もにも~ど

アニメーション制作会社シャフトに関係するものと関係しないものすべて

『もにラジ』第1回「シャフトの海外受容におけるある種の傾向について」

シャフト作品をガチで語ろうの会『もにラジ』の第1回収録が8月某日行われました。今回はゲストに海外シャフトオタクのabさんをお招きしています。海外視点から見たシャフト作品についていろいろとお話ししました。前回はたくさんの反響、お便り、DMなどなどありがとうございました。引き続きお便りとファンアートはあにもに(@animmony)のDMまで。どしどし募集中です!

参加者プロフィール

f:id:moni1:20200901223758p:plain ab(@abf9

元・海外オタク。いつも4割くらいしか生きてないおじさん。
シャフトアニメの定義が欲しい。

f:id:moni1:20200721220522p:plain あにもに(@animmony

シャフトアニメをたまに観るオタク。めがはーと。
おっきな入道雲を見てると、走り出したくなっちゃう。

  • 【はじめに】
  • 【自己紹介】
  • 【Puella Magi Wikiについて】
  • 【海外の評価について】
  • 【アニメコミュニティについて】
  • 【ファン活動について】
  • 【余談】

【はじめに】

通話を開始してから『Lapis Re:LiGHTs』(2020年)5話と長田寛人作画について長々と雑談してしまった事情によりカット。

f:id:moni1:20200901223822p:plain収録風景

【自己紹介】

あにもに:よろしくお願いします。われわれは結構古くからの付き合いで、お互いツイッターを始めて初期くらいのフォロワー関係なので、なんやかんやもう10年近く経ちます。まずはabさんが海外シャフトオタクという話から……。

ab:abと申します。どこかの南の国から来ました。よろしくお願いします。

あにもに:どこかの南の国!どうやって日本語を覚えたか聞いても良いですか?

ab:ぱにぽにだっしゅ!』(2005年)を観て日本語の勉強を始めました。

あにもに:またすごいところから入りましたね。どういう風に勉強したんですか?

ab:最初は独学で文字から覚えて、次に教科書を買って文法を覚えました。もともと読書が好きで小説とラノベにも興味があったので、それを読みながら勉強して、いつの間にか西尾維新の本も読めるようになりました。

あにもに:完全に最強オタクですね。日本人でも小説が読めない人は結構いるのに、その中でも西尾維新が読めるようになるとは……。

ab:自慢ではありませんが、『化物語』(2009年)はアニメ放送前に読破していました。紆余曲折を経て今は日本で働いていますので、僕が今ここにいるのは『ぱにぽにだっしゅ!』とシャフトのおかげといっても過言ではないです。

あにもに:これもシャフトの影響力でしょうか。お互いをツイッター上で認知したのがいつ頃だったか覚えていますか?

ab:魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)の放送中だったような。

あにもに:たぶんそうですね。ちなみに自分がツイッターを始めたのは2011年1月3日で、『まどか』の放送直前くらいです。当初は情報収集目的としてツイッターを始めました。

ab:僕も似たような目的です。2010年10月に作りました。

あにもに:咎狗の血』(2010年)の放送で毎週新情報のCMを流していたときですね。当時シャフトの新作をこんな風にCMを打つのかと驚きました。

ab:たしか第一弾か第二段がオンエアされた直後に公式アカウントをフォローするためにツイッターのアカウントを作成しました。

あにもに:ということはお互い『まどか』きっかけということでしょうか。そして放送中にお互いを認識したと。自分のabさんの第一印象は「シャフトに異常に詳しい海外オタク」でした。情報入手のスピードもめちゃめちゃ早くて、一体何者なんだと思いました。

ab:その頃はよくアニメ雑誌を購読していて、たまに日本の発売日と同日で届くことがありました。その中で、『メガミマガジン』(2010年12月号)の鹿目まどかのシルエットが載ってる記事を海外の掲示板に投稿したら、色んな所に出回ってました。

あにもに:シルエットのやつありましたね~。海外のシャフトオタクは日本のオタクよりも詳しい人がそこそこいますが、abさんはその筆頭ですねそこからDM等で個人的にやり取りをするようになったのは、たしか某シャフト研究会きっかけだったような……。

ab:尾石達也研究会ですね。

あにもに:あの研究会があったのって『偽物語』(2012年)の頃くらいでしたっけ?

ab:たぶん『偽物語』が終わった直後です。

あにもに:まだ自分が高校生だった頃の話です。ネット上のシャフトオタクを集めて尾石さんの作風を研究する会をやりました。主催者はまた別の方だったのですが、自分は参加者集め係のようなことをやっていて、それで初めてDMしました。ただそのときはabさんは海外にいらして、タイミングが合いませんでした。

ab:その頃は日本へ遊びに行く機会はなかったので、残念ながら参加できませんでした。参加したかった……。

あにもに:劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』(2013年)の公開時も海外でしたよね?

ab:そうです。なので実はBlu-Rayが発売されるまで観られませんでした。

あにもに:ということは劇場には行けていないと。

ab:ネタバレ回避のためにずっと情報に触れないように生活をしていました。『まどか』関連のワードをミュートしたり。

あにもに:それで全部ネタバレ回避できました?

ab:だいたい6割くらいは回避できました。ただ「愛よ」は喰らいました。

あにもに:希望よりも熱く絶望よりも深い……。

ab:ただそこに至るまでの展開は何も知らなかったので、Blu-Rayを観たときは初見で楽しめました。セリフは知っちゃいましたが、コンテクストまでは分からなかったので。

あにもに:それもそうですね。abさんとはリアルでも何回もエンカウントしていて、シャフト関連のイベントに行ったらばったり出くわすといったことが多々あります(笑)。

ab:お互いイベントに参加することは特に話していないのに、「あれ、いるし!」みたいな感じで毎回遭遇しますね(笑)。

あにもに:自分はオタクと一緒に行こうといったノリが無いので本当に偶然で……阿佐ヶ谷ロフトAでやった中村隆太郎監督を偲ぶイベントでも一緒になって驚きました。

ab:あれは本当にびっくりしましたね。

あにもに:隣の席で『キノの旅 病気の国 ―For You―』(2007年)を一緒に鑑賞したのを覚えています。あと印象的だったのは『PRISM NANA THE ANIMATION VOL.4 星空編』(2016年)の完成披露上映会でも会いましたね。実際には未完成披露上映会だったものですが……。

ab:一緒に秋葉原UDXタリーズで反省会をしました。もう4年前です。

あにもに:まあ『プリズムナナ』の話は悲しくなるので置いておきましょう。

ab:いや、自分は新房昭之監督に依存しない作品をいつもの演出陣でシャフトが作るという意味でも面白い試みだったと思います。「希望のアドバンス[前編]」もかなり評価していますよ。前編だけやって後編が公開されないのが残念です。

あにもに:たしかに試みとしては面白くて、期待値は高かったです。ただ実際には自分は希望のアドバンス編も特に評価していないので何とも言い難いのですが……とはいえ後半も宮本幸裕監督でやる予定でした。

ab:『プリズムナナ』のYouTubeで期間限定で公開された楽曲のミュージックビデオの中に「希望のアドバンス[後編]」と思しき未公開のアニメーションパートが使われてて、実はちょっとだけ制作に入っていたんじゃないかなと。今はすでに削除されてしまいましたが。

あにもに:そんなのもありましたね。あれを覚えている人が一体どれくらいいるのか正直分かりませんが……。

ab:また「メダルの国のハロウィン~ノリコと妖精~」は大谷肇監督の予定でした。いつか公開されたら前回ゲストだった苔人間さんの感想が聞きたいです。「星空編」はまあ……置いておきましょう。

あにもに:最近だと『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』のゲーム版オープニングアニメーションが公開された際にもコミケで議論しました。沼田誠也演出により、シャフト表現の表層をなぞったようなオープニングについてです。

ab:ありましたね。あとはシャフトの新作情報が公開されるタイミングであにもにさんが開くシャフト会でよく話します。『3月のライオン』(2015年)や『CRYSTAR』(2018年)のときとか。

あにもに:abさんが日本に来られるタイミングで会を開いていたので常連メンバーです。

ab:最近日本に引っ越しまして、これでイベントにもたくさん行けるぞというタイミングでパンデミックが起きてしまったのでとても残念です。

あにもに:コロナもあって、最近はオンラインで何回か通話しましたね。今回はabさんをゲストにお呼びしたので、個人的にも気になっているところであるシャフト作品における海外受容についていろいろとお話を伺いたいと思います。日本にいるだけだとなかなか見えてこないものがあると思うので、いろいろと勉強させてください。

ab:自分は『叛逆』以降は海外ファンとは関わりが少なくなっていて、遠くから見守っている感じになってはいるのですが、それでも良ければぜひ。

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『もにラジ』第0回「演出家大谷肇について」

あらゆるシャフト作品を語る『もにラジ』第0回の収録が7月某日行われました。元々はシャフトファン同士でだべる会を不定期でやっていたのですが、最近はオンラインでやるようになり、思いつきでラジオ形式で録音をしてみました。以下はその様子を文字に起こしたものです。お便りとファンアートはあにもに(@animmony)のDMまで。どしどし募集中です!

◆参加者プロフィール

f:id:moni1:20200721220515j:plain 苔(@_johann_hedwig

新房昭之の追っかけで貴重な時間を無駄にしているオタク。
『劇場版 The Soul Taker 〜魂狩〜』が実在すると思いこんでいるし『本当に』実在している。

f:id:moni1:20200721220522p:plain にもに(@animmony

シャフトアニメをのんびり観るオタク。愛の神。
座右の銘は「魔法少女って最強で、最高で、最笑!」

  • 【はじめに】
  • 【大谷肇さんについて】
  • 【『3月のライオン』について】
  • 【『続・終物語』について】
  • 【『マギアレコード』について】
  • 【おわりに】

【はじめに】

通話を開始してから『かぐや様は告らせたい?〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』(2020年)と『かくしごと』(2020年)について長々と雑談してしまった事情によりカット

f:id:moni1:20200721220042p:plain※収録風景

【大谷肇さんについて】

 あにもに:本題に入りましょう。本日はよろしくお願いします。当初『もにラジ』は別のオタクとやる予定だったのですが、そのオタクが4割しか生きていないとの報告を受けまして、急遽苔人間さんに来ていただきました。

苔:苔人間です。よろしくお願いします。

f:id:moni1:20200721220045j:plain
※6割くらいは死ぬオタク

あにもに:自分は苔さんのことを勝手に「シャフト最強オタク」と呼んでいるのですが……。

苔:いえいえ、とんでもないです。狂っている方の最狂です。

あにもに:狂っているんですね~。苔さんに来ていただいたからには、シャフトガチ勢として『アサルトリリィ ラジオガーデン』やスタジオIGUSA-1の話などをしたいところなのですが、今回は演出家の大谷肇さんについて話していきたいと思います。

苔:最近とにかくすごいのは大谷さんですね。

あにもに:大谷さんといえば、現在シャフトで最も熱い演出家です。全世界のシャフトファンに「今一番注目している演出家」で緊急アンケートを取ったら、おそらくトップは大谷さんか吉澤翠さんでしょう。はじめに簡単に経歴を確認しておくと、大谷さんは元々イマジン出身の演出家で、マッドハウス作品などを主にやられていました。『NEEDLESS』(2009年)や『ウルヴァリン』(2011年)の助監督などもやっています。

苔:他にもOVAの監督などもやっていました。

あにもに:やまねあやの原作の『異国色恋浪漫譚』(2007年)ですね。ご覧になりましたか?

苔:はい、観ました。

あにもに:さすがです。私もDVDを持っていますが、いわゆるBLアニメで直接的な濡れ場があったり、結構刺激が強めな作品です。また他にも何本かBL作品をやっていました。その後、しばらくしてからシャフトで作品を手掛けるようになります。〈物語〉シリーズや『幸腹グラフィティ』(2015年)などを経て、シャフトの常連演出家になり、最新の『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』(2020年)でも2話の絵コンテを担当されました。詳しい情報は各々調べてもらうとして……ざっくり苔さんから見て大谷さんの印象はいかがでしょうか?

苔:『異国色恋浪漫譚』もそうですが、大谷さんが絵コンテ・演出を担当した『NEEDLESS』のオープニングアニメーションなどを観ると、シャフト以前から凝ったカッティングや大胆に画面外を考慮したレイアウトを選ぶ傾向のある演出家ではあったようなのですが、「新房シャフト」に参加されるようになってからは新房昭之監督の特徴的な演出と、シャフトアニメの中で蓄積されてきた手法を非常によく研究されていて、それを応用して演出される方という印象です。

あにもに:なるほど。シャフト演出の研究と応用ですか。

苔:先ほど述べたように比較的傾向がはっきりとしていた演出家ではあるのですが、尾石達也さんのように自身のセンスを重要視して個性を全面に押し出すタイプではなく、あくまで「新房シャフト」というある種の制約の中で、様々なアニメーションの技術を組み合わせている。非常に切れ味の鋭い演出をされる方だと思います。

あにもに:尾石さんや大沼心さんは「新房シャフト」の初期から参加されていた、いわば第一世代にあたる方々ですよね。この世代は新房監督とはまた異なった独自のセンスを発揮して、新房監督の作家性と格闘しながら共同で「新房シャフト」の方法論を作り上げていった。それに対して大谷さんは、第一世代の演出家が抜けた後の演出家と言っても良い。厳密にいえば被っている時期もあるのですが、いずれにせよシャフトが築き上げていった方法論がすでにあって、大谷さんの手法はそこからの偏差として捉える必要があるかと思います。そういう意味で「新房シャフト」という歴史的観点は重要かもしれません。

苔:大谷さんが最初にシャフト作品に参加されたのは2011年ですよね。

あにもに:たしかかってに改蔵』(2011年)4話です。ちょうどこの時期の前後で、元マッドハウスのアニメーションプロデューサー岩城忠雄さんがシャフトに関われるようになって、マッドハウス系の人脈がシャフト作品に多く参加するようになりました。

苔:その時点ですでに『さよなら絶望先生』(2007年)、『ひだまりスケッチ』(2007年)、『化物語』(2009年)などが作られていて、人気作品になっています。2011年だとすでにシャフト演出は完成されていると見て良いでしょうね。

あにもに:分かりやすく言えば、『魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)以後の演出家として現れるわけですね。シャフト演出がひとつの確立を見たあとの演出家として位置付けることができる。これは吉澤さんについても同じことが言えると思います。

苔:その中でも大谷さんは非常に挑戦的な映像の組み合わせ方というか、アグレッシブな絵コンテを切ります。主観ですがシャフトの演出に慣れていない演出家の担当回だと一般的なアニメ演出の文法を基準に、そのつど過去のシャフト作品の外れ方を引用していくというか、「シャフトならこうするだろう」といった感じで感覚を調整しつつ絵のイメージを組み立てていると思うのですが、大谷さんはシャフト演出、あるいは新房演出そのものの構造を深く理解する過程を経る事で、最初からシャフト演出の文法として構成した映像を組み込んでいらっしゃるような感覚があります。

あにもに:構造の把握ですか。ちなみに苔さんが大谷さんを最初に意識したのはいつ頃からですか?

苔:最初に注目したのは『3月のライオン』(2016年)の第2シーズンです。テンポの取り方が上手い方だなと思いました。『ニセコイ:』(2014年)の11話と12話でも同じような感じはありました。

あにもに:自分はまさに『ニセコイ:』の11話で本格的に意識するようになりました。特に後半の小野寺の中学時代のエピソードです。原作に描かれていた1枚の挿絵からイメージを膨らませた1分少しのオリジナルシーンがあるなど驚きました。しかも一発でオリジナルだなと分かる雰囲気が出ていた(笑)。あと冒頭の手を使った演出もオリジナルですよね。

f:id:moni1:20210626010102p:plainニセコイ:』第11話「オハヨウ」

苔:ニセコイ:』は11話が大谷さん絵コンテで、演出が岡田堅二朗さんです。逆にその次の12話が岡田さんと数井浩子さんが絵コンテで、大谷さんが演出をやっています。この二つを比較すると、大谷さんの処理演出としての上手さを感じます。発想の引き出しが幅広く、処理演出の暴れっぷりがはっきりしているというか。

あにもに:たしかに対になっていますね。今思い出したのですが、最近新房監督が大谷さんの『3月のライオン』19話と、吉澤さんの『続・終物語』(2019年)5話の演出を書籍上で褒めていました。

苔:大谷さんについてはBlu-rayのブックレットインタビューで触れられていましたね。新房監督が大谷さんの絵コンテを見て「うなった」と言っていたのが印象的でした。

あにもに:「うなった」ですか?

苔:「うなった」は新房監督がなかなか使わない表現で、かなり珍しいんです。私の記憶が正しければ、尾石さんの『ネギま!?』(2006年)OPを見た時に新房監督が「うなった」と仰っていました。あとは記憶が定かでは無いのですが、笹木信作さんにもうなっていたような気がします。つまり、大谷さんは新房監督を「うならした演出家3人目」ということになります(笑)。

あにもに:なるほど(笑)。『3月のライオン』では新房監督が大谷さんの19話の絵コンテを見てうなって、OP2のディレクターを依頼したという経緯が語られていました。今回は、大谷さんの演出で直近に担当された『3月のライオン』、『続・終物語』、『マギアレコード』の3作品を取り上げて、好き勝手あれこれ言っていく形にしたいと思います。

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