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『美少年探偵団』「D坂の美少年」感想・D坂聖地巡礼

↑最終話を見終わった感想です。

『美少年探偵団』の10話~12話「D坂の美少年」が最高だったので、舞台となったD坂の聖地巡礼に行ってきました。D坂はサブタイトルにも付けられている通り、作中で起きる「轢き逃げ事件」のキーポイントとなっている場所です。

特筆すべき前提として、『美少年探偵団』は10話に至るまで屋内/屋外共にそれぞれ背景美術が統一的なテーマの元で仕上げられていたものが、「D坂の美少年」においてはその方向性ががらりと変化する点が挙げられます。ただし、単純に変化したと言ってしまうとやや語弊があるので、それまでの方法論をさらに深化させて強力に推し進めたと評した方が正確かもしれません。

「D坂の美少年」は、眉美と長広が美少年探偵団の創設者/元生徒会長の双頭院踊に会いに行って告げられる「子供の遊び」といった言葉が特に象徴的なように、どこか現実離れしていた美少年探偵団をめぐる一連のストーリーが、一気に現実と地続きの刹那的な思春期的瞬間を捉えるような話へと変わり、重ね合っていく様を描いています。この物語を描くにあたって背景美術が果たしている役割は大きく、ある種の違和感を与えつつも特殊な映像的処理も相まって、洗練されたストーリーテリングになっていたと思います。背景美術が物語の明確なコンセプトと共に昇華されている点に大谷肇監督の強烈な「美学」を個人的に感じ取ったので、「これは行くしかあるまい!」と思い立ち、舞台探訪をしてきました。以下はその個人的な備忘録です。

 D坂の舞台は田園調布の「どりこの坂」がモデルとなっています。知り合いのシャフトオタクに教えてもらいました。

多摩川園ラケットクラブの脇、田園調布一丁目26番と51番の間の坂道。坂名の由来は昭和の初めごろ、坂付近に「どりこの」という清涼飲料水を開発した医学博士が屋敷を構えたので、誰いうとなく「どりこの坂」と呼ぶようになったといわれています。それまでは、池山の坂と呼ばれていたそうです。

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「どりこの坂」という名称は「どりこの」という飲み物が由来だそうです。サブタイトルの元ネタとなっている江戸川乱歩の『D坂の殺人事件』は千駄木の団子坂がモデルとなっているらしいですが、「D坂はこの辺りで一番人気が少ない」という原作の記述からすると、どりこの坂の方がD坂っぽさがあります。いわゆる静かな住宅地といった感じです。

 

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事件の概要を説明する際に、作中で地図が出てくるので比較がしやすいです。Googleマップと見比べてみると、地図上にも同様に田園調布せせらぎ公園が描かれているのが分かります。

ちなみに、この公園に隣接するせせらぎ館という複合施設があり、これがいかにも隈研吾っぽい建物で「さすが田園調布だな~」と思いながら歩いていたら、あとから調べてみたところ、本当に隈研吾の建築だったらしく今年の1月にオープンしたばかりのものでした。入ってみようとも思ったのですが、何やら人がたくさんいたので諦めました。

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10話のCパートで眉美と飆太が事件現場のD坂に訪れる最初のカットです。原作で「登りの一方通行」「結構勾配のある坂道」と描写がある通り、どりこの坂もそこそこの坂道で一方通行になっています。

10話はAパートが部室(演劇的)、Bパートが教室(現実的)、Cパートで屋外に出る構成になっていて、それぞれ色彩の感覚のヴァリエーションが特に面白い回になっています。ここのシーン単体だけでなく、EDに入る前までの流れをひとつの文脈として踏まえて観てみると、非常に見応えがあります。

似たような演出としては、『終物語』4話で老倉育が住んでいる場所として武蔵村山市の村山団地をモデルにしたものがあり、そこでも実写素材を切り取って加工していたショットが一部ありました。

 

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事件が「横断歩道を渡っている最中に轢き逃げに遭った」という設定なので、実際には存在しない横断歩道と信号機をアニメでは足しているようです。シャフト作品に信号機や標識はいくらあっても足りないことはないので、願ったり叶ったりです。もちろん、ここのシーンでは過剰に装飾していない点こそが重要です。

 

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「駐車禁止」の看板も同じ位置にありました。スマホの標準カメラで撮っているので、もう少し工夫すれば同じレイアウトに収まるかもしれません。作中の推理でも言われていた通り、向かってくる車は上から目視できるので、仮にこの場所に横断歩道があって歩きながら電話をしていたとしても、ここで轢かれる可能性はたしかに低そうでした。

 

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どうして縦向きで写真を撮ったのかは不明です。

 

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聖地巡礼の作法に倣って、同じレイアウトで収めようと頑張ってみました。もう少し遅いに時間帯に撮影していれば、より雰囲気が近くなったのかもしれません。ちなみにここは結構なカーブになっているので、道の真ん中に立っていると危ないです。眉美が正解です。

 

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作中通して屋外のシーンで用いられているリーニュ・クレール的なタッチがよく表れています。シャフトがリーニュ・クレール風な背景を本格的に用いたのは、『恋物語』のOPや『かくしごと』のPV映像以来かと思われます。3DCGが惜しみなく使われている部室との対比が面白いです。

 

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一般住宅だったので撮影はしませんでしたが、この格子縞の内側から眺めているショットのモデルも実際にありました。一見すると、どこから覗いているのか分からず、少し不思議な感覚を覚えますが、こういうカットは実際にロケに行っていなければ容易には描けないショットのひとつだと思います。

 

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どりこの坂を登りきった所です。逆走したら大変なことになります。「D坂の美少年」の主題のひとつでもある「悪意」(シリーズ通して最も悪意という言葉の登場頻度が高いのが「D坂」編です)について眉美が考える場面ですが、ここの眉美のモノローグ部分はコンテワークが実に巧みです。生徒会の仕事を黙々とこなしている長弘のカットと、しゃがみ込みながら道路に何か描いている学の様子が連続で映し出されて、これはいずれも原作には無いアクションを足しているものですが、間接的な表現で両者を対照的にリンクさせていて素晴らしい繋ぎ方です。この回は川畑喬さんのコンテ回でした。

以上、D坂の聖地巡礼でした。D坂自体が画面上に出てくるのはほんの少しに過ぎないので、記事としては短くなりましたが、尺が短いながらもインパクトが大きく、忘れられないシーンになっていたと思います。聖地巡礼に関してはD坂のみならず、11話などもやってみると面白いかもしれません。

『美少年探偵団』は最後までとにかく満足度の高い作品でした。いつかまた感想会をやりたいです!