もにも~ど

アニメーション制作会社シャフトに関係するものと関係しないものすべて

『もにラジ』第5回「『マギアレコード 2nd SEASON -覚醒前夜-』大感想会」

シャフト作品について楽しくお喋りする『もにラジ』。第5回では引き続き『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』を取り上げています。前回は2nd SEASON 1話の放送直後に座談会をしましたが、今回も北出栞さん(@sr_ktd)とabさん(@abacus_ha)の同じメンバーで2nd SEASON全体の振り返りを行いました。Final SEASONの放送を控えていますので、ぜひ副読的に読んで頂ければ幸いです。

※前回の「2nd SEASON 1話感想会」は下記リンクより読めます。

Final SEASONのネタバレとなる要素はカットしていますが、アニメ未登場の魔法少女の話や、原作ゲームの第2部の話などをしている箇所がありますので、気になる方は注意してください。なお、本記事はFinal SEASON放送延期が発表される前に収録したものとなっています。ご承知おきください。

お便りとファンアートはあにもに(@animmony)のDMまで。どしどし募集中です!

 

◆参加者プロフィール

f:id:moni1:20210811211025p:plain 北出栞@sr_ktd

最近ゲームの第2部8章を読み終えたら、前回推しとして挙げた魔法少女が軒並み大変なことになってしまっていて震え上がりました。

f:id:moni1:20200901223758p:plain ab@abacus_ha

海外ドラマを観る回数がアニメを観る回数より大幅に上回った2021年でした。

f:id:moni1:20200721220522p:plain あにもに@animmony

シャフトアニメを観えるオタクちゃん。礼を言う。
少年少女前を向く、暮れる炎天さえ希望論だって。

【メディアミックスとしてのアニメ】 

あにもに:本日はよろしくお願いします。『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』(2021年)パッケージの第1巻発売記念として2nd SEASONの振り返り大感想会をやりたいと思い、前回と同じメンバーにお集まり頂きました。放送から時間が空いてしまったので、軽く雑談しながら感想戦をやっていければと思います。まずは全体の総括について、北出さんから所感をお願いしても良いでしょうか。

北出:うーん……。

あにもに:うーんから始まりました(笑)。

北出:Final SEASONがまだ放送されないので、今だと言えることが少なくて、2nd SEASONのみでどう語ったものか悩ましいのです。

あにもに:2nd SEASONは8話で終わりましたが、あそこで物語を区切る意味はほとんどなく、はっきり言ってしまえば未完です。端的に制作上の都合というか、プロダクションのスケジューリングの問題だと思いますので、恣意的にストーリーを切ってしまっている側面はあります。

北出:アニメの2nd SEASONが放送されている間もゲームの方ではメインストーリーの第2部「集結の百禍編」の更新が続いていて、そちらではひとつのクライマックス――第2部7章「トワイライト・レムナント」で、当面の敵役であった「プロミストブラッド」との決着が付いた――を迎えるタイミングがありました。ゲームの方のシナリオが非常に良かったことも手伝って、『マギレコ』の面白さはゲームの形式だからこそ成立している部分があるな、ということはあらためて思いました。

あにもに:それはストーリー面で、ということですか?

北出:そうですね。アニメではホテルフェントホープ以降のストーリーの流れをまとめようと、「迎撃遊園要塞・キレーションフェントホープのウワサ」と称してウワサの鶴乃とホーリーマミの話を一緒にやりましたが、この辺りはどうしてもスポイルされてしまった部分があったと思います。

f:id:moni1:20211213201258p:plain『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』
5話「もう誰も許さない」

あにもに:原作の7章から9章にあたる長大なストーリーをアニメでは強引に一本化してまとめ上げた感じですね。実際は鶴乃の話が中心で、ホーリーマミの話はおおよそカットしたと言っても良いと思います。ホーリーマミに関しては使える尺が短いながらも、鶴乃の問題と心情的に重ね合わせる形を取ることで、そこそこ無難に描けていたとは感じますが。

北出:ゲームではもっと群像劇的だったので、かなり削ぎ落としている部分があったという印象を持ちました。ゲームでは東の果てにある大東区の遊園地跡地「キレーションランド」でウワサの鶴乃戦をやって、その後にマギウスの本拠地である「ホテルフェントホープ」に突撃する、といった流れでしたよね。ゲームでは移動をビジュアルとしては描けませんが、地図としてプロットすることによって表現はしていました。

あにもに:たしかにアニメでは移動が省略される傾向にあり、2nd SEASONでも異なる舞台を合体させることによってこの問題を解決しようとしました。これは前回の座談会で言及した「地理感覚の喪失」にも繋がる問題ですね。

北出:またホテルフェントホープでの戦いは基本的に屋内戦で段々とホテルの奥へ奥へと入っていく展開で、イメージ的にはとても暗い感じがありました。

あにもに:感覚的に言えばホテルフェントホープはダンジョンを攻略していく感じですよね。

北出:そうですね。それがストーリーが核心に向かっていく流れとシンクロしていたと思います。アニメでは遊園地とホテルがセットになった……というより、画的にはほぼ遊園地になりましたよね。「暗いところに向かっていく」ことを象徴する舞台装置だったホテルフェントホープが消えてしまった。

あにもに:たしかにセットになったと言うよりは、ホテルフェントホープの章をほとんどカットした構成と言っても良いかもしれません。

北出:むしろ構成が逆になっているんですよね。最初にいろはたちがホテルフェントホープに潜入しますが、そこから脱出して遊園地に移るわけで。明るいところから暗いところに行くのではなく、暗いところから明るいところに向かっている。

あにもに:なるほど。そういう言い換えはたしかに出来ますね。

北出:エンブリオ・イブにしてもゲームではホテルフェントホープ編の最後の方に登場していました。ホテルフェントホープのダンジョン感があったからこそ、最終的に辿り着いたところにイブという巨大な存在が現れて、事の重大さが初めて理解されるといった展開で。瘴気の濃い場所でマギウスたちが優雅にお茶を飲んでいて、イブのヤバさとマギウスのヤバさが同時に表れていたシーンは印象的でしたよね。

あにもに:イブに関しては前半のオープニングからすでにシルエットは出ていましたが、本編では2nd SEASON 5話時点でお披露目でしたね。

北出:イブが魔女を食っている姿をさなとフェリシアと杏子が目撃するという話で出てきました。構成をイブとマギウスに集約させる作り方にしていないから、ドキドキ感がゲームと比べて少なかったと思ったんです。

あにもに:abさんはどうでしたでしょうか。

ab:まさに1クールアニメの8話のような終わり方だな、と(笑)。ストーリー展開的には原作ゲームの物語と辻褄を合わせるよりも、『魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)本編の方と辻褄を合わせることを重視している印象を持ちました。ゲームとアニメではストーリーが全然違う展開になっていますから。

あにもに:もはや完全に別物と言っても良いですね。2nd SEASONではある程度オリジナル要素が強くなってくるとは思っていましたが、ここまで違う展開が続くとは予想だにしませんでした。

ab:ゲームをプレイしていない新規の視聴者の感想などを見ると、本格的にストーリーが動き出したといった感想が多く見受けられました。また、2nd SEASON 8話の最後に出てくる「THIS IS A STORY OF FAILURE」(これは失敗の物語である)の魔女文字のテロップは、アニメ『マギレコ』の核心に近いものではないかと。終盤の見滝原組との別れに関しても、『まどか』アニメ本編との繋がりの視点から見ると個人的には納得のいく展開ではありました。

f:id:moni1:20211213201331p:plain『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』
8話「強くなんかねーだろ」

あにもに:ワルプルギスの夜をめぐる動きもそうですよね。そういえば世界線の設定は今どうなっていましたっけ?

北出:『マギレコ』では「環いろはが魔法少女になる世界はこのひとつだけしかない」という設定がありますが、そういう意味でメディアミックスをどう捉えているかといった問題はあると思います。別作品になりますが、この前『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』(2021年)を観てきて。そこではこれまでのメディアミックスをすべて可能世界と解釈して、それを物語レベルで総括するということをやっていたんですね。『マギレコ』はアニメをゲームのバリエーションとして捉えているのか、設定レベルで異なる世界として捉えているのかは少し気になります。

あにもに:いろはの設定を考えるとバリエーションのひとつとと捉えるのが正しいんですかね。その場合どういう風にオチを付けるのかが気になりますが。

北出:なので僕が推しているのは『マギレコ』のアニメ版は全部「黒江の夢」説ですね。

あにもに:黒江をめぐるテーマは謎が多いので、北出さんの夢オチ説含めて後ほどまた詳しく聞かせてください。自分もみなさんと概ね同じ感想ですが、2nd SEASONを通して一番顕著に感じたのは、やはり脚本作りに大変苦労されたんだなという点に尽きます。総監督である劇団イヌカレーの泥犬さんの葛藤が良い意味でも悪い意味でも手に取るように分かると言うか……どうしたらこの物語をまとめ上げられるのか、といった思考のプロセスを生々しく追体験しているようでした。ゲームの世界観を網羅的に把握してキャラクター描写を丁寧に描きたいという一方で、まさに黒江に代表されるアニメオリジナルの設定を組み合わせることに苦心していて。

ab:2nd SEASONに入って脚本家も新しく増えました。

あにもに:高山カツヒコさんが新規に参加されたのも示唆的だったと思います。Final SEASONを受けて評価が修正される可能性は十分ありますが、今のところ雲行きがやや怪しいなと素朴に思っています。話は脱線しますが、個人的に今『月姫』のリメイク版をプレイしているのですが、これがかつての原作から全然違うものになっていて……。特にシエル先輩のルートは、大枠としてやりたい方向性は変わっていないのですが、それこそまったく知らないキャラクターが当たり前のように重要な役割を与えられてストーリーに出てきたりしていて、ほとんど原作から別物になっているんです。そういう意味でアニメの『マギレコ』は、ゲームのアニメ化という翻案を超えて、正しくは泥犬さんバージョンの「リメイク」に近いのかなと思いました。それとこれはどうしてもこの場で言っておく必要があると思うのですが、シャフトの制作スケジュールが近年トップクラスに崩壊していて、とんでもないことになっていました。

北出:今回のシャフトのスケジュールについてはシャフトオタクのお二人から見ても相当ですか?

あにもに:明らかにピンチですね。テレビアニメとしては過去ワーストを争うくらいのスケジュール感な気がします。少なくとも『化物語』(2009年)と同レベルくらいにヤバいですよね。『マギレコ』の裏でひそかに『美少年探偵団』(2021年)のパッケージ最終巻の発売が延期していて個人的に非常に悲しいです。

ab:化物語』以上ではないかと。『化物語』が一番ヤバかったのは作画的には「なでこスネイク」、絵コンテ的には「つばさキャット」でしたが、『マギレコ』に関してはどちらも間に合っていない雰囲気があります。

あにもに:そもそも脚本が遅れているのが要因で、それで全体の進捗が滞っているのではないかと勝手に想像しています。それにFinal SEASONを別けていて、あたかも最初からこの放送形態だったかのように謳っていますが、これも単純に制作が間に合っていない中で編み出した分割作戦でしょう。今年の夏クールに2nd SEASONが放送されるという告知も、一ヶ月くらい前にいきなり発表されるなどカオスな展開でした。これはシャフトが原因というよりは、アニプレックス側の問題な気もしますが。

北出:夏に放送があったのは『マギレコ』ゲーム4周年のタイミングと合わせるためなんですかね。

あにもに:それはほぼ間違いないでしょう。4周年記念絡みでいろいろとゲームとのコラボレーションもありましたから。

北出:2nd SEASON 8話でいろはとまどかが一緒に弓を番えるシーンとかですね。あれはガチャで実装されましたが、結局放送が遅れてタイミングが合いませんでした。

あにもに:本当はアニメとゲームのガチャ実装の時期を合わせるつもりだったはずが、結果的に放送を落とした影響でタイミングがズレてしまうという中々に愉快な事態が起きていました。そういう諸々の機会損失があったという意味では、たしかにabさんも仰るように歴代ワースト級のスケジュール感ではありますね。

北出:やはりゲームのサイクルとテレビアニメのサイクルでは時間感覚が内外で違うと思います。ユーザーとキャラクターとの関係といった点でもそうですし、楽しみ方についても1週間に1回のテレビアニメ方式と、能動的でシナリオが細切れになっているゲーム方式では、経験として全然違うものになる。

あにもに:この前、北出さんが仰っていましたが、『マギレコ』が毎週きちんと放送されない影響で、アニメを観る習慣が無くなってしまったんですよね?

北出:無くなりました(笑)。僕はシャフトにアニメを観る習慣を2回殺されているんですよ。

あにもに:え! 2回!?

北出:まさに1回目は『化物語』の「なでこスネイク」でした。当時は深夜アニメを見始めたばかりの頃で、京アニ作品から入って「へえ、シャフトという制作会社もあるんだ」と知って、その頃に放送していたのが『化物語』だったんです。面白く観ていたんですが、急に黒駒と赤駒だらけになって(笑)。「あ、深夜アニメというのは放送されないこともある文化なんだ」と思って、期待するのを1回やめてしまったんです。

あにもに:これまでは紆余曲折ありながらも辛うじて放送にこぎつけていましたが、今回は総集編が4回もありました。ゲーム4周年もそうですが、『まどか』シリーズ10周年ということもあり、どうしても2021年の内にやりたかったという思惑が強かったのは十分理解できますが、そのために諸々犠牲にした感じはありました。

北出:アニメ版は『まどか』シリーズの中の『マギレコ』の立ち位置の難しさをあらためて浮き彫りにしたと思います。僕はずっと主張しているように『マギレコ』は『まどか』と独立した作品として好きなので、本編のことは気にせず純粋に面白いものを作って欲しいです。

あにもに:これも原作との違いという話にも関わってくると思うのですが、神浜の物語にこれだけ見滝原組が関わってきたのも、シリーズ10周年とある程度関係があるような気がしています。単純にアナザーストーリーの要素をメインストーリーに混ぜ込んだ風でもなく、そう考えると2nd SEASON 1話は象徴的なエピソードでした。

ab:ただ、2nd SEASON 1話のストーリー自体はその後の話と関わりが薄いですよね。単体で完全に独立した話になっているので、全体のプロットから考えると必要性は少ない気もします。ファンサービスとしては嬉しいですが。

あにもに:とはいえ単体として観た時の2nd SEASON 1話のクオリティは半端なく良いですから。

北出:そこが引き裂かれるところですね。

【マギウスの思想変化】 

あにもに:今回、原作との差異を検討するのも良いかと思っていたのですが、abさんが仰っていたように、もはやゲームとアニメでは別物ですので何から取り上げるべきか悩みます。

北出:一番の差異を挙げるとすれば、やはり黒江と柊ねむでしょう。要するにマギウス周りの設定ですね。

あにもに:たしかにマギウスは目的も存在意義も原作と相当異なることがはっきりと示されました。まず、マギウスの根本的な思想の部分がゲームから変わっていますよね。1st SEASON 13話で灯花が演説をするシーンがあって、あそこで語られていた内容からすでに若干の気配は感じていたのですが、どちらかというとアニメのマギウスの思想は、ゲームの第2部に登場する「ネオマギウス」に近しいものになっています。ネオマギウスは「魔法少女至上主義」といった過激思想を掲げるマギウスの翼の残党組織ですが、アニメで灯花が語っている内容はまさにそのような感じです。「魔法少女魔法少女による魔法少女のための政治」というニュアンスがアニメ版では強く出ている。

北出:灯花の思想は「魔法少女である私たちは社会に搾取されている」というものですね。

あにもに:アニメの脚本がゲーム2部のネオマギウスの思想に少なからず影響を受けていると言えると思います。灯花にしてもファシスト的な描かれ方をされていましたが、正直最初にあの演説を聞いたときは、彼女がどこまでが本気で言っているのか分からなかった部分がありました。

北出:あの演説の時点では口八丁というか、仲間を集めるための口実かと思っていたのですが、本気だったということですよね。

あにもに:演説の中でも「搾取」や「消費」といったワードが出てきましたが、2nd SEASONではより決定的に「わたくしたちは、わたくしたちじゃないすべての人たちにこの怒りを訴えるために生まれたんだよ」「わたくしたちはもう、誰も許さない」と灯花が言っていました。

北出:灯花は基本的に「わたくしたち」と複数形で物事を発言しないキャラクターだと思うんです。「魔法少女全体のためを思って」とか自分のアイデンティティをそこに置くようなキャラだったっけ、という意味で違和感がありました。

f:id:moni1:20211213201400p:plain『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』
2話「あなたとは少しも似てなんかない」

あにもに:ゲーム版の灯花の目的のひとつに「宇宙の真理を知りたい」というモチベーションがありましよね。それがアニメ版では上書きされていて、非常に好戦的というか、政治的になっている。今まで搾取されてきた魔法少女の存在を一般大衆に知らしめるんだ、といった立場で、ある種ストレートに勧善懲悪図式の悪玉ポジションと化している。マギウスとの対立を分かりやすい図式に落とし込んでいて、この変化が吉と出るか凶と出るかはまだ判断できませんが、これと関連してエンブリオ・イブをめぐる動きもだいぶ変わってきそうな感じがしています。また、灯花とは反対にねむのキャラクターもまた変わっているのが興味深いです。

北出:すべての記憶を保持していて、それでもなお灯花の計画に付き合っている設定になっていました。

あにもに:さらに言えばアリナ・グレイの立ち位置がまた不明です。彼女が現状に対して何かしらの不満を持っているのは明らかですが、いかんせんまったく出番が与えられなかったので……もちろん伏線であることは分かるのですが、描き切れるのか不安要素として残っています。

北出:しかも唯一出番があった2nd SEASON 6話では謎のカタカナ語のオンパレードでした。6話の脚本は泥犬さんでも高山さんでもなかったですよね?

ab:シャフトで主に文芸制作や設定管理を担当されていた西部真帆さんが脚本でした。

北出:正直アリナのカタカナ語の使い方に違和感を覚えました。

あにもに:「アリナにテルミーしてくれる?」はさすがに笑いましたね。1st SEASONの頃からだいぶおかしかった感じはありましたが。

北出:カタカナ語を使うにしても、テルミーじゃなくてコールじゃないかと……。

あにもに:アリナに関しては、彼女が灯花の思想に与していないというのは伝わるのですが、キャラクター描写としては持て余している感があります。

北出:ただ、一方でアリナ・グレイというキャラクターの強度が高いといった言い方もできると思っています。これはアニメ外の話ですが、あるイベントの版権イラストが発表された際に、いろはとやちよのテニスウェア姿、鶴乃とフェリシアのチャイナドレス姿と来て、じゃあ最後はさなが来るのかと思ったら、まさかのアリナ単体でした(笑)。これには界隈にも衝撃が走っていましたね。

あにもに:アリナと言えば『マギレコ』がCoCo壱番屋とコラボしたときにも妙にピックアップされて、謎にカレーのイメージもありますね。あの雰囲気だとFinal SEASONでは何かしらやってくれるだろうという期待は高まっています。

ab:アリナはやらかして欲しいですね。ただ正直マギウスについては、Final SEASONが放送されないことにはまだ何も分からないような気がします。

あにもに:マギウスと関連する話題ですが、ドッペルに関して言及しておきたいです。ドッペルは原作と比べてアニメでは明白に危険性が強調されて描かれていました。

ab:ゲームの第1部のストーリーではドッペルを中心に展開していたにもかかわらず、肝心のドッペルについてあまり触れられていなかったので、やや不満要素として残っていました。単に「ただの必殺技」の印象が強かったというか。一応、第1部が終わった後の後日談のイベントストーリーでようやくドッペルについて少し触れていましたが、本編にも絡めて欲しかったとずっと思っていたので、アニメは良い改変だったと思います。

あにもに:それに付随する形でアニメオリジナルの設定としてドッペル症やドッペル症患者隔離施設といったものも登場しました。これらの設定は厳密に言えばゲームの設定段階ではあったんでしたっけ?

ab:ドッペルの正式名称の話は初期段階ではありましたが、ドッペル症はありましたっけ?

北出:ドッペルウィッチの話ですかね。ドッペル症や魔女プラントなどに関してはアニメオリジナルです。

あにもに:また、「無限病床のウワサ」もありました。一般人を保護すると言いながら彼らから感情エネルギーを吸い取って魔女を育てるために利用するウワサで、マギウスの悪意が明確に描かれていました。

北出:「たくさん魔女がやってきて危ないから、家族や友達はウワサの中に避難させてね」と言っていましたが、あれも裏を返せば家族や友達以外はどうでも良い、という思想でもあります。

あにもに:一方で2nd SEASON 5話のアバンでマギウスの中の共同生活が描かれたシーンがありました。黒羽根や白羽根の魔法少女たちもみかづき荘の少女たちと同じく日常生活を送っている、といったことが『マギレコ』全体の反復モチーフのひとつになっている「食べること」をめぐるシーンを通してさり気なく描かれていて、貴重な対比表現になっていたと思います。もちろん、こういった組織が信者たちに画一的な共同生活を送らせるというのがいかにも新興宗教的な側面もあって、そういう点を含めて的確な描写でした。

f:id:moni1:20211213201427p:plain『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』
5話「もう誰も許さない」

北出:これは些細なことですが、黒羽根や白羽根のローブは魔法少女の変身に含まれているのか含まれていないのか設定が結構揺れているなと思いました。変身した瞬間に出てくるシーンと、制服の上から羽織っているシーンが混在していたりして。

あにもに:単に凡ミスっぽい感じもしますね……。ミステイクといえば2nd SEASON 3話で駅のデジタルサイネージに「里美メディカルセンター」と誤表記されていた件がありましたが、あれはパッケージ版で修正されていました。

北出:あれ修正されたんですね。あの一連のシーンはいろはのドッペルの中の虚構世界だったので、どうとでも解釈することができましたが……。

あにもに:シンプルに変換ミスだったことが明らかになりました。

ab:シャフト特有の凡ミスが一見演出に見えるよくあるやつです。

あにもに:とはいえ放映版も残り続けますから、修正版の方がカノンと決まったわけではありません! 修正したことそれ自体がミスだったと言い張ることは可能ですからね(笑)。

北出:マギウスの話に戻しますと、2nd SEASONは魔法少女のゲスト出演が非常に多かったですね。1話の時点では宮尾時雨が出てきましたが、マギウス内の共同生活が描かれたパートでは安積はぐむも出てきました。そしてやはり観鳥令の話はしないといけません。

あにもに:ゲーム第2部で重要な役割を果たすだけあって、さすがに観鳥令は数いるサブキャラクターの中でも優遇されていましたね。ただ、物足りないといった印象は拭えませんでした。ゲームでの活躍を考えると、あくまでもゲストキャラ的なポジションだったなと。

f:id:moni1:20211213201446p:plain『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』
5話「もう誰も許さない」

北出:ゲームでは結構な長台詞がありますからね。それに彼女は「環いろはのソウルジェムを壊せ」と明確に主人公を殺せと主張したキャラクターです。ただ、やはりこれもホテルフェントホープのダンジョン感ありきの展開だったので……。どんどんダンジョンを突破されていって切羽詰まってきたからこそ、いろはを殺せと命じるわけです。ダンジョン探索的な展開では無くなったことによって、そういう話には組み立てづらくなりましたね。

あにもに:ダンジョン感がなくなったことがストーリーの展開のみならず、キャラクター描写の点でも影響は与えているというのは面白いですね。

【キャラクターの心理描写】 

北出:キャラクター描写といえば、さなの描き方は良かったです。キャラクターに奥行きが出ていました。

ab:彼女は良い役割を与えられていましたね。

北出:さぐれてしまったみふゆが「こんなことなら知らずにいたかった」と言うのに対して、さなが「家族が危ない目に遭っていたことすら知らないなんて嫌」と、すべてを知った上で決断して行動したいと宣言する。ここで言っている家族というのは、彼女のことをネグレクトしていた実の家族のことではもちろんない。みかづき荘の面々は、さなにとってすでに家族になっているんですよね。

あにもに:さなは一見すると気弱なキャラに映るかもしれませんが、ああ見えて一番芯が強い気がします。みふゆや杏子にだって毅然と対応するし、かなり力強いキャラです。

北出:原作では電波塔の「ひとりぼっちの最果て」の話が終わって、すぐに記憶ミュージアムの話に移ったので、どうしてもさなの影が薄くなりがちでした。今回は別行動になってフェリシア・さなサイドが別々に描かれたことによって、その問題が解消される形になりました。

あにもに:みかづき荘のメンバーの描写に関してはおおむね満足でした。さなもフェリシアも過不足無く描けていたと思います。ただ、鶴乃に関して言えば前半5話くらいまで彼女に関する言及が一切無くて、シリーズ構成としては首を傾げていました。途中でいきなりみふゆと遭遇していて色々と疑問が残るシーンでした。

北出:自分は5話まで言及されていなかったということについて、正直あまり意識せずに観てしまっていました。だから6話以降で言及が始まったときに、やちよさんと同じように「鶴乃は放っておいても大丈夫」と無意識に思っていたことに気づかされて、愕然としたんです。そういうメタ的な意味でも後半の没入度は高かった。

あにもに:逆に自分は原作のストーリーを意識し過ぎていたのかもしれないです。ただ、やはり後半はすごく良くて、8話の「鶴乃ステージ」は制作スケジュールが崩壊する中で行われていて、まるで『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)のような臨場感がありました(笑)。どう見ても苦しそうな制作体制の中で、あのクオリティの8話が作られたのはひとつの奇跡です。

f:id:moni1:20211213201508p:plain『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』
8話「強くなんかねーだろ」

北出:90年代末からゼロ年代初頭のアニメ作品でよく見られた、心理的な内面吐露のシーンにひさびさに味わう種類の感情を覚えました。あと、画として観たときに一番辛かったのはやちよさんの攻撃を受けて、全身の関節が曲がりながら立ち上がる鶴乃の姿ですね……。

あにもに:「鶴乃ちゃんは強いから平気」ということを言いながらボキボキになっている姿ですね。

北出:普通に10代の子が見たらトラウマになるレベルですよ。グロいとかではなくて、心にグサッと来るような表現でした。人間の生っぽさというと陳腐な言い方になってしまいますが、『まどか』の頃からあった、抉ってくるようなダークな部分がある。テーマとして言えば「誤解」ですよね。やちよさんが鶴乃のことを強い人間だと誤解していたからこそ生じてしまった悲劇であったわけで、これは『まどか』におけるさやか周りのエピソードを踏襲していると言える。

あにもに:「誤解」はまさにマミをめぐる主題でもありました。そこを鶴乃の問題とシンクロさせた形ですよね。ゲームでもウワサの鶴乃をめぐる展開はユーザーの間でも一番リアルタイムで盛り上がっていた覚えがあります。ダークな展開という点でもそうですし、鶴乃が退場する可能性もありましたから当時のリアクションは大きかったです。

北出:あと、死者であるメルやかなえの描写が良かったですね。特にメルがこちら側に手を振って光の中に消えていくシーンは、アニメの演出全般に関心のある層からも好評価を受けていた印象です。

f:id:moni1:20211213201552p:plain『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』
8話「強くなんかねーだろ」

あにもに:メルと現在のみかづき荘のメンバーがオーバーラップするんですよね。今思い出しましたが、「魔女化したメルを殺したのが実は鶴乃だった」というかなり大胆な改変がありました。ここに関しては秀逸な描写で、記憶ミュージアムでこの事実を知らされた時の鶴乃の絶望が完璧に表現されています。また、死者に関する描写で言えば、マグカップをめぐる演出も2nd SEASONでは印象的でした。全体的にやちよさんの心理描写の描き方は上手で、彼女のファッションモデルの設定などもキャラクター描写の中に綺麗に落とし込んでいました。

北出:心に余裕がないと部屋が荒れ果ててしまう様子とか……。

ab:あそこは特に良いシーンですね。

あにもに:日常的に部屋が散らかっているみふゆとの対比という意味でも良かったです。自分は1st SEASON 10話のみふゆの日常生活が垣間見られる描写がすごく好きで……。あとやちよさん周りだと、本当は鶴乃戦の後にホーリーマミとの戦いがあったわけですが。

北出:鶴乃の一件があって反省したやちよさんが自分の真の能力に気付き、ホーリーマミに引導を渡すという流れですね。読者からの好感度がだだ下がりしたやちよさんが、きちんと挽回するというプロセスがあった。マミというレジェンド年長キャラの抱える問題に、外伝の年長キャラが寄り添うという展開もまさにクロスオーバーといった感じで好きでした。

あにもに:それにしてもあらためて思うのは、シリーズを通して描かれたやちよさんの強者っぷりですね。ドッペルについて「魔法少女の責任から逃げた臆病者の妄言」なんてことも言っていて、聞いていたまどかたちもさすがに困惑していました。彼女は弱い魔法少女の気持ちがとことん分からない。

北出:「強者の論理」を常に振りかざしている。

あにもに:前回のもにラジ』でも話題にしましたが、やちよさんの「強者の論理」問題は2nd SEASONを通して一貫して描かれていて良かったです。これは手前味噌になりますが、前回の座談会はいろいろと予見的で、2nd SEASONで描かれたこと/描かれなかったことについて大体言及していました。それこそやちよさんをめぐる「強者の論理」問題や、神浜における東西問題をオミットするだろう、といった予想も的中していました。

北出:いかに我々が核心を捉えているかということですよ! そういえば神浜における東西問題が完全にスポイルされたことによって、「何が起きているんだ」の一言に留まってしまった和泉十七夜さんは……。

f:id:moni1:20211213201610p:plain『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』
6話「私にしかできないことです」

あにもに:十七夜さんはアニメだけ観たらやたら派手なモブキャラでしたね。一応補足をしておくと、彼女は神浜の東側を統べるリーダー的なポジションの魔法少女でした。原作では重要キャラクターの一人となっています。

北出:前回、自分が一番好きなキャラクターとして自己紹介にも書いたくらい十七夜さんのことは好きなんですが、あれくらいの出番しか無いのならむしろ出さないで欲しかったくらいです(苦笑)。

あにもに:あの取ってつけたような登場のさせ方と、「何が起きているんだ」という台詞を受けて、神浜の東西問題は完全に省くんだなと確信しました。これもシリーズ構成の問題として捉えられて、1st SEASON 8話でやちよさんが十七夜さんと電話でやり取りをしていたシーンの意義が揺らいでしまう。やはり2nd SEASONは構成面でシフトチェンジがあったと考えるのが自然かと思います。

北出:たしか1st SEASONが終わった後の予告映像では十七夜さんの台詞がありましたよね?

ab:ありましたね。自分は逆に十七夜さんを登場させたこと自体に結構びっくりしました。東西問題のオミットもそうですが、キャラクターデザインが蒼樹うめ先生ではないので、メインキャラクターとして登場させづらいのではないかと思っていました。

北出:うめ先生デザインではないキャラクターの話で言うと、「八雲みたま問題」もあります。

あにもに:みたまさんは……これもまた東西問題を省いたことによって奇妙なことが起きていましたね。みたまさんの生い立ちやパーソナリティは東西問題にだいぶ影響を受けているので、彼女の魔法少女になったときの願いからして変更しているように見えて。

北出:ただ、あれは実際に設定が変わっているというわけではないと言うことも出来ます。自分も最初に観たときはみたまさんが「魔法少女としてたくさんの人に笑顔を与えたい」と言っていて戸惑いましたが、あれ自体が願いだとは一言も言っていないんですよね。

f:id:moni1:20211213201631p:plain『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』
7話「何も知らないじゃない」

あにもに:そういうロールモデルに憧れたこともあった、くらいのニュアンスですかね。幼少の頃にヒーローや魔法少女に憧れたことがあるという次元の話で。

北出:そうです。キュゥべえに勧誘される前に、それこそ妹のみかげ(ゲーム第2部から登場)くらいまだ小さかった頃にそういう憧れを抱いていたと読むことが出来る。なのであれはある種の叙述トリックです(笑)。

あにもに:そこで叙述トリックをされても!

北出:神浜における東西問題を描かないと決めた上で、「私は神浜を滅ぼす存在になりたい」というみたまの本当の願いについて言及してしまうと、視聴者に引っかかりが残ってしまう。だからそこは言及しないようにするしかない。その代わりに、これまで描かれていなかったみたまさんの調整屋としての掘り下げをしたと考えられます。調整屋は人間の汚れに触れ続ける職業だから、心を病んでしまうということが語られていました。

あにもに:調整屋はゲームではみたまさん以外にも出てきますが、謎に包まれたキャラクターばかりですからね。そういった意味では調整屋の葛藤が描かれたことは良かったです。

北出:設定的にはアニメで語られたような苦悩を持っていてしかるべき職業だし、そこがきちんとビジュアル化されたという意味では、むしろ原作勢にとっての良い補完になっているとも言えます。

ab:個人的には違和感を覚えたのが「私はこんな魔法少女になりたかったの」という台詞です。そもそもみたまさんってそんな性格だったかと思って。

北出:性格の部分はたしかにそうかもしれませんね。願いと関係なかったとしても、そんな純粋なタイプの人だったか。

あにもに:2nd SEASONではやたらと胡散臭い感じで描かれていましたよね。敵味方云々ではなく、素朴に人として感じが悪い描かれ方がされていました。そういう視点ではある種キュゥべえっぽい感じに見えてきませんか。ドッペル症について詳細を黙っていたことも「あくまでもドッペルが危険であることは説明はした」と弁明をしていて、いかにもキュゥべえっぽい理屈で中立を保とうとしていました。

ab:キュゥべえっぽいというと、むしろゲームの灯花のキャラが近いですよね。

北出:灯花は実際にキュゥべえっぽいとゲームでは言われていますからね。彼女に関してはメインストーリーが更新されて何かを発言する度に本当にこいつヤバい奴だなと思っています(笑)。灯花やアリナはフィクションのキャラクターでありながら、「リアル」とはまた違う意味での真に迫る強度がある。

あにもに:あの得体の知れないヤバさはアニメでは違うものになっていますね。

メタフィクションとしての黒江】 

あにもに:黒江の話を整理しましょう。1st SEASONではほとんど姿を見せなかったアニメオリジナルキャラの黒江ですが、2nd SEASONではマギウスの翼として出番が飛躍的に増えました。劇中でいろはと一緒に行動したり、共に戦ったりすることで徐々に心を開くようになりますが、ひとつ気になる点としては、彼女をめぐるメタ的な問いかけが非常に多いという点です。「あそこへ入れると思ってるの?」「なぜ物語に加わろうとするの?」といった台詞や文字テロップが出てきたり、黒江のドッペルが常に彼女を引き留めようと囁いてきます。「物語」といった単語もシリーズを通してキーワードのように扱われていて、劇中で最もメタフィクショナルなキャラクターに仕上がっています。

北出:そういう意味でも、オープニングが本棚から始まることをまずは検討したいです。

あにもに:1話の感想会の時点ではオープニングがなかったので言及できませんでしたが、副監督の吉澤翠さんが演出を担当した映像では、最初のカットが本棚のPANから始まっていました。まさに本作が一冊の書物=レコードである点を強調して始まるわけですが、この本棚から始まる構成は、吉澤さんが絵コンテを担当した『続・終物語』(2018年)1話と同じ導入です。まさにメタ的で物語であることを自意識的に取り込んでいて興味深い仕掛けと言えます。それともうひとつ忘れてはいけないのがパズルピースのモチーフですね。

北出:パズルのモチーフは、電車でいろはたちが眠っているカットの直前にパッと入るんですよね。

あにもに:黒江の変身バンクにもパズルが出てきて、「ピースの欠けたパズル」であることが強調されるんですよ。また、8話のサブタイトルが出る直前にもいろはの姿がパズルピースになって、それに黒江が手を伸ばすところで終わります。このカットはゲームの第2部のオープニングを彷彿とさせるカットですが、「欠けたパズル」を意識的にモチーフとして使っているのは明らかです。黒江は他の登場人物ほどキャラクターとしての強度はないかもしれませんが、ここからどうやってまとめ上げるつもりなのか気になります。

f:id:moni1:20211213201653p:plain『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』
8話「強くなんかねーだろ」

北出:最初の本棚の後に実写の演出が入りますよね。ういたちの3人がシルエットがあったり、途中で断続的なカットで夏の思い出のような断片を見せてからの急に誰もいない雰囲気を作ったり。

あにもに:在りし日の思い出が実写の映像素材と共にコラージュされて、いろはの記憶の不確かとミックスされて非常に巧みな構成になっています。

ab:演出を担当しているのが吉澤さんなので、そこら辺の描写が本編にどこまで関わってくるのか気になっています。吉澤さんは本編のキャラクターの心理描写に沿った演出を丁寧にされる方だと思いますので。

北出:オープニングのラストカットのいろはの姿も気になりました。カメラ目線でちょっと困った感じの笑顔を浮かべながら、こちらの方に近づいてくるカットです。

あにもに:ここのカメラを持っている主体がシームレスに入れ替わるカッティングには痺れました。誰に向かって微笑んでいるのか、といった問いもありますよね。コンテクスト的には黒江な感じもしますが。

f:id:moni1:20211213201717p:plain『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』
OP「ケアレス」

北出:となると黒江がなぜあそこにいろはと一緒にいるのか、ということが気になってきます。

ab:そもそもなぜ黒江がオープニングであそこまで描かれているのかまだ分かりません。

あにもに:ラストカットをめぐる問題はいろはの描写の核心になるかもしれません。自分はオープニングの構成と演出に関してはやりたいことのコンセプトが非常にしっかり描けていて、非常に評価が高いです。

北出:これと関連してくる話かもしれませんが、僕はアニメのいろはのキャラ付けに違和感を覚えています。

あにもに:自分もそれは分かる気がします。具体的にはどの辺りでしょうか。

北出:特に2nd SEASONに入ってから、やたら距離を詰めてくるようにグイグイと来るじゃないですか。黒江とコネクトしたときも「私たち相性いいのかも」と言ったり、灯花とねむに対して「いるんだったらお姉ちゃんにちゃんと説明して!」とお姉ちゃん宣言をしたり。

あにもに:アニメの主人公らしい変更と言えるかもしれません。

北出:メタ的に考えれば、いろはにはシステム上最初から使える主人公キャラの宿命としてある種の「空っぽ性」があります。意思の強さを発揮する場面も基本的には相手との対応関係の中ですし、一番の原動力はういという「存在しないかもしれない」妹のためでした。魔法少女同士の抗争が激化するゲームの第2部では、あらためて別な形でこの「空っぽ性」の掘り下げをしているところがあります。『マギレコ』で重要なモチーフのひとつとなっている宮沢賢治に引きつけていうと、いろはは「デクノボー」なんですよ。話し合えば何でも解決すると思っていて、味方からも愚かだと言われ続ける。

あにもに:基本的にいろははひたすら理想論を言い続けるようなキャラですからね(笑)。

北出:ただ、みんなから後ろ指をさされて笑われながらも、その理想を曲げない、それが人の心を動かすんだ、というキャラクターなんだと思います。正直、僕自身もイラッとすることはあったんですが、第2部7章の紅晴結菜との対峙があって、ひとつの姿勢を貫き続けることの大切さを素朴に感じたりもして。

あにもに:ブレずにやり切ることの意義ということですね。アニメでも理想論を語ったりするのですが、どちらかと言えば「主人公っぽい台詞を言うキャラ」といった印象です。

北出:そう、ゲームでは「空っぽ」であることが「器の大きさ」にもつながるようなキャラクターとして描かれているんですが、アニメ版では「主人公っぽいキャラ」という衣を着させられているせいで、単に空虚なキャラのように見えてしまうのですよね。

あにもに:そういう視点ではゲーム版のいろはの面影が部分的に投影されているのが黒江だと言うことは出来るかと思います。黒江の衣装はいろはと対称的ですし、デザインの部分でも分身として考えられるので、いろはのパーソナリティの一部が黒江の方に分離しているといった見方は可能です。

f:id:moni1:20211213201818p:plain『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』
6話「私にしかできないことです」

北出:なので僕の「黒江の夢」説はそういう意味合いも含んでいますね。黒江がいろはの片割れになっている。『マギレコ』はアニメ版においても基本的にはいろはの妹探しの物語ですが、黒江は1話から出ているし、Final SEASONではガラッと転換して、黒江の視点で実はこういうことが起きていたんだ、といったところが観られたりすると面白いかなと思ったりします。

ab:Final SEASONを黒江の視点から語り直すというのは本当に良いアイデアかもしれません。

北出:公式のインタビューでは、いろはが宝崎市でどういう生活を送っていたのかという点に奥行きを出すために黒江を作った、ということを泥犬さんは言っていました。

あにもに:しかも驚くべきことに黒江を登場させるアイデアは元々アニメーションスーパーバイザーの新房監督ですからね。これをどう物語に組み込みかですべての評価が変わってくる。黒江は新房監督が泥犬さんに託した最初で最大のアドバイスであり、ハードルと言っても良いです。

ab:黒江がストーリー上必要なキャラクターであるかどうかで言えば、自分は今のところ必要性は薄いと感じていますが、彼女の見せ方という意味では演出としては非常に良いなと思いました。「なぜ物語に加わろうとするの?」といったテロップもそうですが、こういったメタ的な演出は一番シャフト演出が効果的に効いてくるところだと思います。

あにもに:そういえば宮沢賢治のモチーフで言うと、鷹がありましたね。黒江のドッペルは「夜鷹」ですので、そこからもある程度読み取れるものはありそうです。実際、映像的に言えば1st SEASON 1話からすでに鷹のショットは挿入されていて、そうした意味では黒江周りの設定は序盤から固まっていたと推察することも可能です。

北出:オープニングで電車の中でいろはたちが目を閉じて眠っている箇所も『銀河鉄道の夜』ですよね。最初はいろはだけが描かれていましたが、途中で三人に増えた。いろはのドッペルがジョバンニで、やちよがカムパネルラなので、だったら黒江はザネリなのか? などと推察することも可能です。

f:id:moni1:20211213201837p:plain『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』
OP「ケアレス」

あにもに:もしかすると『銀河鉄道の夜』や『よだかの星』についても、ストーリーとは直接関係はないかもしれませんが、キャラクター造形の側面で共通する点を見出すことができるかもしれませんね。

北出:この前観返していて気付いたのは、2nd SEASON 4話で灯花とねむが「いよいよ始まるね」「魔法少女にとっての本当の幸いを勝ち取る最後の戦い」と言うシーン、これも『銀河鉄道の夜』に出てくる「ほんたうのさいはひ」を引いています。こういった台詞回しのレベルでも宮沢賢治のモチーフが頻繁に出てきていてかなり徹底しています。

あにもに:宮沢賢治は原作の設定段階から意識して取り入れられているモチーフですよね。実際、ゲームのストーリーにも度々忍ばせている要素です。黒江に過去の自分(?)が語りかけてくるシーンでは、彼女の願いにまつわる話が重要そうになってくる気もします。

北出:一応彼女の願い事は「好きな人と付き合いたい」ということのはずなんですけどね。

あにもに:それもミスリードの可能性はあると思っています。

【Final SEASONに向けて】 

あにもに:現段階でFinal SEASONに向けて残された課題は何があるでしょうか。

ab:黒江、マギウス、ドッペル症患者、エンブリオ・イブ、万年桜のウワサ、アリナ・グレイ……。ワルプルギスが見滝原に戻るのであれば、これはリセットのルートである可能性も出てきますよね。今回の話は「失敗の物語」であると明言されるくらいですから。

あにもに:もうFinal SEASONには見滝原組は出てこないんですかね。

ab:自分は出てこないと思います。

北出:そうですかね? ただ、リセットされる前提であるならば出てこないですね。

あにもに:そういえばコネクトは原作を超えてストーリー的にもビジュアル的にも非常に重要なモチーフになりましたね。「手を繋ぐ」といった具体的な行為がアクションとしても起点になっていました。

北出:コネクトをするかしないかというところにキャラクターの葛藤が表れますよね。コネクトをすることによって精神的にも一歩踏み出すことができるものとして描かれていました。

あにもに:2nd SEASON 7話の放送後に作られた4度目の総集編が面白かったのは、カットの取捨選択を通して制作サイドの意図をある程度推測できる点です。実際に観てみると分かりますが、コネクトのシーンが全部入っているんです。7話時点で都合6回コネクトする場面があったのですが、それが余すことなくすべて入っていました。この様子だとFinal SEASONもコネクトで締める気がします。

ab:5人でコネクトしてみたりするのはどうでしょうか。もしくは旧みかづき荘メンバーを含めてみんなでコネクトするとか。

あにもに:スピンオフ作品も含めて、まだアニメでは出てきていない魔法少女全員でコネクトしたりして。

ab:そういえばようやくゲームの方で昴かずみが実装されたのに、時間がなくてプレイ出来ていなくて…。

北出:abさんは『魔法少女かずみ☆マギカ 〜The innocent malice〜』に思い入れがあるんですよね?

ab:そうですね。自分は『まんがタイムきららフォワード』に初めて『かずみ』が掲載された当時から読んでいて、その時はまだ海外に住んでいたので、わざわざ日本から取り寄せていました。

北出:『かずみ』と言えば、アリナの個展が「あすなろ市」で開催されている、という小ネタがありました。

f:id:moni1:20211213201900p:plain『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』
4話「お前はそれでいいのかよ」

ab:2nd SEASON 4話に登場したあすなろ現代美術館のポスターですね。カットとしては一瞬しか映し出されませんでしたが、個人的に美味しかったです。ただ、『かずみ』は『まどか』シリーズの中でも扱いづらい立ち位置なせいか、言及してくれる人はあまりいませんでしたが(笑)。『マギレコ』のアニメの世界線にも『かずみ』は存在するんだなということが分かって良かったです。

あにもに:考えてみれば『マギレコ』のやっていることは結構『かずみ』と近いのではないかとも思います。まだこれからアニメの方に出てくる可能性はありますよ。

ab:それはさすがに出てこない気が……。

あにもに:みんなでコネクトして元気玉を作ってラスボスを倒す展開とか(笑)。コネクトで大きな円を作ったりして。

北出:環になるんですね……。

あにもに:そして「円環」で終わる。もちろんこれは冗談ですが、実際のところどう決着を付けるつもりなんでしょう。

北出:僕個人としてはゲームが好きということをあらためて認識できたので、もうアニメの方はまったく別物として、好き放題やってくれたものを観たいです。

あにもに:たしかに2nd SEASONは途中まで原作と異なる展開が延々と放送されて、本当に大丈夫なのだろうかという不安もありましたが、ここまで違ってくると別種として楽しめます。ゲームの展開にも色々と問題点はありましたから、そこをどう乗り越えるかで泥犬さんが葛藤している雰囲気があります。

ab:ここまで別物になると、自分は『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』(2013年)の後半の展開のように、一度壊してみても良いではないかと思っています。2nd SEASON 3話など明らかに『叛逆』を意識したエピソードもありましたが、『叛逆』の後半の展開のような作品全体に影響を及ぼす展開ではなかったので。すでにゲームとこれほど違うのであれば、いっそ北出さんの仰った黒江の夢オチ説的な展開でも構わないので、アニメでは全力で自由にやって欲しいです。

あにもに:泥犬さんがどこまで考えているか気になりますね。結末に関してはそこまでゲームと変えてくるつもりは無さそうな気はしていますが……。

北出:やはり、Final SEASONは黒江を中心としたメタ展開をやって行くしかないと思いますよ。

ab:2nd SEASONは全体的にメタ的な呼びかけの演出が多いですよね。2nd SEASON 4話のドッペルの真実を知るシーンの前に出てくる「運命はレールの先にある」のテロップとか……。

f:id:moni1:20211213201916p:plain『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』
4話「お前はそれでいいのかよ」

あにもに:Final SEASONがどのテーマにフォーカスを当てるつもりなのかは予想が付きませんが、描きたいであろうテーマに関しては概ね方向性が見えている気がします。特にマギウスとみかづき荘の対称性は明確に描かれていますよね。

北出:みなそれぞれ譲れない願いを持っていて、「魔法少女である」という事実だけを共有している人たちがどういった形で共同性を作っていくか、という話を『マギレコ』はずっと展開しています。それを「魔法少女」として救済しようとするのが魔法少女至上主義的な存在のマギウスで、一方でみかづき荘は別の形での連帯の在り方を体現している。魔法少女だから連帯しているのではなく、やちよさんだから、鶴乃だから一緒にいる、といった「個」が描かれる。キャラクターのバックボーンをしっかりと掘り下げた上で個の連帯を描いています。

あにもに:自分も同意見です。後半の展開などを例にとってみても、みかづき荘のチームは仲間内で頻繁に対立していて、単純に一個の結論に向かわない様子が描かれていました。鶴乃をめぐる展開がまさに象徴的でしたが、途中でやちよさんとフェリシアが口論になるシーンがありましたよね。あそこのシーンはみかづき荘とマギウスの思想的対立の代理戦争感があって素晴らしかったです。

北出:ストーリー的に端折ったほうがスムーズに進むはずにもかかわらず、そういうグチャグチャしたところは残してくる。アニメスタッフの中でも『マギレコ』の核だと認識されているのではないかと思うし、実際それがアニメーションとして描かれたとき、他の作品では見られないようなものを感じられる体験になっているんですよね。人間ドラマとしてすごく見応えがある。

あにもに:今回の座談会では2nd SEASON全体に関して少なからず批判的な意見もあったかと思いますが、みな毎週楽しみながら観たことは間違いありません。一番大事なのはFinal SEASONに掛けての展開ですのでこれからが楽しみですね。まだストーリー的には途中ですから!

ab:今はまだ8話みたいな展開、というか8話ですからね(笑)。Final SEASONが無事放送されたら、またあらためて感想会をやりましょう。

あにもに:Final SEASONは年内放送予定らしいのですが、12月に入っても何も続報が出てこないので、正直延期する可能性は全然あると思っています。

ab:むしろ延期して欲しいくらいですよ。ファンとしては全然待つので、しっかりと時間を取って良いものを作って欲しいです。

あにもに:逆に「年内放送をやめろ」と叫んで今日は終わりますか。

北出:それが今回の結論ですかね(笑)。

あにもに:本日はありがとうございました!

 

『もにラジ』の過去回は下記リンクにまとまっています。

 


【告知】

本ブログ「もにも~ど」が、今年のコミックマーケット99にサークル出展することが決まりました!
シャフト本の準備号的な予告本を持ち込む予定ですので、『もにラジ』を読んでいただいて、ご興味を持っていただける方がいらっしゃいましたら、ぜひチェックしてみて下さい。

詳細は下記リンクよりご覧ください。