もにも~ど

関係するものと関係しないものすべて

『もにラジ』第2回「『美少年探偵団』最速感想会」

2021年4月新作アニメ『美少年探偵団』1話の放映後に、abさん、苔さん、そして合同評論誌『東映版Keyのキセキ』の企画・編集を務めたhighlandさんと一緒にオタク・雑談をしました。

放送直後の突発的な感想会だったので各々好き勝手に話していますが、シャフト作品を考える上でいくつか重要な論点が含まれていた気がしたので、急遽『もにラジ』第2回として書き起こすことにしました。

お便りとファンアートはあにもに(@animmony)のDMまで。どしどし募集中です!

 

◆参加者プロフィール

f:id:moni1:20200721220522p:plain あにもに@animmony

シャフトアニメを意外にも観るオタク。いちのや。
ちょっとだけ頭使って、後は根性ー! 

f:id:moni1:20210417111038j:plain highland@highland_sh

シャフト作品を全作見れてないのでシャフトオタクを名乗れないオタク。
新房昭之の原体験は『THE GOD OF DEATH』(2005年)のOP。 

f:id:moni1:20210417111053j:plain ab@abacus_ha

最近アイデンティティがなくなりつつある感の否めない海外のオタク。
ふつつか者ですがよろしくお願いします。

 f:id:moni1:20200721220515j:plain @_johann_hedwig)※チャットでの参加

新房昭之コンテとコンテ回の模写を毎日続けているオタク。
職業:アニメーションスーパーウォッチャー

 

 【『美少年探偵団』について】 

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『美少年探偵団』1話「きみだけに光かがやく暗黒星 その1」

 

あにもに:皆さま本日はよろしくお願いします。『美少年探偵団』(2021年)が個人的にかなり良かったので、急遽ですが感想会をしようと思いお集まりいただきました。さっそくですが、1話は自分は限りなく絶賛といっても良いくらい面白く、積極的に肯定していきたいと思える作品でした。作品としてかなり洗練されていて、演出的な視点から考えても、シャフトが長年追い求めているスタイルのある種の理想形に近いのではないかと感じました。今後、実験的な演出要素も十分に期待出来ると思いますし、ここ5年くらいのシャフト作品の中ではトップレベルに良かったのではないでしょうか。highlandさんはどうでしたか? 

highland:自分も良いと思いました。ひとつだけあにもにさんの感想に付け加えることがあるとすれば、遊びの要素がやや少ないのかなという印象を持ちました。〈物語〉シリーズに顕著だったような、作劇に直接寄与しないギミックなどがあまり無かったというか。これは近年のシャフト作品に共通して指摘できることだと思うのですが。

あにもに:背景やオブジェクトなどがすべてひとつのスタイルとして全体の作風に還元しているように見えますね。いろいろな要素を有機的に組み立てていて、昔のシャフトアニメのようなカオス状態にはなっていないと言えます。abさんはどうでしょうか?

ab:1話は良いか悪いかで言えば、良かったかなと思います。僕は原作を読んでいないので、まだ話がどういう風に展開していくのか分からないところはあるのですが、何となくストーリーの導入としては『化物語』(2009年)の1話とかと似ているのではないかなという印象を受けました。ただ、『化物語』はビジュアル面で原作読者の斜め上を行く映像化だったのに対して、『美少年探偵団』は概ね原作読者のイメージに近しい形になっているのではないかと感じました。

highland:自分も原作は読んでいませんが、それは感じましたね。

あにもに:なるほど。苔さんはどう観ましたか?苔さんは『美少年探偵団』のメインスタッフが発表される以前から大谷肇監督の演出で観てみたいと言っていた程のファンですので、ぜひとも感想を伺いたいです。

苔:自分も原作は読んでいないのですが、他の西尾維新の小説を参照して考えると、情報量のペースメーキングが原作に忠実なのではという風に感じました。『化物語』などでは映像としてのテンポを再構築するための工夫が多く見られましたが、この1話は西尾維新原作を読む際のテンポそのものを原作再現のひとつとしているのではないかとも感じました。 あにもに:大谷さんは近年のシャフト作品の第一線で活躍してきた演出家ですが、本作がシャフトでの初監督作品ということになると思います。以前、別の記事でも取り上げたことがありますが、今回演出的な観点からはどうでしょう。

苔:シャフト作品で言うと、『かってに改蔵』(2011年)時代からの大谷監督の特徴、例えば日の丸構図の多用・手元の仕草をメインとした芝居・絵画・舞台的な光の表現を比較的重視するところなど以外は、堅実な演出の上に新房要素をブレンドした感じだなあという印象です。作中に登場するフォントがダサいですが、シャフト演出的にも余計なノイズはなくて、演出厨的にも幸腹な映像化でした。ただナメが弱いのは気になりました。

あにもに:たしかに、フォントに関してはそう言えるかもしれません。

highland:フォントと言えばシャフトではないですが、元シャフト関連のスタッフを中心に作られた八瀬祐樹監督の『炎炎ノ消防隊』(2019年)もダサかった……。

あにもに:炎炎ノ消防隊』のタイポグラフィはフォントもレイアウトもまったく駄目でしたね。非常にもったいなかったです。

highland:そういう意味では、かつてのシャフトの強みであったフォント要素は現在に引き継がれていないのでは感があります。

ab:そもそもそこら辺のセンスは尾石達也さん一人しか持っていなかったのでは……。

あにもに:尾石さんがシャフトにおけるタイポグラフィの大部分を支えていたというのは間違いないでしょうね。『さよなら絶望先生』(2007年)や『まりあ†ほりっく』(2009年)の頃に尾石さんが一人でひたすらテロップを仕込む作業をしていたのは、そもそも尾石さんしか出来る人がいなかったからというか。またノンクレジットではありますが、『ひだまりスケッチ×☆☆☆』(2010年)などにもがっつりと制作に関わっていたわけですし。

苔:とはいえ1話は手探りの中で作っていると思うので、今後変わっていくのかなとも思います。

あにもに:放送直後にツイッターで感想をつぶやいたら西尾維新クラスタからたくさんリツイートされて、いろいろな人のタイムラインを見に行ったのですが、ひとつ面白いなと思ったのは、一部の西尾維新クラスタでめちゃくちゃなシャフトアンチがいて。 

ab:あ、シャフトアンチの西尾維新ファンは普通にいますよね。

あにもに:〈物語〉シリーズ戯言シリーズもシャフトが独自路線で映像化しているので、それに反発している界隈があって、〈物語〉シリーズはともかくとして、そもそも『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』(2016年)の評価はあまり良いとは言えないので……。

highland:古の西尾維新オタクからしたら嫌でしょうね。

あにもに:ただ、今回の『美少年探偵団』に関しては、わりと受け入れられているようでして、悪くない反応でした。「シャフトにしては頑張った」といった感想が多かったです(笑)。

highland:演出や編集の面では結構シャフトっぽいところが残っているんですけれどね。むしろ、近年のシャフト作品の中でもめちゃくちゃシャフトっぽい方だと思います。原作読者からしたら、シャフトっぽいけれど外し過ぎていないということなんでしょうかね?

あにもに:カット割りというよりは、原作のキナコ先生のイラストがアニメできちんと再現されていて嬉しい、という感想が多かったです。キャラクターデザインの山村洋貴さんの端正な美少年の絵が非常に素晴らしく。

highland:作画はとてもリッチな感じでしたね。

ab:「美」をメインテーマとして扱ってる物語とシャフトの画面作りがマッチしていて、シャフトらしさを残しながら原作の雰囲気と合致していると言えるではないでしょうか。

highland:あとは関係ないギミックを入れたりしていないというところがポイントなんですかね。

あにもに:原作と無関係のギミックといえば、例えば『クビキリサイクル』が分かりやすいのですが、舞台設定が原作小説とアニメではイメージが全然違います。原作はいわゆる本格ミステリ的なクローズドサークルもので、孤島に佇む洋風屋敷が舞台なのに、アニメでは想像を絶するような機械仕掛けの亜空間建築が展開されている。

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クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』3話「四日目(1) 首斬り一つ」

 

highland:新房監督が『クビキリサイクル』の公開前のインタビューで、今回はミステリ作品だから、例えば動く部屋などがあってしまうとそもそもトリックとして成立しなくなってしまうので、そういう演出はしない方向で作っていく、という風なことを言っていたのですが、実際は訳の分からないくらい動いていましたよね。あれにはさすがに驚きました。 

あにもに:完全にフェイク・インタビューですね。『クビキリサイクル』は『美少年探偵団』とスタッフ的にも共通点があって、大谷監督も演出を手掛けていたりします。

highland:そういえば今回は総作画監督が3人も入っています。

ab:各話の作画監督に複数人が入っているのはアニメーションプロデューサーの安田孝一さんの方針なんじゃないかと思いました。『3月のライオン』2期(2017年)とか『アサルトリリィ BOUQUET』(2020年)とかとスタッフの配陣が少し似ているような気がします。各話作画監督3〜4人の中に、2人がローテーションで2〜3話ずつ入るという配陣なのかなと。

あにもに:座組的にもそうでしょうね。いつ頃からこの企画が動いていたか気になるところです。

highland:今回は絵本っぽいタッチを多用していて、色彩面を含めて全体的に良かったです。回想のシーンや夜のシーンとかもトーンを統一してきれいにまとまっていました。

 

 【演出ギミックについて】

highland:綺羅星」というワードが出てきたこともあって、『STAR DRIVER 輝きのタクト』(2010年)を何となく連想する人が多かったようです。

あにもに:五十嵐卓哉監督繋がりで、『桜蘭高校ホスト部』(2006年)もよく名前が挙がっていました。設定的にも類似していて、まずもって主演が坂本真綾さんですので。 

highland:もろにそうですよね。坂本さんは『あんさんぶるスターズ!』(2019年)でもこういうタイプの主人公をやっていたので、こういう役柄が最近多いのかなという印象です。 

ab:逆に言えば、キャスティングの段階からかなり『桜蘭高校ホスト部』を意識した配役でしょうね。「シャフトの作る、西尾維新原作の『桜蘭高校ホスト部』」という説明がすごくしっくり来ました。

あにもに:五十嵐監督作品と言えば、知人の抽象アニメーション研究者の田中大裕さんのツイキャスをこの前たまたま聴いたら、大谷監督を新房昭之の直系のフォロワーとして捉えつつ、ポスト五十嵐卓哉の演出家が長らく空席状態であったことを指摘していて、大谷監督にその後継者としての可能性を論じていました。具体的な検討が必要だとは思いますが、大変興味深い論点だと思います。

highland:そこは幾原さんではなく、五十嵐さんなんですね。

あにもに:シャフトと幾原邦彦の関係性についてはまた長くなってしまうので割愛しますが、大谷監督の演出を考える上では結構重要な観点だと思います。個人的には五十嵐卓哉の後継者としてのポジションで言えば、どちらかというと『クビキリサイクル』で監督を務めた八瀬さんが有力候補として挙がるのが自然なのではないかとも思うのですが、今回の『美少年探偵団』1話を観る限り、たしかに五十嵐さんのイメージを自分も感じ取りました。 

highland:題材的な側面も大きそうですからね。ギミックレベルで共通点があるかと言えば、まだ微妙なところはあると思います。『桜蘭高校ホスト部』っぽいと言えば、そうだと思いますが。

あにもに:桜蘭高校ホスト部』の1話を『美少年探偵団』と比べてみた際に、ひとつ面白いと思うのはキャラクター紹介の見せ方です。『桜蘭高校ホスト部』では序盤の方でわずか5秒程度ですべてのキャラクターの紹介を手際よく効率的に済ませるのに対して、『美少年探偵団』では5分以上掛けて坂本真綾がぶっ続けで喋り倒すという暴挙に出る。これは榎戸洋司西尾維新の差異とも言えるかと思いますが、露骨なほど対照的です。 

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『美少年探偵団』1話「きみだけに光かがやく暗黒星 その1」

 

highland:かなりねちっこいですよね。例えば、カメラが縦PANするときに途中でスキップせずに、しっかりと人物の全体像を隈なく映すじゃないですか。あれはちょっと、分割縦PANを多用していた『さよなら絶望先生』(2007年)の頃から比べると、やや退化しているのではと思わなくもないです。

あにもに:『美少年探偵団』では「美学とはすなわち縦PANである」といったくらいに垂直的なカメラワークを繰り返しますね。あと『桜蘭高校ホスト部』はめちゃめちゃ動きが付いているのに対して、『美少年探偵団』1話はアニメーション的には動かすところと動かさないところのコントラストがはっきりしています。

highland:五十嵐さんの演出はたしかに動かしまくるイメージがありますね。まあ、『美少年探偵団』でも美脚の飆太はかなり動いていましたが。

あにもに:もちろん動きのあるところも含めてきめ細やかだったのが好印象だったと思います。また、目アップのバリエーションが非常に豊かでした。カメラワークに音が付いていたりするのは完全に〈物語〉シリーズの文法です。

highland:いつもの引いて見せる絵も多かったですよね。自分は「断面図レイアウト」と呼んでいるのですが、超ロングショットで地面さえも映るような引きのカットで、キャラクターをあえてシルエット化することで際立たせるという、新房監督がよく使っている演出手法があります。元々新房監督が好んで使っていて、それに影響されてシャフトの演出家の人たちも使うようになっていますよね。『新破裏拳ポリマー』(1996年)などでも採用しているものです。

あにもに:構図的な話で言えば、シャフト作品の演劇的側面はこれまで頻繁に指摘されてきましたが、今回の『美少年探偵団』は100%舞台演出でした。アバンで視聴者に語りかける演出はまさにその宣言のようでした。ここでは『クビキリサイクル』的な文字演出もあったりして……。 

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『美少年探偵団』1話「きみだけに光かがやく暗黒星 その1」

 

highland:文字演出といえば、ヴォルテールの引用が文字として画面に出るだけではなくて、カットが変わって背景と一体化してスポットライトが当たりながら映し出されるというのが新鮮でした。〈物語〉シリーズとかでありそうでなかったので。

あにもに:劇中の登場人物が超越的な視点から視聴者に語りかけるのはテネシー・ウィリアムズの『ガラスの動物園』っぽい感じでしょうか。ポール・ニューマン監督の1987年の映画版でも冒頭はカメラに向かって語り手が話すというシーンから始まっていました。そこでヴォルテールを皮肉るのがいかにも西尾維新っぽいですが。

highland:そういえば構成的にはタイトルカードというかサブタイトルのカットが挿入されて、章立てのようになっているじゃないですか。あれって原作ではどんな感じなんですか? 

あにもに:原作でもああいう感じです。原作と違う点はそれぞれの章に番号が振られているのですが、アニメでは語りの順番を入れ替えていたりするので、章番号は削っているようです。

highland:なるほど。最初「間違い探し」が1話のサブタイトルかと思ったのですが、何回も出て来たので違うのかなと思いました。

あにもに:いかにも新房監督が好みそうなテンポの取り方です。ある意味で『荒川アンダー ザ ブリッジ』(2010年)っぽいリズム作りという認識で良いと思います。ただ、1話の「間違い探し」というチャプターはアニメだけ観るといまいち解釈が取りづらいものでしたが。原作では問いかけのようになっているのですが、アニメではその部分が削られているので……。

highland:結構入れ替えたり削ったりしているんですね。今回もシリーズ構成のクレジットは〈物語〉シリーズなどと同じく「東冨耶子、新房昭之」になっており、第1話は西尾維新作品を多く手掛けてきた木澤行人さんが脚本でした。木澤さんはもともとはアニメ雑誌やムック本を手掛けていた出版社セブンデイズウォーの方ですよね。原作の小説を切り貼りしながら脚本を作っていくという編集者的な方法論で〈物語〉シリーズの頃から活躍されています。

ab:ちなみに、木澤さんと中本宗応さんは2014年からライトワークスという会社を新しく立ち上げて、アニメを中心に活動されています。

あにもに:原作との比較で思い出しましたが、冒頭の屋上で星を眺めるシーンは面白かったですね。原作では「学校の校舎の屋上」としか描写はされていないのに、美術設定がアイデアに満ちていて美しくなっています。あと、「屋上がボールルームであるかのごとく」抱き寄せられるという場面で、実際に俯瞰視点で踊ってみせるという。 

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『美少年探偵団』1話「きみだけに光かがやく暗黒星 その1」

 

highland:化物語』の1話の吹き抜けになっている階段を思い出します。

あにもに:あれも原作では「階段を踏み外した戦場ヶ原が後ろ向きに倒れてきた」だけですからね。

highland:特にギミックが原作で指定されているわけでもなく……。

あにもに:単純に学校の階段というだけです。一応その前の文章で「空から女の子が降ってきた」というのがあって、そこからイメージを拾って、新房監督の中では、学校の中に巨大な塔のような建造物がそびえ立っていてそこから落ちてくる描写にしたかったらしいです。ただ尾石さんが「階段から落ちる」という原作の描写を可能な限り尊重したくて、より現実的な情景描写に即して巨大な螺旋階段(!)に修正した、というおよそ正気とは思えないエピソードがあります(笑)。イメージ自体は奇抜だと思いますが、今回コンテワーク的にはどうでしたか? 

highland:絵コンテの切り方自体はわりとオーソドックスかなと思いました。前半部分は主人公の瞳島眉美のシングルショットが多用されていました。

あにもに:たしかに正面切り返しのショットが多かったです。

highland:彼女のシングルショットか、ナメのレイアウトで美少年たちと主人公を分けるレイアウトが使われていて、最後に一歩踏み越えるみたいな、わりと丁寧にやっていましたよね。そういう意味では、いわゆる1話の絵コンテっぽいなという印象でしたね。 

あにもに:Bパートの最後にミチルが眉美にハンカチを渡すシーンをドラマチックに描けていて良かったです。

highland:なのでそこは遊び要素というよりは、きっちり演出意図に沿ってカットが配置されている感じはありましたね。フレームに2人を引いて収めるであったりとか。苔さんが先ほど言っていたナメが弱いというのは、レイアウトとして弱いということなんですかね。

苔:そうですね。『ネギま!?春/夏』(2006年)や『ef - a tale of memories.』(2007年)などと比較して、ナメと奥の対比が弱くて、ナメの効果が抑えられているなという感じです。極端な比較としてはOVA『それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコⅡ』(1997年)の2話もナメの効果の違いが分かりやすいです。『かってに改蔵』(2011年)4話の頃も既にナメの絵があえて立体的な構造をしているので、大谷監督のこだわりなのかもしれません。



ティーカップCGIについて】

あにもに:そういえばabさんがツイッターで、『アサルトリリィ BOUQUET』と『美少年探偵団』のキャプチャを比較しているのを見て、さすがだな~と思いました。

ab:ティーカップのやつですかね?

あにもに:「シャフトアニメのティーカップという概念」という文言と共にツイートされていたやつです。あれは3DCGに着目したものですよね。どういう意図でツイートしたのでしょうか?

ab:ティーカップは『アサルトリリィ BOUQUET』放送時からキャラクターの各部屋ごとにティーカップの種類が細かく設定されていて面白いなと注目していたのですが、『美少年探偵団』でも細かく描かれていて驚きました。

あにもに:『美少年探偵団』1話を受けて、即座にティーカップに注目出来る人は、シャフト作品を本当によく観ている人だと思います。言うまでもなく、ティーカップは近年のシャフト作品に繰り返し登場する象徴的モチーフのひとつです。『アサルトリリィ BOUQUET』はもちろん、例えば『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』(2020年)でもマグカップみかづき荘を特徴付けるきわめて重要なモチーフでした。 

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『マギアレコード』11話「約束は午後三時、記憶ミュージアムにて」

 

ab:たしかに、『マギアレコード』ではマグカップは物語のキーアイテムでしたね。ただ、『アサルトリリィ BOUQUET』や『美少年探偵団』の場合はキーアイテムではなく舞台セットの小物という扱いで、そこにそこまで手の込んだデザインをしているのは面白いなと思いました。

あにもに:『美少年探偵団』でティーカップについて注目するのは分析的にもきわめて正しいと思います。ティーカップひとつを取り上げるだけで、いろいろなものが見えてきます。そもそもシャフトは昔から食器類を作画ではなく、3DCGで処理する傾向があるという話があります。

highland:3DCGで作り込むというのは以前からなんですね。

あにもに:もちろん作品にもよりますし、シーンごとに個別的な判断があるとは思うのですが、基本的にはそのようなワークフローが伝統としてあるようです。最近、特に印象に残っているものだと、『Fate/EXTRA Last Encore』(2018年)の2話で第一階層の「停滞の海」に出てきたグラスです。 

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Fate/EXTRA Last Encore』2話「死相―デッドフェイス―」

 

highland:「作画で描くか?3Dで描くか?」という問いに対して、アニメオタクがよくクリシェ的な回答として言うのは、「セルで描いているということは演出意図を反映している」ということですよね。セルでわざわざ描くというのは、特別に意図が込められていない限りやらないことなのだから意味があるはずだ、というロジックです。

あにもに:そういう点では、今回シャフトが新しく「シャフトCGIルーム」を新設して、本格的に3DCG制作をインハウスで手がけようとしているのは面白い動きですね。3DCGを使って積極的に画面効果を狙いにいっている。マネージャーの江藤慎一郎さんはシャフトを一時期離れていたかと思われたのですが、このような形で再び携われるとは思いませんでした。

苔:去年くらいの時期にシャフトが公式サイトでCG人材の求人宣伝をしてましたよね。3DCGディレクターとしてクレジットされている上松妃香里さんはサイクロングラフィックス出身の人っぽいですし、人脈も豊富そうです。

あにもに:CGに力を入れているという話は前々から噂されていました。サイクロングラフィックスの3DCGといえば、『傷物語』(2016年)からの流れということですか。

苔:傷物語 鉄血篇』からですね。シーンセットアップアーティストとしてクレジットされています。

ab:3DCGマネージャーの江藤さんと3DCG制作進行の山本諒さんは、Cygames Pictures繋がりですので、そこはちょっと面白いです。あと、Cygames Picturesの撮影班には元GoHandsCGI部の前田智大さんも入っていて、そういう繋がりがあるというのは興味深いです。

あにもに:今後が楽しみな布陣ですよね。内製で作れるというのは明確な強みになるはずですし。

ab:『アサルトリリィ BOUQUET』ではグラフィニカが3DCGを担当していましたが、以前、佐伯昭志監督がツイッターで、制作のかなり早い段階から先行して3DCGを発注する必要があるとつぶやいていたので、3DCGの外注はフレキシブルさという面ではなかなかワークフロー的に難しそうだなと思いました。

あにもに:3DCG制作を内製化するとなるとワークフローは大幅に変わりそうです。

ab:3DCGを内製で作れるようになればスムーズに社内連携で済むようになり、もっと効率的な3DCGの使い方ができるようになるではないかと思います。実際、普段のシャフトのアニメでは見かけないような3Dカメラの動かし方を『美少年探偵団』では見られて、3DCGの使い方は上手くなっているな、という印象を受けます。今後に期待です。

あにもに:3DCGの使い方が上手くなっている一方で、いつもの平面的なレイアウトの取り方にも拍車がかかっているような気もします。冒頭の学校のカットは急にウェス・アンダーソンっぽいですし……。 

highland:グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年)のポスターのようですね(笑)。

あにもに:Bパートの屋外のシーンも海辺だと言っているのに、あからさまに書き割りのような背景に舞台床が映り込んでいるようなレイアウトを取りますし(笑)。あとこれは必ず言及しようと思っていたのですが、冒頭の美少年探偵団の活動内容を紹介するシーンで、カメラが学校の廊下を移動していくシーンは素晴らしい出来栄えです。 

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『美少年探偵団』1話「きみだけに光かがやく暗黒星 その1」


highland:この無限に続くような感じがとても良いですね。

ab:ちゃんとレンズの処理が入っているのは細かくて良いですね。

あにもに:きちんとパースが付いているような。

ab:近づくとちょっと歪むみたいな効果が入っていたりする。

苔:放送前に公開されたPVでは撮影効果が入っていなかったところですが、きちんと付いていてさすがシャフトだと思いました。 

highland:撮影効果が入っていますね。ルックに統一感もあるし。

あにもに:導入の説明シーンに過ぎない場面を、ここまで丁寧に仕上げていて驚きました。

 

 【おわりに】

あにもに:1話にはOPが無かったですが、アニメ誌のインタビューで大谷監督が言っていたのは、OP映像に関して大谷監督はノータッチらしいのですが、新房監督と某偉大なアニメーターさんが社内でトップ会談をして作っているらしいです。最後に当てずっぽうで当てますか(笑)。

ab:誰なんだろう?

highland:渡辺明夫さんじゃないと思うので、梅津泰臣さんじゃないですか?それくらいしか思いつかない……。 

苔:杉野昭夫さんとか……。 

あにもに:いやそんなことあります?

highland:3月のライオン』に参加していたので、可能性はゼロではないですね。国宝級のアニメが出来ますが(笑)。

ab:偉大なアニメーター候補としては名倉靖博さんとかですかね?新房監督の絵コンテに梅津作画が見たいです。 

あにもに:新房コンテ!? 

highland:新房コンテは希望ですよね。

ab:新房昭之という偉大なアニメーターの可能性も。

あにもに:トップ会談って脳内会談のことだったんですね……。

highland:絵コンテ帆村壮二、アニメーター新房昭之かもしれません。

あにもに:その可能性があったな~。 

ab:いや、ないんじゃないですかね(笑)。 

あにもに:いずれにしても2話に期待しましょう。本日はありがとうございました。

 

寄稿募集『シャフトの軌跡』(仮題)2021年

『シャフトの軌跡』(仮題)原稿募集

 

寄稿募集要項

◆発刊時期

2021年 C99(春コミ)予定。

→春コミの中止を受けて延期致します。

 刊行時期については現在調整をしておりますが、

 年内刊行に向けて制作を進行しています。

 (2021年3月追記)

 

◆内容

未発表のシャフト作品論。

シャフトにまつわる論考であれば何でも受け付けております!

 

◆募集原稿様式

①論評・批評

1600字程度から20000字程度。

②イラスト

挿絵・その他。

 

◆形式

.txt または .doc

 

◆第一稿締め切り

2021/08/08(暫定)

 

◆送り先・問い合わせ先

moni.mode45@gmail.com

もしくはあにもに (@animmony) | TwitterのDMまで。

何でもご相談していただければ!

 

『もにラジ』第1回「シャフトの海外受容におけるある種の傾向について」

『もにラジ』第1回の収録が8月某日行われました。今回はゲストに海外シャフトオタクのabさんをお招きしています。海外視点から見たシャフト作品について色々とお話ししました。前回はたくさんの反響、お便り、DMなどなどありがとうございました。引き続きお便りとファンアートはあにもに(@animmony)のDMまで。どしどし募集中です!

参加者プロフィール

f:id:moni1:20200721220522p:plain あにもに(@animmony

シャフトアニメをたまに観るオタク。めがはーと。
おっきな入道雲を見てると、走り出したくなっちゃう。

f:id:moni1:20200901223758p:plain ab(@abf9

元・海外オタク。いつも4割くらいしか生きてないおじさん。
シャフトアニメの定義が欲しい。

 【はじめに】

通話を開始してから『Lapis Re:LiGHTs』(2020年)5話と長田寛人作画について長々と雑談してしまった事情によりカット。

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※収録風景

 【自己紹介】

 あ:よろしくお願いします。われわれ結構古くからの付き合いで、お互いツイッターを始めて初期くらいのフォロワー関係なので、なんやかんやもう10年近く経ちます。まずはabさんが海外シャフトオタクという話から……。

ab:abと申します。どこかの南の国から来ました。よろしくお願いします。

あ:どこかの南の国!どうやって日本語を覚えたか聞いても良いですか?

ab:ぱにぽにだっしゅ!』(2005年)を観て日本語の勉強し始めました。

あ:またすごいところから入りましたね。どういう風に勉強したんですか?

ab:最初は独学で文字から覚えて、次に教科書を買って文法を覚えました。元々読書が好きで小説とラノベにも興味があったので、それを読みながら勉強して、いつの間にか西尾維新の本も読めるようになりました。

あ:完全に最強オタクですね。日本人でも小説が読めない人は結構いるのに、その中でも西尾維新が読めるようになるとは……。

ab:自慢ではありませんが、『化物語』(2009年)はアニメ放送前に読破していました。紆余曲折を経て今は日本で働いていますので、僕が今ここにいるのは『ぱにぽにだっしゅ!』とシャフトのおかげといっても過言ではないです。

あ:これもシャフトの影響力でしょうか。お互いをツイッター上で認知したのっていつ頃だったか覚えていますか?

ab:魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)の放送中だったような。

あ:たぶんそうですね。ちなみに自分がツイッターを始めたのは2011年1月3日で、『魔法少女まどか☆マギカ』の放送直前くらいです。当初は情報収集目的としてツイッターを始めました。

ab:僕も似たような目的です。2010年10月に作りました。

あ:咎狗の血』(2010年)の放送で毎週新情報のCMを流していた時ですね。当時シャフトの新作をこんな風にCMを打つのかと驚きました。

ab:たしか第一弾か第二段がオンエアされた直後に公式アカウント(madoka_magica)をフォローするためにツイッターのアカウントを作成しました。

あ:ということはお互い『魔法少女まどか☆マギカ』きっかけということでしょうか。そして放送中にお互いを認識したと。自分のabさんの第一印象は「シャフトに異常に詳しい海外オタク」でした。情報入手のスピードもめちゃめちゃ早くて、一体何者なんだと思いました。

ab:その頃はよくアニメ雑誌を購読していて、たまに日本の発売日と同日で届くことがありました。その中で、『メガミマガジン』(2010年12月号)の鹿目まどかのシルエットが載ってる記事を海外の掲示板に投稿したら、色んな所に出回ってました。

あ:シルエットのやつありましたね~。海外のシャフトオタクは日本のオタクよりも詳しい人がそこそこいますが、abさんはその筆頭ですねそこからDM等で個人的にやり取りをするようになったのは、たしか某シャフト研究会きっかけだったような……。

ab:尾石達也研究会ですね。

あ:あの研究会があったのって『偽物語』(2012年)の頃くらいでしたっけ?

ab:たぶん『偽物語』が終わった直後です。

あ:まだ自分が高校生だった頃の話です。ネット上のシャフトオタクを集めて尾石さんの作風を研究する会をやりました。主催者はまた別の方だったのですが、自分は参加者集め係のようなことをやっていて、それで初めてDMしました。ただその時はabさんは海外にいらして、タイミングが合いませんでした。

ab:その頃は日本へ遊びに行く機会はなかったので、残念ながら参加できませんでした。参加したかった……。

あ:劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』(2013年)の公開時も海外でしたよね?

ab:そうです。なので実はBlu-Rayが発売されるまで観られませんでした。

あ:ということは劇場には行けていないと。

ab:ネタバレ回避のためにずっと情報に触れないように生活をしていました。まどか関連のワードをミュートしたり。

あ:それで全部ネタバレ回避できました?

ab:だいたい6割くらいは回避できました。ただ「愛よ」は喰らいました。

あ:希望よりも熱く絶望よりも深い……。

ab:ただそこに至るまでの展開は何も知らなかったので、Blu-Rayを観た時は初見で楽しめました。台詞は知っちゃいましたが、コンテクストまでは分からなかったので。

あ:それもそうですね。abさんとはリアルでも何回もエンカウントしていて、シャフト関連のイベントに行ったらばったり出くわすといったことが多々あります(笑)。

ab:お互いイベントに参加することは特に話していないのに、「あれ、いるし!」みたいな感じで毎回遭遇しますね(笑)。

あ:自分はオタクと一緒に行こうといったノリが無いので本当に偶然で……阿佐ヶ谷ロフトAでやった中村隆太郎監督を偲ぶイベントでも一緒になって驚きました。

ab:あれは本当にびっくりしましたね。

あ:隣の席で『キノの旅 病気の国 ―For You―』(2007年)を一緒に鑑賞したのを覚えています。あと印象的だったのは『PRISM NANA THE ANIMATION VOL.4 星空編』(2016年)の完成披露上映会でも会いましたね。実際には未完成披露上映会だったものですが……。

ab:一緒に秋葉原UDXタリーズで反省会をしました。もう4年前です。

あ:まあ『プリズムナナ』の話は悲しくなるので置いておきましょう。

ab:いや、自分は新房昭之監督に依存しない作品をいつもの演出陣でシャフトが作るという意味でも面白い試みだったと思います。「希望のアドバンス[前編]」もかなり評価していますよ。前編だけやって後編が公開されないのが残念です。

あ:たしかに試みとしては面白くて、期待値は高かったです。ただ実際には自分は希望のアドバンス編も特に評価していないので何とも言い難いのですが……とはいえ後半も宮本幸裕監督でやる予定でした。

ab:『プリズムナナ』のYouTubeで期間限定で公開された楽曲のミュージックビデオの中に「希望のアドバンス[後編]」と思しき未公開のアニメーションパートが使われてて、実はちょっとだけ制作に入っていたんじゃないかなと。今はすでに削除されてしまいましたが。

あ:そんなのもありましたね。あれを覚えている人が一体どれくらいいるのか正直分かりませんが……。

ab:また「メダルの国のハロウィン~ノリコと妖精~」は大谷肇監督の予定でした。いつか公開されたら前回ゲストだった苔人間さんの感想が聞きたいです。「星空編」はまあ……置いておきましょう。

あ:最近だと『マギアレコード』のゲーム版オープニングアニメーションが公開された時にもコミケで議論しました。あのシャフト表現の表層をなぞったようなオープニングについてです。

ab:ありましたね。あとはシャフトの新作情報が公開されるタイミングであにもにさんが開くシャフト会でよく話します。『3月のライオン』(2015年)や『CRYSTAR』(2018年)の時とか。

あ:abさんが日本に来られるタイミングで会を開いていたので常連メンバーです。

ab:最近日本に引っ越しまして、これでイベントにもたくさん行けるぞというタイミングでパンデミックが起きてしまったのでとても残念です。

あ:コロナもあって、最近はオンラインで何回か通話しましたね。今回はabさんをゲストにお呼びしたので、個人的にも気になっているところであるシャフト作品における海外受容について色々とお話を伺いたいと思います。日本にいるだけだとなかなか見えてこないものがあると思うので、いろいろと勉強させてください。

ab:自分は『叛逆』以降は海外ファンとは関わりが少なくなっていて、遠くから見守っている感じになってはいるのですが、それでも良ければぜひ。

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『もにラジ』第0回「演出家大谷肇について」

『もにラジ』第0回の収録が7月某日行われました。元々はシャフトファン同士でだべる会を不定期でやっていたのですが、最近はオンラインでやるようになり、思いつきでラジオ形式で録音をしてみました。以下はその様子を文字に起こしたものです。お便りとファンアートはあにもに(@animmony)のDMまで。どしどし募集中です!

◆参加者プロフィール

f:id:moni1:20200721220522p:plain にもに(@animmony

シャフトアニメをのんびり観るオタク。愛の神。
座右の銘は「魔法少女って最強で、最高で、最笑!」

f:id:moni1:20200721220515j:plain 苔人間(@_johann_hedwig

新房昭之の追っかけで貴重な時間を無駄にしているオタク。
『劇場版 The Soul Taker 〜魂狩〜』が実在すると思いこんでいるし『本当に』実在している。

 【はじめに】

通話を開始してから『かぐや様は告らせたい?〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』(2020年)と『かくしごと』(2020年)について長々と雑談してしまった事情によりカット

f:id:moni1:20200721220042p:plain※収録風景

 【大谷肇さんについて】

 あ:本題に入りましょう。本日はよろしくお願いします。当初『もにラジ』は別のオタクとやる予定だったのですが、そのオタクが4割しか生きていないとの報告を受けまして、急遽苔人間さんに来ていただきました。

苔:苔人間です。よろしくお願いします。

f:id:moni1:20200721220045j:plain
※6割死ぬオタク

あ:自分は苔さんのことを勝手に「シャフト最強オタク」と呼んでいるのですが……。

苔:いえいえ、とんでもないです。狂っている方の最狂です。

あ:狂っているんですね~。苔さんに来ていただいたからには、シャフトガチ勢として『アサルトリリィ ラジオガーデン』やスタジオIGUSA-1の話などをしたいところなのですが、今回は演出家の大谷肇さんについて話していきたいと思います。

苔:最近とにかくすごいのは大谷さんですね。

あ:大谷さんといえば、現在シャフトで最も熱い演出家です。全世界のシャフトファンに「今一番注目している演出家」で緊急アンケートを取ったら、おそらくトップは大谷さんか吉澤翠さんでしょう。はじめに簡単に経歴を確認しておくと、大谷さんは元々イマジン出身の演出家で、マッドハウス作品などを主にやられていました。『NEEDLESS』(2009年)や『ウルヴァリン』(2011年)の助監督などもやっています。

苔:他にもOVAの監督などもやっていました。

あ:やまねあやの先生原作の『異国色恋浪漫譚』(2007年)ですね。ご覧になりましたか?

苔:はい、観ました。

あ:さすがです。私もDVDを持っていますが、いわゆるBLアニメで直接的な濡れ場があったり、結構刺激が強めな作品です。また他にも何本かBL作品をやっていました。その後、しばらくしてからシャフトで作品を手掛けるようになります。〈物語〉シリーズや『幸腹グラフィティ』(2015年)などを経て、シャフトの常連演出家になり、最新の『マギアレコード』(2020年)でも2話の絵コンテを担当されました。詳しい情報は各々調べてもらうとして……ざっくり苔さんから見て大谷さんの印象はいかがでしょうか?

苔:『異国色恋浪漫譚』もそうですが、大谷さんが絵コンテ・演出を担当した『NEEDLESS』のオープニングアニメーションなどを観ると、シャフト以前から凝ったカッティングや大胆に画面外を考慮したレイアウトを選ぶ傾向のある演出家ではあったようなのですが、「新房シャフト」に参加されるようになってからは新房昭之監督の特徴的な演出と、シャフトアニメの中で蓄積されてきた手法を非常によく研究されていて、それを応用して演出される方という印象です。

あ:なるほど。シャフト演出の研究と応用ですか。

苔:先ほど述べたように比較的傾向がはっきりとしていた演出家ではあるのですが、尾石達也さんのように自身のセンスを重要視して個性を全面に押し出すタイプではなく、あくまで「新房シャフト」というある種の制約の中で、様々なアニメーションの技術を組み合わせている。非常に切れ味の鋭い演出をされる方だと思います。

あ:尾石さんや大沼心さんは「新房シャフト」の初期から参加されていた、いわば第一世代にあたる方々ですよね。この世代は新房監督とはまた異なった独自のセンスを発揮して、新房監督の作家性と格闘しながら共同で「新房シャフト」の方法論を作り上げていった。それに対して大谷さんは、第一世代の演出家が抜けた後の演出家と言っても良い。厳密にいえば被っている時期もあるのですが、いずれにせよシャフトが築き上げていった方法論がすでにあって、大谷さんの手法はそこからの偏差として捉える必要があるかと思います。そういう意味で「新房シャフト」という歴史的観点は重要かもしれません。

苔:大谷さんが最初にシャフト作品に参加されたのは2011年ですよね。

あ:たしかかってに改蔵』(2011年)4話です。ちょうどこの時期の前後で、元マッドハウスのアニメーションプロデューサー岩城忠雄さんがシャフトに関われるようになって、マッドハウス系の人脈がシャフト作品に多く参加するようになりました。

苔:その時点ですでに『さよなら絶望先生』(2007年)、『ひだまりスケッチ』(2007年)、『化物語』(2009年)などが作られていて、人気作品になっています。2011年だとすでにシャフト演出は完成されていると見て良いでしょうね。

あ:分かりやすく言えば、『魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)以後の演出家として現れるわけですね。シャフト演出がひとつの確立を見たあとの演出家として位置付けることができる。これは吉澤さんについても同じことが言えると思います。

苔:その中でも大谷さんは非常に挑戦的な映像の組み合わせ方というか、アグレッシブな絵コンテを切ります。主観ですがシャフトの演出に慣れていない演出家の担当回だと一般的なアニメ演出の文法を基準に、そのつど過去のシャフト作品の外れ方を引用していくというか、「シャフトならこうするだろう」といった感じで感覚を調整しつつ絵のイメージを組み立てていると思うのですが、大谷さんはシャフト演出、あるいは新房演出そのものの構造を深く理解する過程を経る事で、最初からシャフト演出の文法として構成した映像を組み込んでいらっしゃるような感覚があります。

あ:構造の把握ですか。ちなみに苔さんが大谷さんを最初に意識したのはいつ頃からですか?

苔:最初に注目したのは『3月のライオン』(2016年)の第2シーズンです。テンポの取り方が上手い方だなと思いました。『ニセコイ:』(2014年)の11話と12話でも同じような感じはありました。

あ:自分はまさに『ニセコイ:』の11話で本格的に意識するようになりました。特に後半の小野寺の中学時代のエピソードです。原作に描かれていた1枚の挿絵からイメージを膨らませた1分少しのオリジナルシーンがあるなど驚きました。しかも一発でオリジナルだなと分かる雰囲気が出ていた(笑)。あと冒頭の手を使った演出もオリジナルですよね。

苔:ニセコイ:』は11話が大谷さん絵コンテで、演出が岡田堅二朗さんです。逆にその次の12話が岡田さんと数井浩子さんが絵コンテで、大谷さんが演出をやっています。この二つを比較すると、大谷さんの処理演出としての上手さを感じます。発想の引き出しが幅広く、処理演出の暴れっぷりがはっきりしているというか。

あ:たしかに対になっていますね。今思い出したのですが、最近新房監督が大谷さんの『3月のライオン』19話と、吉澤さんの『続・終物語』(2019年)5話の演出を書籍上で褒めていました。

苔:大谷さんについてはBlu-rayのブックレットインタビューで触れられていましたね。新房監督が大谷さんの絵コンテを見て「うなった」と言っていたのが印象的でした。

あ:「うなった」ですか?

苔:「うなった」は新房監督がなかなか使わない表現で、かなり珍しいんです。私の記憶が正しければ、尾石さんの『ネギま!?』(2006年)OPを見た時に新房監督が「うなった」と仰っていました。あとは記憶が定かでは無いのですが、笹木信作さんにもうなっていたような気がします。つまり、大谷さんは新房監督を「うならした演出家3人目」ということになります(笑)。

あ:なるほど(笑)。『3月のライオン』では新房監督が大谷さんの19話の絵コンテを見てうなって、OP2のディレクターを依頼したという経緯が語られていました。今回は、大谷さんの演出で直近に担当された『3月のライオン』、『続・終物語』、『マギアレコード』の3作品を取り上げて、好き勝手あれこれ言っていく形にしたいと思います。

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