もにも~ど

アニメーション制作会社シャフトに関係するものと関係しないものすべて

『もにラジ』第1回「シャフトの海外受容におけるある種の傾向について」

シャフト作品をガチで語ろうの会『もにラジ』の第1回収録が8月某日行われました。今回はゲストに海外シャフトオタクのabさんをお招きしています。海外視点から見たシャフト作品についていろいろとお話ししました。前回はたくさんの反響、お便り、DMなどなどありがとうございました。引き続きお便りとファンアートはあにもに(@animmony)のDMまで。どしどし募集中です!

参加者プロフィール

f:id:moni1:20200901223758p:plain ab(@abf9

元・海外オタク。いつも4割くらいしか生きてないおじさん。
シャフトアニメの定義が欲しい。

f:id:moni1:20200721220522p:plain あにもに(@animmony

シャフトアニメをたまに観るオタク。めがはーと。
おっきな入道雲を見てると、走り出したくなっちゃう。

【はじめに】

通話を開始してから『Lapis Re:LiGHTs』(2020年)5話と長田寛人作画について長々と雑談してしまった事情によりカット。

f:id:moni1:20200901223822p:plain収録風景

【自己紹介】

あにもに:よろしくお願いします。われわれは結構古くからの付き合いで、お互いツイッターを始めて初期くらいのフォロワー関係なので、なんやかんやもう10年近く経ちます。まずはabさんが海外シャフトオタクという話から……。

ab:abと申します。どこかの南の国から来ました。よろしくお願いします。

あにもに:どこかの南の国!どうやって日本語を覚えたか聞いても良いですか?

ab:ぱにぽにだっしゅ!』(2005年)を観て日本語の勉強を始めました。

あにもに:またすごいところから入りましたね。どういう風に勉強したんですか?

ab:最初は独学で文字から覚えて、次に教科書を買って文法を覚えました。もともと読書が好きで小説とラノベにも興味があったので、それを読みながら勉強して、いつの間にか西尾維新の本も読めるようになりました。

あにもに:完全に最強オタクですね。日本人でも小説が読めない人は結構いるのに、その中でも西尾維新が読めるようになるとは……。

ab:自慢ではありませんが、『化物語』(2009年)はアニメ放送前に読破していました。紆余曲折を経て今は日本で働いていますので、僕が今ここにいるのは『ぱにぽにだっしゅ!』とシャフトのおかげといっても過言ではないです。

あにもに:これもシャフトの影響力でしょうか。お互いをツイッター上で認知したのがいつ頃だったか覚えていますか?

ab:魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)の放送中だったような。

あにもに:たぶんそうですね。ちなみに自分がツイッターを始めたのは2011年1月3日で、『まどか』の放送直前くらいです。当初は情報収集目的としてツイッターを始めました。

ab:僕も似たような目的です。2010年10月に作りました。

あにもに:咎狗の血』(2010年)の放送で毎週新情報のCMを流していたときですね。当時シャフトの新作をこんな風にCMを打つのかと驚きました。

ab:たしか第一弾か第二段がオンエアされた直後に公式アカウントをフォローするためにツイッターのアカウントを作成しました。

あにもに:ということはお互い『まどか』きっかけということでしょうか。そして放送中にお互いを認識したと。自分のabさんの第一印象は「シャフトに異常に詳しい海外オタク」でした。情報入手のスピードもめちゃめちゃ早くて、一体何者なんだと思いました。

ab:その頃はよくアニメ雑誌を購読していて、たまに日本の発売日と同日で届くことがありました。その中で、『メガミマガジン』(2010年12月号)の鹿目まどかのシルエットが載ってる記事を海外の掲示板に投稿したら、色んな所に出回ってました。

あにもに:シルエットのやつありましたね~。海外のシャフトオタクは日本のオタクよりも詳しい人がそこそこいますが、abさんはその筆頭ですねそこからDM等で個人的にやり取りをするようになったのは、たしか某シャフト研究会きっかけだったような……。

ab:尾石達也研究会ですね。

あにもに:あの研究会があったのって『偽物語』(2012年)の頃くらいでしたっけ?

ab:たぶん『偽物語』が終わった直後です。

あにもに:まだ自分が高校生だった頃の話です。ネット上のシャフトオタクを集めて尾石さんの作風を研究する会をやりました。主催者はまた別の方だったのですが、自分は参加者集め係のようなことをやっていて、それで初めてDMしました。ただそのときはabさんは海外にいらして、タイミングが合いませんでした。

ab:その頃は日本へ遊びに行く機会はなかったので、残念ながら参加できませんでした。参加したかった……。

あにもに:劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』(2013年)の公開時も海外でしたよね?

ab:そうです。なので実はBlu-Rayが発売されるまで観られませんでした。

あにもに:ということは劇場には行けていないと。

ab:ネタバレ回避のためにずっと情報に触れないように生活をしていました。『まどか』関連のワードをミュートしたり。

あにもに:それで全部ネタバレ回避できました?

ab:だいたい6割くらいは回避できました。ただ「愛よ」は喰らいました。

あにもに:希望よりも熱く絶望よりも深い……。

ab:ただそこに至るまでの展開は何も知らなかったので、Blu-Rayを観たときは初見で楽しめました。セリフは知っちゃいましたが、コンテクストまでは分からなかったので。

あにもに:それもそうですね。abさんとはリアルでも何回もエンカウントしていて、シャフト関連のイベントに行ったらばったり出くわすといったことが多々あります(笑)。

ab:お互いイベントに参加することは特に話していないのに、「あれ、いるし!」みたいな感じで毎回遭遇しますね(笑)。

あにもに:自分はオタクと一緒に行こうといったノリが無いので本当に偶然で……阿佐ヶ谷ロフトAでやった中村隆太郎監督を偲ぶイベントでも一緒になって驚きました。

ab:あれは本当にびっくりしましたね。

あにもに:隣の席で『キノの旅 病気の国 ―For You―』(2007年)を一緒に鑑賞したのを覚えています。あと印象的だったのは『PRISM NANA THE ANIMATION VOL.4 星空編』(2016年)の完成披露上映会でも会いましたね。実際には未完成披露上映会だったものですが……。

ab:一緒に秋葉原UDXタリーズで反省会をしました。もう4年前です。

あにもに:まあ『プリズムナナ』の話は悲しくなるので置いておきましょう。

ab:いや、自分は新房昭之監督に依存しない作品をいつもの演出陣でシャフトが作るという意味でも面白い試みだったと思います。「希望のアドバンス[前編]」もかなり評価していますよ。前編だけやって後編が公開されないのが残念です。

あにもに:たしかに試みとしては面白くて、期待値は高かったです。ただ実際には自分は希望のアドバンス編も特に評価していないので何とも言い難いのですが……とはいえ後半も宮本幸裕監督でやる予定でした。

ab:『プリズムナナ』のYouTubeで期間限定で公開された楽曲のミュージックビデオの中に「希望のアドバンス[後編]」と思しき未公開のアニメーションパートが使われてて、実はちょっとだけ制作に入っていたんじゃないかなと。今はすでに削除されてしまいましたが。

あにもに:そんなのもありましたね。あれを覚えている人が一体どれくらいいるのか正直分かりませんが……。

ab:また「メダルの国のハロウィン~ノリコと妖精~」は大谷肇監督の予定でした。いつか公開されたら前回ゲストだった苔人間さんの感想が聞きたいです。「星空編」はまあ……置いておきましょう。

あにもに:最近だと『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』のゲーム版オープニングアニメーションが公開された際にもコミケで議論しました。沼田誠也演出により、シャフト表現の表層をなぞったようなオープニングについてです。

ab:ありましたね。あとはシャフトの新作情報が公開されるタイミングであにもにさんが開くシャフト会でよく話します。『3月のライオン』(2015年)や『CRYSTAR』(2018年)のときとか。

あにもに:abさんが日本に来られるタイミングで会を開いていたので常連メンバーです。

ab:最近日本に引っ越しまして、これでイベントにもたくさん行けるぞというタイミングでパンデミックが起きてしまったのでとても残念です。

あにもに:コロナもあって、最近はオンラインで何回か通話しましたね。今回はabさんをゲストにお呼びしたので、個人的にも気になっているところであるシャフト作品における海外受容についていろいろとお話を伺いたいと思います。日本にいるだけだとなかなか見えてこないものがあると思うので、いろいろと勉強させてください。

ab:自分は『叛逆』以降は海外ファンとは関わりが少なくなっていて、遠くから見守っている感じになってはいるのですが、それでも良ければぜひ。

 

 

【Puella Magi Wikiについて】

あにもに:いきなり個人情報を晒すことなりますが、abさんはPuella Magi Wikiの管理人ですよね。一応ご存知ない人向けに説明すると、『まどか』関連のウェブサイトの中で、おそらく世界最大規模を誇るWikiです。『まどか』ファンならおそらく一度は必ず見たことがあると思います。

ab:Puella Magi Wikiはもともと二人の管理人で共同でやっていたものです。もう一人の管理者は当時Wikia(現Fandom)で別の『まどか』Wikiを作っていた管理人さんです。

あにもに:初めて知りました。どういった経緯で始められたんですか?

ab:僕が2話の放送直後くらいに面白半分でpuella-magiのドメインを取得したんです。当時ドイツにサーバーを数台持っていて、たまたま使用していなかったものが1台余っていました。その頃ちょうど4chanで『まどか』のWikiaを作っている、という書き込みがあったので、僕からその方をお誘いしました。Wikiaは昔からめちゃ重かったので、専用のサーバーでやったほうがストレスが少なく編集できるんじゃないかなと思ったんです。

あにもに:なるほど。『まどか』Wikiといえば、日本のものはいまいち使い物にならないので、ちょっとした調べ物をしたいときには自分も海外Wikiを参照することが多いのですが、ルーツは一緒だったんですね。ちなみに両者にスタイルの違いはあるんですか?

ab:最近はもうコンタクトを取っていないので分かりません(笑)そもそもお互いが誰なのかも分からないです。昔のWikiaは現在Fandomに集約されています。Fandomの方にも『まどか』Wikiは存在しますが、ルーツは同じ『まどか』Wikiaであっても今は無関係です。実際Wikiaは1週間くらいしか使われていなくて、中の人も替わっていますし。

あにもに:Puella Magi Wikiはいつくらいから規模が大きくなっていったんですか?

ab:爆発的にアクセスが増えたのは3話ですね。今でも毎月1500万PVくらいあります。

あにもに:1500万PV!ちなみに放送当時はどれくらいあったんですか?

ab:ピーク時は1億を超えた記憶はありました。

あにもに:1億とは……。

ab:そのときはさすがにサーバーが耐えられなくなって環境を変えました。当時の人気は本当にヤバかったです。

あにもに:公式サイトを遥かに超えていますね。Puella Magi Wikiは網羅的に情報を掲載していて、アニメや劇場版はもちろん、スピンオフの漫画からゲーム版などもすべて載っています。また、書籍や雑誌情報なども事細かに載っているのが印象的です。

ab:そのころの情報編集のやりとりは主にIRCというチャットでやっていました。雑誌情報は2ちゃんねるに投稿されたものを誰かがテーブル化して表紙画像などを追加しました。書籍情報は『魔法少女かずみ☆マギカ 〜The innocent malice〜』(2011年)もあったので、最初の段階からその情報をまとめる方針でいました。

あにもに:日本でも「まどか資料班」という森羅万象ありとあらゆる『まどか』関連の資料をコレクションしている最強集団がいますが、海外でも同じような動きがあったということでしょうか。

ab:そうですね、資料班にはとても敵わないですが(笑)。『まどか』は海外展開が本当に少なくて、あっても北米が中心でした。放送当時は配信もなかったので、VPNなどで特別な方法で視聴するしかなくて……。

あにもに:最新作の『マギアレコード』(2020年)ではFunimationでオフィシャルに配信をやるようになっていましたが、当時は配信も無かったんですね。

ab:その点、同じアニプレックスでも『Fate』シリーズはかなり優遇されていました。たしか『Fate/Zero』(2011年)はCrunchyrollと英語版のNicoNicoで配信がありました。

あにもに:今でこそ『まどか』は国内外問わず人気コンテンツといえますが、放送当時はドメスティックなコンテンツだったんですね。

ab:そうです。今では考えられませんが。

あにもに:それにもかかわらずPuella Magi Wikiが月間1億アクセスを記録していたのは凄まじいですね。

ab:配信もなかったのになんでこんなに…という気持ちはありました。

あにもに:ちなみに海外の受容で特筆すべき点を挙げるとしたら他に何がありますか?

ab:海外受容的には魔女文字の解読班がかなり早い時期から動いていたことが挙げられますね。

あにもに:魔女文字解読!そういえばそうでしたね。

ab:あれは4chanが一番早く解読に成功したので、すごく盛り上がりました。当時僕もちょっとだけ参加していました。Wikiに載っている魔女文字表の原型を作りました。

あにもに:え、原型を作ったんですか!?

f:id:moni1:20200901224658p:plain2011年1月16日時点のもの

ab:劇中に出てくる魔女文字を手書きでトレースしたんです。『まどか』第1話のアンソニーが出てくる場面でいろいろな魔女文字が浮かび上がりますよね。

あにもに:最初の魔女空間のシーンですね。

f:id:moni1:20200901232852p:plain魔法少女まどか☆マギカ』第1話「夢の中で逢った、ような……」

ab:そのシーンのスクリーンショットを撮って、ひとつひとつトレースしました。4chanで「誰かこの文字を解読できる人はいないのか」という話になったとき、僕がそれを4chanに投稿して解読に参加しました。

あにもに:もはや『まどか』のブームの立役者では……。

ab:そんなことはないと思いますが(笑)。遅かれ早かれ別の誰かがやっていましたよ。

あにもに:少なくとも4chanで一気に解読が進んだきっかけはそれだったんですよね。

ab:解読が本格的に進んだきっかけはゲーテの『ファウスト』のレファレンスが見つかった瞬間だと思います。

あにもに:そうだ!2話の廃ビルの壁に書かれていた文章ですよね。

f:id:moni1:20200901225625p:plain魔法少女まどか☆マギカ』第2話「それはとっても嬉しいなって」

ab:その糸口が見つかったことで魔女文字解読が一気に盛り上がりました。その時期はまとめブログなどで「異世界文字を解析したwww」のような記事が流行っていたりして、それで海外ファンらが自分たちも4chanでやってみるぞ!という意気込みが大きかったかなと。

あにもに:当時、日本でも2ちゃんねるのスレ消費は相当早かった覚えがあります。解読や考察でずっと盛り上がっていました。その成果としてさまざまな珍説が生まれましたが……。

ab:あのときは面白半分でやっていたのですが、まさかここまで人気になるとは思いもよらなかったです。個人的には魔女文字はもともと黒板ネタ的な扱いなんじゃないかなと思っていて、今でもちょっと申し訳ないです。

あにもに:たしかに本来あそこまで読み込まれることはあまり意識されていなかったというか、もちろん今では解読されること込みで織り込んでいるように見えますが、最初は装飾それ自体の効果の方が狙いとしては大きかった気がします。ちなみに1話放送当時の海外の評価的にはどんな感じでした?

ab:海外の評価としては、劇団イヌカレー演出のアヴァンギャルドな映像は褒められていましたが、物語の面ではそれほど……という意見が多かったです。当時、Anime News Networkという海外の大手アニメニュースサイトのレビュー記事で、「ストーリーはどうでもいい」みたいなことが言われていました。

あにもに:それが一気に変わったのが3話以降ということですか?

ab:3話で爆発して、さらに大爆発したのは10話です。

あにもに:10話は本当にひとつのエピソードとして完成され過ぎていて、いつ見ても驚愕します。

ab:歴史的にも語り継がれるアニメ話数のひとつなんじゃないかなと思います。

あにもに:その辺の評価の流れに関しては日本でもだいたい同じですね。

ab:そういうことになりますね。

あにもに:『まどか』はストーリー面でも高い評価を得た作品ですが、当時の4chanのムーブメントとPuella Magi Wikiの存在が『まどか』ブームに相当程度影響を及ぼしたことは間違いないと思います。時代が下るにつれて忘れ去られがちですが、やはりこの辺の受け手側の受容に関しては、ある程度記録として残しておきたいですね。

【海外の評価について】

あにもに:ひとつお聞きしたいのは、『まどか』は1話時点で映像的には評価がされていたという話でしたが、そもそもシャフトという制作会社はどういう風に見られていたんでしょうか?すでに『化物語』や『さよなら絶望先生』(2007年)などがあったとは思うのですが……。

ab:そこに関しては日本とそれほど変わらないかと思います。アヴァンギャルドな映像で一部の層には人気がありましたが、一方で紙芝居という評価は海外でもありました。

あにもに:化物語』とかも人気なんですか?

ab:超人気です。『化物語』は海外展開がまったくなかったのにもかかわらず超人気作だった作品のひとつですね。

あにもに:みんなFansubを通して見ている感じなんでしょうか。

ab:そうですね。一応原作の小説に関しては、Ko Ransomさんという翻訳家が手掛けた英語版があります。最近「〈物語〉シリーズは翻訳不可能である」というYouTubeの動画がアニメ界隈で話題になって、彼のツイッターでの反応が面白かったです。

f:id:moni1:20200901224929p:plain

英語版『化物語』表紙はVOFAN描き下ろし

あにもに:翻訳が難しそうですが、あるにはあるんですね。そういえば海外にはMyAnimeListという巨大なSNS兼データベースサイトがありますが、あそこのアニメランキングを眺めていると日本との感覚の違いを結構感じます。こう言っては何ですが、〈物語〉シリーズや『3月のライオン』の評価がかなり高い気がします。

ab:MyAnimeListはユーザー層がちょっと特殊で……年齢性が低いというか、かなり偏っています。たまにガチなファンもいますが。

あにもに:そういったファンにも〈物語〉シリーズは人気なんですね。

ab:人気ですね。ちなみにここのランキングに『NARUTO』(2002年)が入っていない理由は、『NARUTO』に対して集団投票で1点を付けるという騒動があったりなかったりしたことが原因です。MALの評価システム自体かなり票数操作に左右されやすいということです。

あにもに:悪いインターネットのお手本のようですね。そんな風潮がある中でも『鋼の錬金術師』(2009年)などがトップなのは不思議な感覚です。

ab:鋼の錬金術師』は誰の目から見ても良作ですが、100人に聞いて100人中それがトップであるかといったら微妙な気はします。それでいうと『3月のライオン』は名作ですが、全アニメ中の9位と言われるとうーん……となります。『STEINS;GATE』(2011年)も好きですが、2位と言われるとしっくり来ないです。

あにもに:自分も『STEINS;GATE』は高く評価していますが、ゲームならともかくアニメ版がそんなに人気な理由は正直よく分かりません……。

ab:上位に終物語』(2015年)や『傷物語』(2017年)が入ってるのは面白いですね。

あにもに:シリーズものが有利に出ているんでしょうね。シャフト作品別で評価を見てみると、『月詠 -MOON PHASE-』(2004年)や『まりあ†ほりっく』(2009年)などは評価が低い傾向にある。あと『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(2017年)も厳しい。

ab:『打ち上げ花火』は妥当じゃないですか?

あにもに:妥当じゃないです!『打ち上げ花火』はシャフトの歴史的にも相当重要な作品です。それはともかく『ぱにぽにだっしゅ!』(2005年)なども低くて悲しい……。

ab:MALの基本的な傾向として、微妙に古いアニメほど不利です。逆に近年の新作に関しては概ね有利に働きます。要するに最新クールの新作と、超古い名作アニメなどが安定して高スコアを叩き出して、その中間にあたる2000年代の作品とかが微妙に出てしまうんです。

あにもに:なるほど。海外受けしやすい作風の作品があるのは知っていますが、いわゆるゼロ年代のオーソドックスな萌えアニメ系の作品は厳しそうです。

ab:それもそうですが、ゼロ年代というよりも「レトロ」と言えば、90年代以前の作品をまず思い浮かべます。そのため、昔の名作を見るとなった場合、ゼロ年代のアニメを見るというよりも80年代〜90年代のアニメが参照されます。あとはMALのユーザー層的には少年ジャンプの作品が強いというのもあります。そういう意味では『ニセコイ』(2014年)もなかなかの評価ですね。

あにもに:まあ古い作品であればあるほど生存バイアスが働くというのはありますね。MALは利用者数が多い印象があったのですが、やはり全体的にある程度偏りが発生していると。

ab:他にシステム面で難点があるとしたら、投票人数が評価に反映されていないことです。『銀河英雄伝説』(1988年)は現在約20万人、『HUNTER×HUNTER』(2011年)は約130万人が評価していて、実に6倍以上の差があります。その差を考慮せずに全体でランキングを付けると、いわゆる「でんでん現象」が起こりやすいですね。

あにもに:「でんでん現象」って久々に聞きました(笑)。こうして見てみると、海外の評価は日本の評価とだいたい一致している気がしてきました。『3月のライオン』がトップに君臨しているのも分かる気がします。話が前後してしまいますが、シャフトといえばやはり新房監督の存在は外せないと思うのですが、そこら辺の評価はどんな感じでしょうか。

ab:新房監督は名義貸しだと海外でもよく言われていますよ(笑)。

あにもに:日本と一緒ですね〜。

ab:雑誌のインタビューなどを読めばコンテ修正などをガンガンやっていることは分かると思うのですが、海外ではその情報をアクセスできる人は限られているので、訂正できる人も少なくて残念です。

あにもに:実際に総監督とシリーズディレクターがそれぞれ何をやっているのかというのを把握するのは難しいと言うか、意図的に曖昧にしているところはあって、それによって企業としてのブランディング戦略を図っている側面もあるのが事態を複雑にしていますね。ただ、新房監督が名義貸しだとか1話しかコンテチェックをしていないだとかの言説は明確に誤りなので、訂正していきたいです。

ab:あと最近の話題としては、板村智幸監督などを含めていろいろな人が抜けたという話も海外でされていましたね。

あにもに:そんな話まで!

ab:これに関してもそもそもほとんどのスタッフがフリーなので、抜けたという表現は語弊がある気はしなくもないのですが……。

あにもに:長い間仕事をしていたスタジオですので話題になること自体は理解できます。それにしてもそんな話まで海外で……。

ab:といっても海外からはこういう情報をアクセスするのに相当ハードルが高いということには変わりありません。情報の一部だけ掴んで、噂や推測がひとり歩きしてしまいます。やはり言語の壁が大きいです。

あにもに:一方でOTAQUESTという海外メディアで伊藤良明インタビューが出たのは衝撃的でした。『幸腹グラフィティ』(2015年)の色彩設計の話から山下清悟作画や京都アニメーションの料理作画などを語っているんですよ。

ab:たしかに、逆にこちらはどういう経緯でインタビューしているかが気になりますね。

あにもに:ちなみにOTAQUESTは他にも『マギアレコード』放映後に劇団イヌカレーインタビューを取っていたりして必読です。日本では全然話題になっていないのが不思議ですが、版権元や日本のオタクに見つかりにくいからこそ海外インタビューを受けやすいという線はありそうです。いずれにしても海外の評価と日本の評価はさほど変わらないというか、概ね一致しているということが分かりました。

【アニメコミュニティについて】

あにもに:海外のアニメコミュニティはどこにあるのか?という話について質問させてください。例えば『まどか』を例に挙げると、現在一番メジャーなコミュニティはRedditとDiscordの専用サーバーあたりだと思うのですが。

ab:そうですね。今はどのコンテンツもRedditとDiscordがメインでしょうね。ただ、海外とひとくくりにして話をここまで進めさせていただきましたが、実際には多種多様多国籍なので一概に「海外はこうだ」とは言えないです。あくまで自分の活動圏内での観察です。

あにもに:日本だと現状ほとんどツイッターが中心だと思うのですが、やや特殊な環境ですよね。自分が知っている海外コミュニティの中だと、やはり『まどか』と〈物語〉シリーズのコミュニティが頭一つ抜けて大きいイメージがあります。『さよなら絶望先生』などもあるにはありますが、それほど大きくはなくて。少し前にReddit上でシリーズの全話数再視聴企画をやっていて、結構盛り上がっていたのですが、前述した2作品ほど大きくはない。さすがに放送当時の雰囲気までは把握していないのですが。

ab:最近はあまりチェックしていませんが、『ぱにぽにだっしゅ!』の放送時は4chanでも結構話題でした。特にオープニングとかですね。当然といえば当然なのですが、Fansubの流通がかなり遅いので盛り上がりは一部に留まってる記憶がありました。同時期で一番人気だったのは圧倒的に『灼眼のシャナ』(2005年)だったような。

あにもに:当時で大きいコミュニティと言うとやはり4chanですか?

ab:4chanとAnimeSukiと、あと名前が思い出せないですがもうひとつありました。AnimeSukiは昔は大きかったですが、最近はRedditFacebookグループやTwitterなどに分散した印象です。あとはIRCですね。

あにもに:なるほど。今でいうとDiscordの存在感がそれなりに強いと思うのですが、ひとつ面白いのはモデレーターというサーバーの管理権限を付与されているオタクが一定数いて、そのオタクの発言力が強いというのがある。

ab:ありますね。

あにもに:いわゆる「界隈で有名なオタク」的な扱いですが、例えば海外の〈物語〉シリーズのコミュニティをウォッチしていると、常に「鑑賞の順番(Watch Order)」について議論している有名オタクがいます。その人の影響かどうかかは分かりませんが、海外の〈物語〉シリーズファンは、鑑賞の順番にものすごくこだわりがあるオタクが多くて。重要なトピックではあるのですが、日本だとこの手の議論は全然見ないので新鮮です。

ab:たしかに順番に関する議論はよく交わされていますね。

あにもに:アニメ放映順で視聴するのか、それとも原作刊行順なのか、原作の順番と前後した『花物語』(2014年)や『傷物語』をどのタイミングで観るのか等いろいろと想定パターンがあって、議論に値するものではあります。

ab:ちなみに日本だとどの順番で観る人が多いんですか?

あにもに:日本ではたぶん放送順がマジョリティだと思いますよ。そもそも放送時にリアルタイムで観ていた人が多いというのもありそうですが……。したがって『傷物語』は『暦物語』(2016年)の後でしょうね。

ab:海外だと変な順番で観る人が一定数いますね。逆から視聴する人とか。

あにもに:逆から!

ab:最新作から過去に遡っていく形です。さすがにマイナーだとは思いますが。

あにもに:マイナー(?)といえば、劇中で起きた出来事を時系列順に並び替えて視聴する方法があるのは見たことがあります。最初に『傷物語』を観て、最後に『花物語』を観るといった感じです。たしかに試みとしては面白いですが、これは西尾維新における語りの構造に関わってくる問題なので、初見はいまいちオススメはできません。見返すときなどは良いと思うのですが。

ab:「海外」というとサンプル数が多いので、マイナーな視聴方法を行う人が比例的に多く見えるんじゃないかなと思います。

あにもに:最近自分が見た中で一番面白かったのは、『マギアレコード』の海外の動向を追っていたら、いわゆる「いろやち問題」というのが存在するのを知りました。これは何かというと、いろはとやちよさんペアの年齢差を問題視する議論で、端的に言うとやちよさんが未成年に手を出しているんじゃないかという話です。

ab:やちよさんは19歳では?

あにもに:たしかに日本だとやちよさんはぎりぎり成人していないという設定だったと思いますが、向こうは未成年の扱いに日本以上にセンシティブなので、こういった議論もあるようです。

ab:冗談半分でやっているとは思いますが(笑)。ただそういった議論があるのは事実ですね。さっきのコミュニティの話に戻りますが、僕が知る限りの『まどか』のコミュニティはReddit内でも大きく分けて3つあります。それぞれDiscordも展開されていて、例えば『まどか』のコミュニティの/r/MadokaMagicaと、そこから派生した『マギアレコード』専用の/r/MagiaRecord、そしていわゆる二次創作の界隈、例えばFanfiction.netなどで有名な”To the Stars”という長大なシリーズものがあります。実際にはこれ以上多いとは思うのですが、ひとつのサイトで観察できる範囲でもこれだけ色々なコミュニティがありますね。

あにもに:二次創作界隈はノーマークでした。たしかに日本でも大きいです。いろいろな棲み分けがなされているんですね。

ab:Discordは英語圏以外のユーザーも結構利用されていて、その言語専用のDiscordサーバーも存在します。Redditは逆に英語圏以外はあまり使われてなく、FacebookグループやTwitterが大きいかなと。

あにもに:Tumblrなども大きい印象があります。4chanは今でも大きいですか?

ab:どちらかといえば4chanのユーザー層は、今でも5ちゃんねるを使っている人と同印象です。4chanには特定の客層が定着しているので、そういう意味では棲み分けが出来ていますね。ユーザー層がさまざまなところに散らばっていても、それなりにまだ大きいです。

あにもに:ちょっと雑なイメージで海外を語り過ぎてしまったかもしれません。やはりコミュニティの把握は難しそうです。

ab:海外はとにかく広いので、各々によって真逆の見方がありえると思います。

【ファン活動について】

あにもに:そういえば海外でいうとアニメコンベンションも特徴的ですよね。

ab:ありますね。アニメ・エキスポのような。

あにもに:企業主催のイベントや、コスプレエリア、ライブ、即売会などがすべて一体化していて、コミケとはまた違った独特の雰囲気がある。その中でも面白いのは、オタクが登壇して観客の前でプレゼンテーションをするイベントがある。ある意味でSF大会などの自主企画を彷彿とさせるものですが、かなり盛んに行われている印象があります。

ab:いわゆるパネルディスカッション形式の一種ですね。

あにもに:そこで結構シャフトに関する議論がなされているんです。一例を挙げると、アメリカのアトランタでやっているアニメ・ウィークエンド・アトランタというイベントがあるのですが、2016年に”40 YEARS OF SHAFT PANEL”と称して、Jimmy Gnome@jimmygnome9)というオタクがシャフト史のプレゼンテーションをしている。このときの様子は主催者本人が録音をあげているので、ぜひ観ていない人は観て欲しいのですが、様々な情報を丹念に調べ上げていて驚きます。こういったファン活動は日本ではあまり見られないものです。

ab:以前どうしてこういうパネルディスカッションのフォーマットが出来たのか気になってちょっと調べたのですが、おそらくコミコン・インターナショナルの形式がそのままアニメ系にも流れていったんじゃないかなと思います。コミコンでは積極的にパネルディスカッションをやっていました。

あにもに:自分が知っている限り、この手のパネルイベントは世界的にあって、例えばDesuconというフィンランドでやっているイベントがありますが、ここでも同様にシャフト作品を語る自主企画をやっている。そして2015年には虚淵玄をゲストに呼んでいる……。また、フランスでもJonetsuというイベントがあってシャフト特集をやっています。しかもここでは高津幸央監督をゲストに呼んでトークイベントを開催するなど超ビッグイベントをやっていました。

ab:すごいですね。僕も昔フランス語を勉強していましたが、もう忘れちゃいました。

あにもに:自分も大学で勉強したので少しだけなら分かるのですが……ただシャフトオタクであれば、言語が分からなくてもなんとなく喋っている内容は伝わると思います。

ab:こういう参加者が主催するパネルディスカッションはアジア系のイベントではあまりやらない印象で、アメリカやヨーロッパ圏に多い気がします。あとクリエイターをゲストとして呼ぶ系だと日本だと声優に偏りがちなような。個人的には声優に作品全体を語らせるというのはちょっと違うなと思いますが。

あにもに:まあ自分は声優好きなので……。

ab:門脇舞以さんですか?

あにもに:門脇舞以さんとかですね~。

ab:海外では吹き替えで視聴しているオタクも結構多いので、声優ファンが少ないという問題もあるのですが。

あにもに:たしかに吹き替え問題はありそうです。あと海外の特徴として、YouTubeなどを通してアニメを紹介する動画が人気です。The Anime Manをはじめとしたアニメ系YouTuberを筆頭に、RCAnimeといったコメンタリー系の動画を出しているところも多い。この手の盛り上がりも日本では少ない気がする。

ab:日本だとあまり見ない形式ですね。

あにもに:日本だとあっても胡散臭い考察動画ばかりで……。また一応自分は中国語圏のファンコミュニティもある程度追っているのですが、bilibiliでも同じくアニメ紹介動画がそれなりに存在感が大きい。新房監督の演出スタイルを探っていくといった動画があったりする。

ab:実際に海外ではこういう動画や記事は日本語の分からない人にとっては貴重な情報源です。熱量を持ったファンが頑張って紹介と啓蒙活動をすることで、自分と同じ興味を持ったコミュニティ圏が出来上がり、両者とも得をするような関係です。昔は僕もよく雑誌のインタビューなどを翻訳していました。だいたいの資料が日本語なので、そういった情報を入手できる機会はレアなんです。

あにもに:翻訳ができるのは明確な強みですよね。他にもAnitamaという中国の大手アニメ系ウェブメディアがあって、ここではシャフトの演出を語るブログ記事があったりする。この記事はシャフト作品における被写体とカメラポジションの問題を扱った短い文章ですが、日本の演出を語るアニメブログとほとんど同じ形式です。

ab:中国は人口もめちゃめちゃ多いので、中国語だけで大きなコミュニティを形成できるんでしょうね。

あにもに:今思い出したのですが、寺尾洋之さんのインタビューもAnitamaでありました。

ab:いずれにせよ日本人は日本のコンテンツを日本語で楽しむので、簡単に同士を見つけることができますが、海外だとそうはいきません。啓蒙と同時にグループを作る目的があるんじゃないかなと思います。僕の今の関わりのあるいわゆる海外ファンの方々も翻訳やってた頃からの付き合いでした。

あにもに:たしかにその感じはありそうですね。他のオタクに紹介する際に動画を送り付けて布教ができるのは大きい気がする。

ab:コンテンツへのアクセスのしやすさの問題ですね。例えば僕の場合はシャフトアニメの演出を語りたいと思ったときにはあにもにさんにDMすればいいわけですが。

あにもに:いつもDMでやり取りしていますね。

ab:それかあにもにさんと個人的に会って話すことが多いですよね。ただ海外にいるとそうはいかないので、自らコミュニティを形成するといったことが大事になってくる。

あにもに:コンテンツへのアクセスアクセスのしづらさが逆にファン活動を盛り上げているといった感じでしょうか。

ab:そういう側面もあると思います。

あにもに:なるほどです。ファン活動といえば、海外の同人ゲームでMAWARIWORKSというサークルが制作している『ETERNAL』というピクチャードラマ形式のゲームがありまして、これもある種のファン活動といっても良いと思います。

ab:あ、宣伝ですか?

あにもに:宣伝です(笑)。自分も制作プロジェクトの一部に関わっているので、手前味噌になってしまうのですが、『ETERNAL』はシャフトの尾石達也大沼心スタイルで一本ノベルゲームを作ってしまうといった大胆な試みで、なかなか凄いと思います。日本だと一昔前にニコニコ動画で「野生のシャフト」といってシャフトパロディのMAD動画などがたくさん作られましたが、その延長線上にあるイメージです。「野生のシャフト」は実際にその後アニメーターを生み出したわけですが。

ab:日本だとこういうゲームを作るときは、コミケで頒布することが必ずといって良いほど目標としてありますが、海外だとオフラインで公開できる場がそもそも少ないので、ネットで公開することが多くなるんだと思います。YouTubeだったり、Patreonだったり。ゲーム系は昔だとSteam Greenlightで、今はSteam Directですね。アニメの評論系同人誌は日本だとそこそこありますが、海外だとそういった形式は「ブログ」や「動画」と言った形に取って代わってると言っても良いではないかなと思います。

あにもに:興味深い指摘だと思います。ただやはり観測範囲の問題はありますね。今回のタイトルは「海外のシャフト事情」にしようと考えていたんですが、「ある種の傾向」にしておきます。

ab:そうしてください。あくまで氷山の一角に過ぎないので。

【余談】

あにもに:それにしても海外オタクのアンテナの張り方はすごいですよね。前回の『もにラジ』第0回の大谷肇回もツイッターで宣伝したら海外のシャフトオタクから結構リツイートされて驚きました。

ab:それに関してはたぶんもともとシャフトに関心ある人があにもにさんをフォローしているんだと思いますよ。

あにもに:シャフト同人誌もグローバルに英語版を出すべきでしょうか。

ab:こっちを見ないで!

あにもに:自分が英訳してもいいのですが、単純に作業量が無限大になってしまう……。

ab:じゃあ英訳はあにもにさんにお願いします!(笑)

あにもに:とはいえ、日本語圏のファン以外にもアプローチしたいのはありますね。そういえば前回の『もにラジ』で完全に言い忘れましたが、現在シャフトに関する合同誌を制作中です。興味ある人は自分にDMください。英語原稿もお待ちしております!本日はありがとうございました。