとつぶやいていたので、3DCGの外注はフレキシブルさという面ではなかなかワークフロー的に難しそうだなと思いました。
「Aパート 2月22日 200カット 以内」というのは「Aパート(前半)がほぼ戦闘シーンになるので、先行してグラフィニカに3DCG発注するための絵コンテをそれまでに。カット数は200以内(うち3D発注するのは100カット)以内に収める」とかそんな意味です。
— 佐伯 昭志 (@sae980) 2021年1月14日
実際に発注出来たのは4月になってからでした。
あにもに:3DCG制作を内製化するとなるとワークフローは大幅に変わりそうです。
ab:3DCGを内製で作れるようになればスムーズに社内連携で済むようになり、もっと効率的な3DCGの使い方ができるようになるではないかと思います。実際、普段のシャフトのアニメでは見かけないような3Dカメラの動かし方を『美少年探偵団』では見られて、3DCGの使い方は上手くなっているな、といった印象を受けます。今後に期待です。
あにもに:3DCGの使い方が上手くなっている一方で、いつもの平面的なレイアウトの取り方にも拍車がかかっているような気もします。冒頭の学校のカットは急にウェス・アンダーソンっぽいですし……。
highland:『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年)のポスターのようですね(笑)。
あにもに:Bパートの屋外のシーンも海辺だと言っているのに、あからさまに書き割りのような背景に舞台床が映り込んでいるようなレイアウトを取りますし(笑)。あとこれは必ず言及しようと思っていたのですが、冒頭の美少年探偵団の活動内容を紹介するシーンで、カメラが学校の廊下を移動していくシーンは素晴らしい出来栄えです。
『美少年探偵団』第1話「きみだけに光かがやく暗黒星 その1」
highland:この無限に続くような感じがとても良いですね。
ab:ちゃんとレンズの処理が入っているのは細かくて良いですね。
あにもに:きちんとパースが付いているような。
ab:近づくとちょっと歪むみたいな効果が入っていたりする。
苔:放送前に公開されたPVでは撮影効果が入っていなかったところですが、きちんと付いていてさすがシャフトだと思いました。
highland:撮影効果が入っていますね。ルックに統一感もあるし。
あにもに:導入の説明シーンに過ぎない場面を、ここまで丁寧に仕上げていて驚きました。
【おわりに】
あにもに:1話にはOPが無かったですが、アニメ誌のインタビューで大谷監督が言っていたのは、OP映像に関して大谷監督はノータッチらしいのですが、新房監督と某偉大なアニメーターさんが社内でトップ会談をして作っているらしいです。最後に当てずっぽうで当てますか(笑)。
ab:誰なんだろう?
highland:渡辺明夫さんじゃないと思うので、梅津泰臣さんじゃないですか?それくらいしか思いつかない……。
苔:杉野昭夫さんとか……。
あにもに:いやそんなことあります?
highland:『3月のライオン』に参加していたので、可能性はゼロではないですね。国宝級のアニメが出来ますが(笑)。
ab:偉大なアニメーター候補としては名倉靖博さんとかですかね?新房監督の絵コンテに梅津作画が見たいです。
あにもに:新房コンテ!?
highland:新房コンテは希望ですよね。
ab:新房昭之という偉大なアニメーターの可能性も。
あにもに:トップ会談って脳内会談のことだったんですね……。
highland:絵コンテ帆村壮二、アニメーター新房昭之かもしれません。
あにもに:その可能性があったな~。
ab:いや、ないんじゃないですかね(笑)。
あにもに:いずれにしても2話に期待しましょう。本日はありがとうございました。
『もにラジ』の過去回は下記リンクにまとまっています。