もにも~ど

アニメーション制作会社シャフトに関係するものと関係しないものすべて

『3月のライオン』第37話「Chapter.74白い嵐②」におけるペットボトルの演出

3月のライオン』37話「Chapter.74 白い嵐②」は原作8巻で描かれる零と現役最強の棋士である宗谷名人による記念対局のエピソードです。

この話はアニメの中でも個人的に好きなエピソードのひとつなのですが、視聴していて特に意識を向けられたのは水にまつわるモチーフです。『3月のライオン』では漫画とアニメ共に水に関連付けられたビジュアルモチーフがとても豊富ではあるのですが、このエピソードでもそれは一貫しています。

37話は後半で「対局後に零が宗谷名人と一緒の新幹線に乗って帰ろうとするも、台風・大雨の影響で足止めを食らう」といった展開が続くので、水の描写と言えばそちらを思い出す方が多いかもしれませんが、より注目したいのは実際の対局中に映し出されるペットボトルの水を用いたさりげない演出の仕方についてです。

はじめに本題に入る前に、この話数を当時テレビで観ていて一番最初に緊張感が走ったのはペットボトルの描写ではなくて、対局前の挨拶のシーンでした。「今から僕はこの人と渡り合わねばならないのだ」「力の差など解りきっている――だが「勝つため」以外の心で飛び込んだら」「一瞬で首を吹っ飛ばされる」というモノローグの後に「お願いします」と零が静かに挨拶をします。この「首を吹っ飛ばされる」ことを視覚的に表現する構図として2枚目の画面際で首を切り落としたショットに切り替わります。その後、二人を映した引きの画が描かれて、零のアップ(これも画面際に寄っていて明白に意図的なコンポジションです)に繋がる。このわずか4カットで、零の「お願いします」というセリフが自らの首を差し出そうとしているかのようにも映って、文字通り命を賭けて戦っているのだといった覚悟が力強く示されていました。そしてこの直後にオープニングに入る……まさに惚れ惚れするようなアバンに仕上がっています。

本題のペットボトルについて。まず漫画との違いですが、アニメでは対局時にペットボトル2本が零と宗谷名人のそれぞれの手元に置かれているのに対して、漫画では宗谷名人の側に置かれている描写はありません。また漫画ではペットボトルが描かれるのは計5コマですが、アニメでは18カットも描かれるようになります。漫画と比較してアニメではロングショットが増えることによって小物として背景に映り込んだり、あるいは静物ショットの頻度が高くなることはあるとは思うのですが、ここでとりわけて興味深いのは登場回数の多さというよりは、その使われ方についてです。

例えばペットボトルのクロースアップの同ポジがあります。零が優勢ではないか、と控え室で関係者が議論している際に映し出されるもの。中盤で零が敗着の一手を指してしまう際にあらためて同じ構図で映し出されるもの。

一見して明らかなように同ポジでペットボトルが結露していて水滴が増えている様子が描かれます。これは劇中における時間経過の効率的な見せ方でもありつつ、物体の表面に水滴が付着することを「汗をかく」と表現するように、ペットボトルが零の心情描写と結び付けられていて、一種の焦りや緊張感の映像表現として用いられていることが分かります。

ちなみに「ペットボトルに水滴を付ける」という描写を行ったのは、アニメ全体を通してもこの対局が初です。そもそもペットボトル自体をこれほどまでに具体的に描写してみせたのも、川畑喬さんコンテ回のいくつかの特殊なクロースアップ(例えば1期13話の島田八段との対局などが顕著かと思います)を除けば、今回の話数が初めてと言っても良いでしょう。

さらに零が水を一気に飲み干すシーン。ペットボトルを手に取る、キャップを開ける、水を飲む、泡が発生する、喉を通る水、口を拭く、呼吸をするなどすべてのアクションでカットが細かく割られていて、実に激しく勢いのあるシーンになっています。それまでの描写も重なって、単なる水分補給ではない、ということを強く印象付けられる場面です。

それでいて対局中の零は決して焦燥感に駆られているわけではありません。「頭の中で何かがどんどん手をつなげてゆくのがわかった」「まるで銀色に光るまぶしい水がすみずみまで流れ込んでゆくようだった」というモノローグが終盤に語られるように、むしろこれまで戦ってきたどの対戦相手よりも清々しい気持ちで戦いに臨んでいます。激闘でありながら、静かに黙々と自分の将棋を指すことができた心地の良い対局。この締めのモノローグの場面でもペットボトルのショットは欠かさず挿入されます。波のように揺らめく光のエフェクトと、2本のペットボトル。手前のペットボトルのクロースアップ。反射する光。ペットボトルに付いた水滴を起点として、弾けるような光の玉の連鎖を経て、最終的には漫画同様この水のイメージに結び付けられます。あたかも零の側に置かれた2本のペットボトルがそのまま零と宗谷名人の精神状態を表すかのように、片方は空になって、もう片方は手つかずで水で満たされている。このペットボトルを用いた水の連鎖的なイメージ操作はアニメオリジナルの演出です。

絵コンテは佐伯昭志さんです。アニメでは数々の対局が描かれますが、ここまで小道具としてペットボトルを応用した演出は他にありません。ずば抜けたコンテワークでした。

『Fate/EXTELLA』オープニング スタッフクレジット

<オープニングアニメーション>

絵コンテ:鈴木利正
演出:宮本幸裕
キャラクターデザイン・総作画監督:滝山真哲
作画監督:高野晃久

原画:
西田亜沙子 河島久美子 
宇良隆太 木曽勇太
宮嶋仁志 泉美紗子
岩崎たいすけ 西澤真也
伊藤良明 潮月一也
高野晃久

動画検査:小川みずえ
色彩設計:日比野仁
仕上:DIGITAL@SHAFT
美術監督:内藤健
背景:スタジオちゅーりっぷ
撮影監督:会津孝幸
撮影:DIGITAL@SHAFT
制作担当:網谷一将
制作進行:奥山広大
制作補佐:西部真帆

アニメーション制作:シャフト

どこにも見当たらなかったので(アニメ大全にも!)メモとして載せておきます。

パチスロとシャフトアニメ

週末批評の「アニメパチンコ座談会」をとても面白く読みました。自分はパチンコは打ちませんが、YouTubeなどでアニメパチスロを打っているオタクの動画は結構観ていたりしています。というのも座談会内で触れられていた通り、アニメパチスロにはテレビ本編にはなかった新規アニメーションが含まれていることが多くて、特にシャフトはパチスロ関連の仕事を大量に請けているアニメ会社なので、実は見逃せないコンテンツだったりします。

座談会の中で『CRぱちんこ魔法少女まどか☆マギカ』でマミさんが「マミられる」のを回避する演出があるという話題がありましたが、その他にも様々興味深い新規映像や新規ボイスなどがあるので、自分のブックマークに入っていたものをいくつかここにまとめておきます。この手の映像は円盤収録されないものなので、誰かが整理しないと後世失われるおそれがあります。どなたか有識者諸氏お願いします!

ちなみにシャフト関連以外で個人的に好きなパチスロは『うみねこのなく頃に』です。テレビアニメではなくパチスロでEpisode 8まで完結させていることが面白過ぎました。

『まじかるすいーと プリズム・ナナ』

『プリズムナナ』に関してはいつかきちんと記事にまとめます。

〈物語〉シリーズ

サミーの公式サイトで原画などが結構公開されていたり、開発者によるウラ話動画などが公開されています。

また、必見なのが『パチスロ化物語』のメインテーマであるClariS『Surely』の映像を高津幸央さんが手掛けていることです。実に高津さんらしい幾何学模様を使った映像が観られるのに、あまりにも知られていないと思うので、この映像を単体で収録したBlu-rayを発売して欲しいです(というより新規アニメーションを全部含んだパッケージを希望します)。

ささみさん@がんばらない

魔法少女まどか☆マギカ』シリーズ

『まどか』は大量にあってもうよく分かりません。

『もにラジ』番外地「2021年シャフト総括会」

夏コミに向けて制作を進めていたシャフト合同誌ですが、新型コロナウイルスの急激な感染拡大(第7波)を受けて、サークルとしての参加を控えさせていただくこととしました。せっかくスペースを頂いていたのに申し訳ないのですが、あらためまして今年の冬コミ刊行に向けて仕切り直しを行いますので、再度原稿募集の告知を出させて頂きます。何卒よろしくお願いします。

また、本来であれば現在放送中の『RWBY 氷雪帝国』と『ルミナスウィッチーズ』をテーマに『もにラジ』を収録する予定でしたが、同人誌の編集作業で立て込んでいたこともあり、収録する時間を作れていませんでした。その代わりではないのですが、今回は以前の同人誌に掲載した「2021年シャフト総括会」を全編公開します。記述として情報が古かったり誤ったりしている箇所もありますが、シャフトにとっての2021年とは何だったのかを大まかに振り返ることができると思います。なお、本記事は2021年12月上旬に収録したものです。

お便りとファンアートはあにもに(@animmony)のDMまで。どしどし募集中です!

◆参加者プロフィール

 ab@abacus_ha
静岡の鰻重は美味しいです。

 あにもに@animmony
シャフトアニメを2022年も観るオタク。それは夢。
買ってきた野菜をひとつひとつきちんと包装して冷蔵庫にしまう。

  • 【今年の振り返り】
  • 【『美少年探偵団』】
  • 【『マギアレコード2nd SEASON』】
  • 【『アサルトリリィふるーつ』】
  • 【その他のコンテンツについて】
  • 【今後の展望】

【今年の振り返り】

あにもに:今回のテーマは「2021年シャフト総括会」と題しまして、今年のシャフトについて、オタクたちが忖度抜きで好き勝手に総括していこうという企画になっています。あくまでも一視聴者からの視点ですので、実情とは異なるかもしれませんがご容赦ください。お相手は本誌の共同編集者のabさんです。よろしくお願いします。

ab:よろしくお願いします。2021年のシャフトということで、まず何よりもこの場で最初に言及しておかないといけないのは、スケジュール問題ですね。プロダクションの問題なのか、製作の問題なのか分かりませんが、あまりにも大変なことになっています。

あにもに:例年厳しいスケジュールであることには変わりませんが、今年は特にキツそうでした。テレビアニメで言うと、4月に『美少年探偵団』(2021年)、7月に『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON -覚醒前夜-』(2021年)、そして8月から隔週でウェブ配信の『アサルトリリィふるーつ』(2021年)がありました。当初の予定ではこれらに加えて『連盟空軍航空魔法音楽隊ルミナスウィッチーズ』が今年放送のはずだったのですが、『マギレコ』の放送中に延期が発表されました。

ab:『美少年探偵団』は全体のクオリティとしては満足の行く出来だったのですが、それでも後半からは時間が足りていないんだろうな、という部分が垣間見えたりしていました。シャフト作品の中では安定していて良かった方でしたが。

あにもに:『美少年探偵団』はパッケージの発売が延期になっている点を除けば、優秀な作品だったと思います。問題は『マギレコ』2nd SEASONです。こちらに関しては放送前から少し怪しい気配はしていたのですが、やはり相当苦戦していました。

ab:脚本も絵コンテも間に合っていなくて、全体が滞っていたような印象を受けました。1クールのうち総集編を4回も流す構成は驚きです。そもそも2nd SEASONとFinal SEASONで分割して放送するという構成自体がピンチの表れで、かつての『Fate/EXTRA Last Encore』(2018年)の放送形態と一緒ですよね。

あにもに:まさに「イルステリアス天動説」の時と同じ形式と言っても良いと思います。元々『Fate/EXTRA Last Encore』も放送が延期になった作品で、パッケージの発売も延期を繰り返していたので、終始綱渡りをしていた印象でした。放送が終わってから今に至るまでFinal SEASONについての情報がまったく出てこないことを考えると、年末特番も延期の可能性が高いでしょうね。

ab:今のシャフトのスケジュールは本当にボロボロと言って良いと思います。全盛期の『化物語』(2009年)の頃を彷彿とさせます。

あにもに:コロナ禍ということもあって、ある程度は仕方がない側面があるとはいえ、かなり不安定になっていますよね。一方でスケジュールの問題を差し引いて作品単体として観てみた場合、2021年のシャフトは近年で最高の見応えオブジイヤーだったと言っても過言ではないと思います。

ab:自分もそう思います。

あにもに:『美少年探偵団』、『マギレコ』、『アサふる』といった異なる毛色のアニメを、それぞれ別のチームで作っていて、かついずれもまったくスタイルが異なる作品に仕上がっていて、近年やや落ち目気味だったシャフトでここまで豊かなバリエーションが観られるとは思いませんでした。

ab:『美少年探偵団』では新しくデビューした演出家やシャフト内で新たに作られた制作部署など、制作的な観点からも非常に興味深い作品でした。今年のシャフト作品にはこうした新しい発見がいくつもあって、新生シャフトの姿を見られることができて嬉しかったです。

あにもに:これまで地道に準備をしてきた色々な流れが、『美少年探偵団』を皮切りに続々と公になった感じですよね。

ab:そして現在進行系で『ルミナス』も作っていることも考えると、さらにこうした流れがはっきりとした形で見えるのではないかと思っています。

あにもに:『ルミナス』に関しては『アサルトリリィ BOUQUET』(2020年)と共通した座組で作っているようですが、それでも今までとは違ったタイプの作品ですので、期待しています。

ab:副監督の春藤佳奈さんに関しては『アサルトリリィ』以降どの作品でもお見かけしないのでずっと関わられているように思います。キャラクターデザインの潮月一也さんは今年『マギレコ』や『美少年探偵団』にもクレジットされていませんでした。

あにもに:そういえば春藤さんは『プリンセスコネクト!Re:Dive Season2』のメインスタッフにもお名前がありませんでした。昨年発表された『ルミナス』のアニメーションPVでは絵コンテ・演出を担当されていたので、最近公開された新しいPVも春藤さんによる演出なのではないかと思っています。

ab:シャフトは少し前まではほぼ同じメンバーで制作を回していた印象がありましたが、今ではまたかつてのように複数ラインに戻ってきている感じがありますね。

あにもに:大袈裟な言い方かもしれませんが、2021年のシャフトは、かつて『さよなら絶望先生』(2007年)や『ひだまりスケッチ』(2007年)を作っていた時期と重なって見えるような気がしています。昔はよく「絶望班」と「ひだまり班」などと言われていましたが、あの時代の雰囲気が今のシャフトにはあって非常に面白く見ています。

ab:『美少年探偵団』の大谷肇監督/岡田堅二朗副監督、『マギレコ』の宮本幸裕監督/吉澤翠副監督、『アサふる』の佐伯昭志監督など、それぞれ別の作品で自身の演出スタイルを全面に出しながら作品作りをしていました。

あにもに:今回の記事では、今年シャフトが制作したテレビアニメ、配信、PVやMVなど、各作品について振り返りながら、お互い注目した点について語っていきたいと思います。

続きを読む

『もにラジ』第6回「『マギアレコード Final SEASON -浅き夢の暁-』大感想会」

シャフト作品を大いに盛り上げるためのラジオ『もにラジ』。第6回では『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 Final SEASON -浅き夢の暁-』を取り上げました。『もにラジ』で『マギレコ』を取り上げるのは3度目となりますが、今回はアニメ完結&パッケージ最終巻発売記念として再び前回と同じメンバーの北出栞さん(@sr_ktd)とabさん(@abacus_ha)をお呼びして、全体の総括を行っています。

※前回と前々回の座談会は下記リンクより読めます。

なお、本記事はアニメ版の総監督を務めた劇団イヌカレー(泥犬)氏書き下ろしによるアプリ版『マギレコ』における黒江の魔法少女ストーリーが解禁される前に収録したものです。

お便りとファンアートはあにもに(@animmony)のDMまで。どしどし募集中です!

◆参加者プロフィール

 北出栞@sr_ktd

あにもにさんが編集長を務めるシャフト論考集に『マギレコ』論を寄稿予定です!

 ab@abacus_ha

シャフトアニメしか観ないオタク。

 あにもに@animmony

シャフトアニメを東海道新幹線の移動中に観るオタク。ナーイスハッキーング。
シャフトファンのためのDiscordサーバーを作りました。

  • 【結末を振り返って】
  • 【かけがえのない絶望】
  • 【夢と革命】
  • 【失敗の物語】
  • 【無名魔法少女たち】
  • 【おわりに】
  • 【告知】

【結末を振り返って】

あにもに:今年4月にマギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 Final SEASON -浅き夢の暁-』(2022年)がついに完結しまして、あらためて作品全体の感想会を行いたく皆さまにお集まり頂きました。放送から収録まで少し時間が空いてしまいましたが、むしろあの結末を受け止める上でちょうど良い時間だったのではないかと思っています。各々語りたいことはたくさんあるとは思うのですが、最初に簡単に皆さまの感想を伺っていきます。北出さんはいかがだったでしょうか?

北出:ありきたりな言い方になってしまいますが、やはりとてつもないバッドエンドだったと思います。今日びここまでの悲劇的な結末をアニメで描くこともないよな、と……。それができたのは『魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)というブランドの力と、『マギレコ』が元々持っていた、本編に対する「外伝」という形式があったからこそだと思います。

あにもに:ソーシャルゲームのアニメは多くの場合はファンサービスや、良くても原作を補完するような映像化がほとんどだと思うのですが、たしかにここまで大胆にストーリーを変えて、その上悲劇にするというのは珍しい気がしています。

北出:身も蓋もないことを言えば、アニメ化はユーザーをアプリに誘導するためのプロモーションツールでもありますからね。ただ、こういう引いた立ち位置からの分析はオンエアから時間が経ったから言えるのであって、放送直後は完全に打ちのめされていました。特に黒江の顛末には……。

あにもに:黒江の話はまた後ほど具体的に検討しましょう。abさんはこの結末をどうご覧になりましたか? 放送直後にDMでも少しお話しましたが、バッドエンドという捉え方とは少し違うと仰っていましたが。

ab:前回の座談会でも少し言及したのですが、泥犬総監督がアプリ『マギレコ』の設定と『まどか』アニメ本編との辻褄を合わせようとしたのがアニメ『マギレコ』だったのではないかと思っています。

あにもに:たしかに『まどか』をだいぶ念頭に置いたストーリーでした。2nd SEASONにおける見滝原組の途中離脱はまさに象徴的です。

ab:今回のエンディングは、原作のアプリから捉えると完全にバッドエンドに見えますが、『まどか』シリーズ全体からすればそれほどバッドエンドだとは思いません。どちらかというと『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語』(2013年)のエンディングに近い読後感がありました。『まどか』をハッピー寄りなビターエンドだとするならば、『叛逆』は完全にビターエンドです。それと似ているような気がしています。

北出:アプリ版にもこういったビターエンドになる初期プロットが存在していたと言われていますね。

ab:ええ。たとえば、アニメで死亡する結末を迎えたももことみふゆに関しては、アプリの初期にあったイベントストーリーで死亡することを匂わせるような伏線がありました。その後ゲームでは軌道修正をしたのか、そのようなストーリーにはならなかったわけですが。

北出:『マギレコ』のアニメは「原作ソーシャルゲームの映像化」ではなく、『まどか』の外伝アニメ作品として一から作り直したという風にも言えるということですね。

あにもに:泥犬さんが放送後にアニメ版は「アプリ版マギレコという唯一宇宙を円環内にその一部分を映し取って補完した形」とツイートされていました。正直、その解釈を適用するならば何でもありのような気がしてきますが、初期プロットのニュアンスを含めてアニメを通してやりたかったことは理解したつもりです。

ab:実際にどれくらい織り込まれて再構成されているかは分かりませんが、影響は確実に与えていると思います。

あにもに:自分はこの結末に関して、さすがにバッドエンドと言ってしまって良いだろうと思っています。正確にはアンハッピーエンドですかね。主人公であるいろはの目的がほぼ何も達成されないまま望まぬ形で終わってしまったので。あと、やはりシリーズ構成の観点から見ると1st SEASONからFinal SEASONまで1本のアニメとしてきちんと繋がっているようにはどうしても見えづらいところがありました。

ab:それは1st SEASONからですか?

あにもに:1st SEASONからです。それぞれのシーズンで別の作品のように見えてしまって。それはやりたいことの方向性もそうですし、映像的な部分においても当てはまると思います。シーズンごとに分けて観てみると一貫した描写がなされているし、やりたいことも理解できるのですが、作品全体の構成から見るとどうしても歯車が噛み合っていなかった部分が少なからずあった。もし2nd SEASONとFinal SEASONが全12話で連続で放送されていたのなら、おそらく受け止め方も相当違ったとは思うのですが。

北出:スタッフクレジットも2nd SEASONからシリーズ構成に高山カツヒコさんが加わっているなど変化がありました。

あにもに:テレビアニメである以上は集団制作的な側面が当然あるとは思うのですが、様々な水準においてその乖離が見て取れた、というのが個人的な第一印象になります。

北出:あにもにさん的には2nd SEASONとFinal SEASONの間にも断絶があるといった印象なんですか?

あにもに:自分はあるように感じましたね。1st SEASONと2nd SEASONほど大きな転換はないにせよ、2nd SEASONとFinal SEASONの間にも違いを感じました。変な言い方をするならば、1st SEASONの終わりと2nd SEASONの終わりで、それぞれストーリーが分岐したようにも感じました。そう捉えるとモチーフや描写が不連続的であってもある程度納得できるものがあります。これは完全に自分の印象論に過ぎませんが。

続きを読む

「週末批評」に『傷物語』論を寄稿しました

てらまっとさん(@teramat)が主宰している「週末批評」という様々な評論を集めたウェブサイトに、3年前に自分が書いた『傷物語』論を寄稿しました。少し長めの文章ではありますが、『傷物語』だけではなく、その他のシャフトアニメについても扱っていますので、読んでもらえるとありがたいです。

むかし論考を読んでくださった方より、「『絶望先生』好きじゃないんですか?」と聞かれたことがあったのですが、好きじゃないわけありません!当時、何回観たか分からないくらい観ていて、特に『絶望先生』と『まりあ†ほりっく』などは、「逆に映像を一切観ずに音だけ聴いたらどうなるんだろう?」と、さっぱり訳の分からない視聴をしていたくらい好きでした。何卒よろしくお願いします。

『魔法少女まどか☆マギカ』新房昭之研究会

ゴールデンウィーク、都内某所にて「劇団新房昭之研究会のウワサ」なるものが出没したので参加してきました。

どうやらツイッターのシャフトガチ勢が集まり、『魔法少女まどか☆マギカ』1話を鑑賞しながら全カットを止めて映像分析する会のようでした。最近流行りの倍速視聴とは逆行していますが、とても濃密な討論が繰り広げられていて大変刺激を受けました。

あらためて『まどか』1話を観て最初に自分が思ったのはPANUPの使い方に関することでした。『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [前編]始まりの物語』との対比で考えてみると分かりやすいのですが、教室でほむらが自己紹介をするシーンを比較してみてください。テレビ版では通常のPANUPだったのに対して、劇場版では作画PAN(尺も大幅に増えている点も、本来再編集版は尺を詰める作業が求められることを考えると見過ごせないポイントだと思います)で描かれていて、後者は明らかに新房監督のテイストが滲み出ています。

劇場版とテレビ版の比較動画です。大事なPANの始点が切られてしまっていて残念ですが、違いは分かると思います。

PANUPに注目してみると、まどかと詢子が洗面所で会話するシーンで、朝の支度を終えて決めポーズをするカットが、テレビ版ではノーマルのPANUPで見せていたのに対して、劇場版ではFIXで引きの絵になっています。ここで興味深いのは、テレビ版ではキャラクターの全身を見せる紹介カットをPANUPの連続で映していたところを、劇場版では観客が最初に目撃するPANUPがほむらの渾身の作画PANになっている、という点です。

劇場版では観客がまどかの視点により入り込めるように映像を再構築してみせた、と新房監督がインタビューで述べていたと思いますが、自分の記憶が正しければそこではテレビ版の1話アバンにあたるまどかの夢のシーンをカットしたことが挙げられていました。たしかに夢のカットは大胆なアレンジなので、それと比べたら些細な違いのようにも見えるかもしれませんが、個人的にはここのPANの差異は同程度に重要な要素に思えてなりません。ほむらの作画PANのカットは実に新房監督っぽいな~と感じる部分ですが、それと同時に劇場版を観ていて一番はじめに不吉な違和感を抱く部分でもあるので、演出として非常に効果的かつ正確な描写だと思います。1話の絵コンテは芦野芳晴さんでしたが、新房監督の作風が相当出ています。

……といった余談をする時間もないくらい、研究会は充実していました。また次回も開催希望です。